ルード、3
「今日はどんな無茶を言う気ですか?」
まだ朝っぱらから城門の前で一介の大工に過ぎないブロームはつまらなそうにそう言った。今までだってそこまでの無茶を言った覚えもないし、報酬だって相場の2倍は与えている。それなのにこの男ときたらなんでこんなに偉そうなんだ?
この乱世において大工という仕事を専門に取り扱っている者はほとんどいない。力仕事ができる男たちは基本的に戦場に駆り出されて街にはいないからだ。本来この国の首都に男がいるとしたら我々のような国の中枢にいる人物か、休息を与えられている兵か、研究を専門にやっている者か……、考えればいっぱいいたな。それでもブロームの仕事は珍しい方だ。
こいつとの出会いは数年前か……。兵士としてあまりに役に立たないとソルナードから処分に困ったごみのように渡され、見かねた私が今の仕事を紹介して今に至る。最初のころはただ家を建てるということにもそれなりの知識や経験が必要で必死に試行錯誤を繰り返していたが、今では小さな王様気取りだ。昔はあんなに臆病だったのに、人は変われば変わるものだな……。いや、朝っぱらに呼び出されてちゃんと来る辺り変わってないのかもしれないが……。まあ、こいつのことはどうでもいい。私にとってもっと大事な人がたくさんいる。こいつは仕事さえやってくれればどうでもいい。
さてと、本題に入るか……。
「今月からお前には王宮より西の地区のすべてと建物に対して改修および整備を行ってもらう。」
ガルネシア王国の首都キューレスはほかでは類を見ないほど隅々まで行き届いた街だが、街内で比較するとやはり差が目立つ。ほとんどこいつが中心になって作った街だ。最初の方に作った街と最近作ったところでは技術的が違うため一目瞭然だ。ガルネシア王国の官僚は余計な出費が出ないように皆ドがつくほど真面目に働くため……だけではないが財源に余裕がある。それを少しずつとは言え国民に還元していくのも私の仕事だ。
しかし、クルドフから聞いていたがこの男……。
「嫌ですよ、ルードさん。まったく私ばかり仕事を頼んで!少しは休ませてくださいよ!」
「すごいでしょ、この人。近頃はこのさまなんですよ。」
後ろにいたクルドフが小さい声でつぶやく。確かに調子に乗っている、もはや調子に乗っているというほかに言いようがない。誇りのない人間というのはこうも環境によって自分を見失うのか……。
「これはすごいなんてものじゃないぞ、クルドフ。いつからこうなった?」
「だんだんですね。でかい態度をとるようになってきたのは……。他に頼める人材がいないことがばれているんですかね?」
「それもあるかもしれないな。しかし、こんなやつにくれてやる時間はない。こんなのとっとと終わらせよう!」
「どうする気ですか?ルード様。」
「クルドフ、あれをとって来い。強攻策だ。」
「あれですか……」
「ああ、キングはキングでもチェスのキング、駒の一つにすぎないってことに早いとこ気付いてもらう必要がある」
クルドフは王宮内に向かった。
「ちょっとクルドフさんはどちらへ向かったんです?」
ブロームがにやけ面で言う。腹立つな!
「おい!ブローム!」
「何ですか、ルードさん?」
「どうしてもやらない気か?」
「ええ。まあ手当てが今の倍になるならいいですけどね。」
今ある財源をもってすればこいつに払う金を倍にするくらいはわけないが、このままだとずっと調子に乗ったままであることは必然だ。だいたいこの前だって給料上げてやったばかりじゃないか!
「お待たせしました。」
クルドフは私の部屋にあった剣を持ってくる。
「ご苦労だったな。お前はもう王宮の中に戻っていていいぞ。」
「いえ、大丈夫ですよ。そんな汚れ仕事は私がやりますよ。」
「気にするな。組織のトップたるものに必要なものを組織のトップたる私がじきじきに身に持って教えてやる。」
「そうですか。まあ、じゃあ、コーヒーでも入れておきます。」
「頼んだ。」
クルドフはこの場を離れた。
「ルードさん、クルドフさんと何を話しているんです?」
「まったく、調子乗るな!」
飄々とした態度で近づくブロームに怒鳴り声をあげて剣を抜くと
「ヒィー、わかりましたよやりますよ!やらせていただきますよ。」
と言って計画書を血眼になって読み始めた。
「じゃあ、やっとけよ!」
そう言い残し王宮内に戻ろうと身を翻す。確かに脅すつもりで取りに行かせたよ。だけど、剣を抜いただけでその手の平の返しようときたら……、わざわざ剣をとらせにいった私の方が恥ずかしいわ。もう少し粘れよな……。
私も王宮内に戻ろうとすると、驚くことにイーリス様とレポンス様が入口から出てくるではないか!そのあと少ししてファレンス様が出てくる。剣を持って脅しているところを見られてはいないだろうか……。暴力的な奴だと思われたら……。もちろん私に人を殺す気などない。そもそもこんなゴミみたいなやつを殺すことに何の意味もない。
すれ違いざまに挨拶だけして身を縮めるようにして自室に戻る。
部屋に戻ると先に戻っていたクルドフがコーヒーを持って近づいてくる。
「お疲れ様でした。」
「ああ、本当だよ。大した手間がないのが逆に疲れたよ。」
「それにしても嫌ですね、ああいう汚れ役は。」
「ああ、でも仕方ないだろう。国のこれからを考えたらどうしたって街の整備はいる。あんなのでも腕だけは確かだからな。」
「そうですね。これからどうしますか?」
「いや、もう一眠りするわ。昼から会議があるんだ。1時間たったら起こしてくれ。」
「わかりました。私はやることやっておきます。」
「書類作成は昨日のうちに終わっているだろ?たまには一緒に行くか?」
「いえ、あのー、ブロームの件でまた予算をやりくりしないといけませんから……。」
「確かにそうだな。なんか悪いな。」
「いえ、お気になさらず。」
部屋にあるソファーに横になり毛布を掛ける。




