ソルナード、3
この世界にあってガルネシア王国が大国でいられる理由はひとえに他を圧倒する軍事力に他ならない。世界最強の剣技と称される弐刀天承を操るザンゾニスをはじめとした大陸最強の部隊があること、そして、私のような軍略家と呼ばれる人間が何人もおり日夜新しい兵法や新しい兵器の開発に尽力していることがその所以である。まあ、これは強い軍隊があったから戦術の研究ができたのか、戦術の研究するものが多かったから軍が強いのかという鶏が先か卵が先かという問題があるが、いずれにせよ、最強の武と至高の知の相乗効果がこの国を大国足らしめているのは間違いない。
他の弱小国のようにどちらかが弱ければ簡単に滅ぼされてしまう。それが実現できるのは政を司る宰相が国や世界の構造を理解しており、財務大臣が軍事の重要性を理解して十分な予算を回しているからだ。大国になるために必要なことはたくさんあるがそのどの歯車が狂っても大国足り得ない、逆に言うとガルネシア王国は大国たる理由があるということだ。まあ、王という狂った歯車を中心にそろそろ瓦解しそうでは……、いや、よそう……。
こうして絶大な軍事力を持つ我が国だがそれにあぐらをかくことはない。この乱世、いつ今の安寧がひっくり返るかはわからない。その為にも常に最新、最先端を常に追い求めていかなくてはならない。有能な政府の方々の協力によりわが軍ではガルネシア王国にしかない新兵器を開発するための研究所を設立することになった。かれこれ5年前か。
そこで作られているのは毒物だ。武器を持って斬った斬られたをするだけが戦ではない。邪道だなんだと言われたところで結局のところ死人に口はない。正義は勝った奴が決めるものだ。どう人を壊そうが勝てばいい。やらなくてよいならそれが良い。
そして、武人として生まれた以上は天下をとるために戦うべきだろう。王が安定しない今は打って出ない方が良いが、いつでも大戦に備えて戦える準備をしておかなくてはならない。
軍が造った研究施設では毒性のありそうな植物や毒を持っている動物を採取しては軍事利用できないか日々模索している。ここには方々優秀な研究者が集まっている。集まっているというのも変な話だな。私が集めてきた知のザンゾニス隊と言っても過言ではない研究チームがここにある。
「クードル博士、研究は順調ですか?」
今日は研究施設のロビーでその所長であるクードル博士に現状の様子を聞きにやってきた。数々の才能ある研究をしているところに目をつけこの研究所に登用した。この人から出てくる発明品はすごいものが多く、あっという間にこの研究所で認められ所長まで上り詰めた。あの堅物で有名なファレンス様も大絶賛した睡眠薬を作ったほどだ。
「これはこれは、ソルナードさん。どうしてこちらへ?」
どうしてもこうしてもここは私が軍事利用するために作った研究所だ。来ておかしいことはないでしょうに……。それにアポイントをとるといつもあなたいないじゃないか。
「様子見ですよ。何か進展はありましたか?」
「ええ。かなり使えるものを一つ調合できました。」
「ほう、どんなものですか?」
「これですね。飲んだものは隠していることをしゃべってしまうんです。自白剤として使えます。総司令が連れてきた捕虜に試しましたが我々の質問にはほとんど答えていましたよ。」
「自白剤ですか?」
そんなものを頼んだ覚えはない!この研究所には薬物兵器というか毒薬を作るようにお願いしているのだが……。ファレンス様に差し上げた睡眠薬だって本当は別に作ってほしくて作ってもらったものではない。今回の自白剤も使えないことはないが……。
「どうやらこの薬の効果を疑っておいでですね。安心してください。本物ですよ。捕虜Aの証言によると服用する前は強情に何も語らなかったのですが、服用後はベラベラです。彼の好きな食べ物はキウイフルーツ、程よい酸味がたまらないそうです。」
何だその質問?親睦会か何かか?
でも確かにその根拠までしゃべらせたとなると効能は確かなようだ。
……じゃなくて!
「毒性は?」
私が欲しているのはこの一点だ!
私の質問に対しクードル博士は少し不機嫌そうな表情をする。
「毒性ですか……。3回服薬したものがおりますがほとんど健康被害はないようです。あっ、ただ、飲んだ後はちょっと気持ち悪いです。」
「気持ち悪いですって……。えっ、博士も飲んだのですか?」
「ええ。まあ主任として責任をとらなくては……。」
「やめてください。あなたの頭脳は我が国の宝なんですから。」
「いえいえ、それほどでも。」
博士は嬉しそうに頭を掻く。
ほんとうにつかめない人だ……。彼と出会ってもう3年経つというのにクードル博士が未だにわからない。そもそも人体に無害な自白剤なんてものを作るよりも致死性の毒物を作る方がはるかに簡単だと思うのだが……。それは素人の浅知恵なのだろうか。
「次は戦闘で使えるものをお願いしますね。」
「……ええ。」
「それでは私はこれから王とトラーノ宰相に戦況報告があるので帰ります。ああ、あといつものありますか?」
「あれですか……。いつも大量に持ち帰られますがあれはやめた方がいいですよ。何より健康に悪い。」
「多少健康に悪いのは承知の上です。あれがないと大変なことになるので……。」
「まあ、今の様子だと問題はなさそうですがくれぐれもお気をつけてくださいね。」
「わかりました。ありがとうございます。」
小包を受け取って研究所を後にする。健康に悪かろうがなんだろうがこれがないと私のクビが飛んでしまう。
国ではかなり偉い方であるが煙のように儚い立場に今の私がいる。




