メンデル、3
ファラニクス王国は平和の国……。最近ではそう言われるようになった。しかし、それは違う。安定な生産は国民の生活を安定させると同時に豊富な資源を略奪しようとする敵を引き寄せてしまう。豊富な資源と言っても国民一人一人が頭を抱えながら、汗水垂らしながら今まで頑張ってきた成果であり簡単に手に入れたものではない。カスどもにくれてやるにはあまりに惜しいものだ。しかし、平和でいることが逆に争いの種となっているのは皮肉な話だ。
今までにもなかったわけではないが最近は略奪者の出現の報告が多い。今日も廊下をバタバタと駆け上がってくる音がしてくる。どこかに敵が現れたようだ。大きな音を立てて扉が開くと伝令係の赤い服を着た兵士が入ってきた。
「メンデル様!敵襲に遭い第1防衛ラインが突破されました!」
ファラニクス王国は敵襲に備えて3つの防衛ラインがあり、それぞれに罠が張ってある。第1防衛ラインを突破する敵は近年では稀だ。相当な敵なのだろう……。しかし、
「第1防衛ラインを突破されたぐらいでうろたえるな!」
焦るには早い。今まで第2防衛ラインまで突破されたことはない。
「敵の軍容は?」
「ええっと、野盗かなんかだと思います。かなりガラの悪い連中が中心にいました。総勢5000程度ですかね。ファラニクスを落とすということで近くの荒くれ者どもが結集したようです。しかし、敵の強さは想像以上ですよ。名乗りを挙げた敵の大将のゴルジオ、あいつ一人でほとんど壊滅しました。」
ゴルジオ?聞かない名だが第1防衛ラインを突破されたということは侮ってはいけないということは間違いない。
「第2防衛ラインにオーネンスやロプナスは向ったのか?」
「はい。また、住民はすべて第3防衛ラインの内側まで退避を完了させました。」
「そうか。なら大丈夫だろう。ワンマンチームほど容易い敵はいない。集団戦術を熟知しているオーネンスたちが向かえば奴らの快進撃もそこで終わるだろう。」
……出番はないようだ。前線の兵士に落ち着いてことにあたるように伝令係に伝える再び公務に戻る。
しかし、その数分後、再びバタバタと足音が響く。
「報告です!第2防衛ラインの防衛に当たっているオーネンス様から報告です!」
オーネンスが行けば大丈夫とは思っていたがずいぶん早いな……。
「至急、メンデル様には第3防衛ラインに入り指揮を執っていただきたいとのことです!」
「何!?第2防衛ラインは突破されたのか!?」
驚いた。地の利も罠もある状況でこちらが二つも突破されるだと!?
「何でもそのゴルジオを削るのに躍起になっていたところ、敵の伏兵に裏をとられたとか……。今、第2防衛ラインにてオーネンス様が殿となり、ゴルジオ軍を足止めしておりますが、……時間の問題かと思われます。つきましてはメンデル様、第3防衛ラインに入り軍の指揮をお願いいたします。」
伏兵……。
「そういうことならばしかたあるまい。」
敵にはそうとうな切れ者がいるようだ。第1防衛ラインを突破した後に作ったのか、それとも最初から想定して準備をしてきたのか……。ここで考えても情報がなさ過ぎて結論は出まい。
急いで支度を整え第3防衛ラインに向かう。
街から少し離れた開けたところが第3防衛ラインだ。第3防衛ラインは最終ライン。ここを抜かれれば街は目と鼻の先。この国は略奪の限りを尽くされるだろう。私には戦わなければならない理由がある。
「戦況は?」
「オーネンス様が劣勢の中、第2防衛ライン付近で敵の足止めを図っています。しかし、物見の報告では長くてあと1時間が限度と言うことです。」
「十分な準備ができていると思うがこれではだめなのか?」
陣形は十分整っている。
「ええ、第2防衛ラインも万全の準備があったのにもかかわらず突破されました。」
「そうか、ゴルジオを押さえれば何とかなるというわけではないのだな。」
「ええ。」
「これまでの戦況を詳しく頼む。」
……戦闘をどう組み立てるか。戦闘のことはオーネンスたちに任せてここ何年も前線に出ることはなかった。私は一応ほぼ毎日稽古はしてきたが、実戦と稽古は違う。おそらく稽古の半分の力しか発揮できないだろう。聞いた情報を整理するとゴルジオという男は相当な武闘派のようだ。私は知らなかったが最近力をつけてきた荒くれ集団らしい。たかが荒くれ者にうちの防衛ラインが簡単に突破できるわけがない。何より相手の軍容や名だたる将、構成、いろいろ知って初めて作戦が立てられる。向こうが万全の調査状態ならこの戦いは厳しくなる。それでも負けるわけにはいかないが……。
とりあえず優先すべきは敵を知ることだな……。
「オーネンス様とロプナス様が戻って参られました!」
ちょうどいいところに!
