ファレンス、5
あれから5年も経つというのか……。師より先に死ぬなんて……。なんて不孝者なんだ……。ああ……。
わしの知らないところで何があったのか……。わしが去った時は十分に好青年だった、わしの教え子全員の中でもトップクラスに優秀な子であった。自殺なんてするような子ではなかった……。わしも若かったし、何かが行き届いていなかったのだろう……。もっとしっかり教育しておかなければならなかったのだろうが……、もう何をしていいのか……、今から考えてももう遅い……。
王が20歳になった時私は一度この国を離れた。20歳のころの王はまじめな好青年だった。だからわしもこの国を離れることができた……。王の成長が私の自慢であり自信だった……。わしはもっと多くの人をわしの教育で導きたいと思った。この乱世、明日食うものにも困るこのご時世、助かるにはここの知識や知性が必要じゃった。それを分け与えるために、一人でも多くの人が幸せになるようにと思って……。
しかし再びこの国に戻った時王は変わっていた。たった10年離れている間に……。原因はわからない。最初は当時の宰相トラーノの親父に王の面倒をと頼まれたのだが、王には邪険にされ、結局その2年前に生まれたイーリス様の面倒を見ることになった。王はわしにはまだ敬意を示してはおったが、日に日に暴走していく王をわしは止められなかった。
わしははじめから教育者なんて器ではなかったのかもしれない。我が弟子たちはわしとは違う道を見つけてくれると嬉しいのだが……。
いや、あきらめるのはまだ早い。今でも思うが王が死はどう考えてもおかしい。王は自殺なんかしない。たとえどんなに心がおかしくなっていたとしても……。自ら命を絶つ愚かさは幼少のころから口を酸っぱくして言ってきたし、それは特に教育というほどのことをやっていないイーリス様やレポンス様にも言ってきたわしの変わらない信念じゃ。王は乱心であった頃もしっかりわしには敬意を払っておった。パーティーには必ずというほど招待状が来ておったし……。その王がわしの教えに、わしの大切にしてきた信念を無下に扱うことは想像できない。あれはおそらく他殺じゃ……。
現場の状況的にはソルナード総司令殿が何らかの指示を出したと考えるのが妥当なのじゃが、王はあのころ疑心暗鬼で常に手に届くところに剣があったし、幼少のころから一流の剣術は扱える。そんな王を現役の兵士とは言え、無傷で王を突き飛ばすというのは考えにくい。誰も信用していない王のことじゃ、まず近寄ってきた時点で何らかの行動を起こすだろう。寝こみを襲うならまだしも、あの時は昼間じゃったし……。睡眠薬を使ったという場合なら……、いや、王が何かを食べるときは必ず毒見をさせる徹底ぶりじゃったしな。
となるとやはり怪しいのは、……ルードじゃろう。政権を握っているのはトラーノじゃが財政を握っているのは奴じゃ。実質奴の首が縦に振れなければこの国は回ってゆかん。それにこの前偶然奴を見たときに驚いたものじゃ。まさか我が国の地下で莫大な金があるとは……。その前でニヤついている奴の姿ときたら……。確か財務大臣直属の暗殺部隊なんかがあったような……。あいつが何かをたくらんでいることは間違いない。今まではイーリス様の周りを飛び回る害虫ぐらいにしか思っておらんかったが、あいつはイーリス様だけでなくこの国を……。王が死んだのは序章に過ぎない。長年の経験からくる勘がそう言っておる。
そもそもあいつが財務大臣についていること自体わしにはわからん。確かに仕事ぶりは評価に値するが他にも適任者がいたはずじゃ。わしがこの国を離れる前にいた財務大臣、クライムはどこに行ったのじゃ?あいつの働きぶりはルードのとは比べるまでもなくよいものじゃったし、よく気配りもできておった。王宮に戻った時に真っ先にいろんな人に聞いたが、何もわからずじまいじゃった。
あいつがいればわしもこんなにそわそわしている理由はないというのに……。




