ガルネシア王、0
ついに、ついにあの憎きトルニエを追い出してやった。あの一件は昼間のことだというのになかなか寝付けない。思い出すだけで腹が立つ。奴は奴隷の身分から身一つで将軍にまで成り上がったそうじゃないか。それだけの才覚……、きっちり殺しておけばよかった。情けなんかかけずにあの時あいつが俺の前に現れたときに!胸糞悪い!トラーノのやつは一体全体何のためにあいつを生かしたんだ!
「野垂れ死ね!」
大きな声を出しながらとりあえず近くにあった椅子を思いっきり蹴っ飛ばす。壁にぶつかって椅子は壊れた。チッ、思ったより自分の足が痛い。
イライラする!
椅子が壊れる音か俺の叫び声かを聞きつけて侍女数名が俺の寝室に入ってきては椅子の片づけを始める。餌に群がる鯉のようにわらわらと!目障りだ!
「失せろ!」
近くにあった花瓶を蹴り飛ばす。
「落ち着いてください、王様。」
侍女の一人があろうことか俺に向かって調子に乗って指図をする。
「今なんて言った?侍女風情が俺に指図するとは!」
今日は、誰でもいい気分なんだ!
「お許しください。王様。先ほどは出過ぎた真似をしました……。何でもしますから……、どうかお許しください……。」
その侍女は俺の激昂を前に頭を地に伏し涙ながらに懇願する。
クズが!謝るくらいならはじめから口に気をつけろ!
「ええい!目障りだ!消え失せろ!クビだ!今後二度と俺の前に姿を見せるな!」
しかし、女は動かなかった。
「お許しください。私には家がなく私を拾ってくださったシスターのためにも立派になって恩返しをしなければなりません。私がお仕事を辞めさせられるようなことがあってはシスターに合わせる顔がありません。」
「そうか……」
1度ならず2度までもこの俺の命令に逆らうとは!クズが!
俺はベッドの横にかけられていた剣を抜き、女の首を狙ってそのまま振り下ろすと、その女は二度と口を開くことはなくなった。
この瞬間、生き物が物に変わるこの瞬間を見るといつもどこか心が落ち着く……。謹慎処分にしてあるトルニエもいつかこの手でできれば……。
クソが!また、眠れなくなってしまった。まあ、少し夜風にでも当たってくるか……。
「おい!お前!この汚いのを片づけておけ!」
残りの侍女に肉塊の片づけを命じ、葉巻を持って部屋を出る。
この衝動はいつからだろう……。この衝動が強くなったのはここ数年だが、その原因はきっと20年前だろう……。
クリーム、どうしてあんな女を……。もう20年経つというのに未だにもやもやとした鬱憤が心に残っている……。クズが!
ああ、愛しのエルナよ。
また俺を甘やかしてはくれないか……。
また俺を愛してはくれないか……。
また俺の前に……、現れてくれ……。
立ち込める煙は形を保つことなく夜の闇に消えていく。