部隊を第2防衛ラインに残し撤退してきたらしい。あと1時間程度で第3防衛ラインの戦いが始まる。直接戦ってきた二人に敵の軍容や特徴などの説明を詳しく聞いた。しかし、聞けば聞くほどますますゴルジオと言う男がわからなくなった。
仕方がない。
「今までの情報から考えられる策は2つ。第1防衛ラインを突破したときのゴルジオを中心とした正面突破によるもの。そして第2防衛ラインを突破してきたそのゴルジオを囮にした別働隊による奇襲によるもの。共通しているのはゴルジオの個の戦闘力が策の要であること。そこで正面にてゴルジオを迎え撃ち、なるべく時間をかけずに撃破する。とにかくゴルジオを討つことが最優先である。そこでゴルジオが出てきたら私が直々に迎え撃つ。それは一騎打ちなどと思わなくてもよい。チャンスがあったら横やりを入れてゴルジオを討ってくれ。」
ロプナス近衛兵長が手を挙げる。
「それは納得いきません。まずメンデル様が最前線に立つなど……。万が一この国からメンデル様がいなくなってしまったら、それこそ勝っても我々は崩壊します。私にその大役を任せていただけませんか?」
……その目に賭けてみるか。
「……わかった。」
次はオーネンスが手を挙げる。
「メンデル様。それでは別働隊に回り込まれ背後から敵襲を受けることになりませぬか?ゴルジオ一人止めるのも相当難しいというのにさらに挟み込まれるとなると我々は手も足も出ません。」
「わかっている。オーネンスは索敵部隊と討伐部隊を編成し、いつでも出せる態勢をとっておけ。逆の見方をすれば第2防衛ラインではゴルジオ一人で突破できないから伏兵を使ったとも取れる。そう考えれば今回もゴルジオのみの攻撃と言うのは考えにくい。必ず別働隊を作ってくる。問題はその奇襲部隊がどこから現れるのかということだ。第2防衛ラインの時は敵がわが軍の裏から現れたため立て直しが効かなくなった。だからと言って我々が索敵部隊を作った場合、すなわち軍を広く布陣させた場合、当然中央は薄くなる。裏に回り込ませると思わせてその部隊を時間差でゴルジオのいる中央から一点突破させた場合我々が今並べられる1万程度の兵では、ここはおそらく持ちこたえられないだろう。逆にいうとその部隊の動きを読み切るのがこの戦の肝だ。こちらの作戦は中央を厚くしゴルジオを討つ。と同時に少数の索敵部隊を放ち、見つけ次第、笛で合図してもらう。そこへ討伐部隊を送るのは敵の伏兵に対してピンポイントで送る。合図があるまでは討伐部隊はゴルジオを討つのに力を尽くしてくれ。ゴルジオが強いと言えど一人の力では限界がある。我々はゴルジオを討つこと、そして、ゴルジオからその別働隊の存在を読み取ること。それだけを意識してほしい。どちらかが終わればこの戦は勝ちだ。」
「……わかりました。索敵部隊を編成しておきます。」
オーネンスは足早に立ち去った。
それから数十分後、遠方から砂煙が上がる。
荒くれ集団か……。野生の人間を見るのは久しぶりだ。どいつもこいつも隆々としたたくましい筋肉を持っている。しかし、聞いていた報告に比べて明らかに人数が少ない。せいぜい3500程度だろう。と言うことは伏兵部隊として1500はいるというのか。その数を我々に気付かれずに背後に回すことが果たしてできるか?
まあいい。別働隊に1500も使うということは主攻が1500人分の攻撃力ダウンということだ。果たしてそれで大将のゴルジオを守り切れるか!?
というかどいつがゴルジオだ?
「ゴルジオがいない!」
隣で見ていたロプナスが叫ぶ!
……ゴルジオがいない?
その可能性は……、まあ、あるな。別に驚くほどではない。
「ロプナス!お前は兵を引き連れてあの向かってくる敵を討て!容赦はいらん。中央攻撃が掻き消えればおのずと勝ちだ。」
「了解しました!」
そういうと大軍を連れてこちらも向かい討つために進軍し始めた。
「オーネンス!早速索敵部隊を出せ!ゴルジオ抜きで突撃すれば敵の中央軍が敗北するのは目に見えている。短期決戦に持ち込む気かもしれない。まだ第2次中央攻撃の可能性は残っているから討伐部隊は出すなよ!」
「了解しました。行ってきます。」
オーネンスは立ち去った。
どう出るゴルジオ!
守りのメンデルと呼ばれた私からこの国奪えるか!?
久しぶりにワクワクする戦いだ!




