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バルヴァン、0

この国を出てこの国を滅ぼす。

王宮の馬小屋で愛馬の体をブラシで洗っていると戻って来るなり、トルニエ様はそう言った。まあ、そういう心変わりをする何かがあったのだろう。バルヴァンには感情も願望もない。トルニエ様にお仕えし、トルニエ様の指示に従うだけ……。


その日の夜、首都にあるトルニエ邸にトルニエ様の部下たち合わせて5人の男たちが集まった。トルニエ様とバルヴァンのほかにはトルニエ軍副官として長いことトルニエ様を支えてきたバーナフと主に諜報活動を行っていたテンガロ、そして、バルヴァンの弐刀天承の弟弟子のボルドフの5人。

トルニエ様は小刻みに体を震わせてうろうろとあたりを歩き回っている。相当イライラしている様子だ。他の人たちは前線を放り出させられてトルニエ様がわざわざ家に招待した理由を知らない。トルニエ様がイライラしている様子を見て、それぞれ緊張感を高めていた。全員が小部屋に入ったところでトルニエ様が口を開く。

「本日皆に集まってもらったのはほかでもない。俺はこの国を滅ぼすためにこの国を出ることにした!」

トルニエ様の突然の発言に皆唖然とする。バーナフが恐る恐る手を挙げて言う。

「あのすみません。ついこの間まで俺はガルネシア王国一の大将軍になってやる!戦がすべて、戦するなら大国に属するのが一番!俺が大陸一の将軍だってことを証明してやるぜ!この国で戦えて本当によかった。とか何とか言っていましたが……」

「その件についてはすべて忘れてくれ!」

「ちょっとすみません。少しお時間をいただいても?外に出て気持ちを整理したいのですが……」

「……ああ」

そういうとバーナフとテンガロは部屋を出て行った。トルニエ様がそうすると言っているのだ、これからそうなるだけのことで、気持ちを整理するだとか時間が欲しいだとかバルヴァンには分からない。それよりも開始10秒でまた休憩になってしまったこの会議を早く進めてほしい。


数分すると皆戻って席に着く。バーナフは言った。

「ちょっとすみません。トルニエ様が突拍子のないことを言うのは珍しくないですが何がありました?そこからお話し願います」

「ああ、理由は簡単だ。俺が王を嫌いだから奴のためになる戦いをするのをやめる。それだけだ。」

トルニエ様は腕を組んだままぶっきらぼうに答えるとまた、バーナフは深く考え込んだ。


「今日は確か論功行賞でしたよね?恩賞が少なかったのですか?」

何も言えなくなったバーナフに変わり、テンガロが言った。

「恩賞が少ないなんてもんじゃない!あいつ俺になっていったか知ってるか?あの野郎俺が嫌いだから謹慎処分にするって言ったんだぜ!信じられるか!?」

トルニエ様は興奮気味にそう言うと、

「えっと、それは何の話ですか?」

「今日の話だ!王に呼ばれた理由だよ!」

「トルニエ様を謹慎?王様は時々わけのわからないことをさせるが、今回はかなり不可解ですね。何らかの意図が隠されているとしか……。そんなことを考えても仕方がないですね。ただ、謹慎と言うことは解けたらそのうち戦場に出れるのでは?」

バーナフが考えながらそう言ったが、

「そんなことはどうだっていい。俺は武人だぞ!戦いの中でしか生きられないんだよ!今、戦場に出られない以上俺がここにいる意味はない。」

「……そうですか。」

バーナフは再び黙りこくる。


「そう言うことだ。みんな、頼む、俺についてきてくれ!」

「はい」

トルニエ様がそう言えばバルヴァンはついていく。トルニエ様のの思うままに。

「師匠が行くなら俺もついていきます。」

ボルドフは間髪いれずにそう答える。バーナフとテンガロも少し間をおいてから言った。

「それに関してはもちろんですよ。私もトルニエ様のいない戦場では楽しくないので」

「ついていきましょう!どこまでも!」

皆、同意見だった。

「ありがとう」

トルニエ様は頭を下げた。偉そうなのに驕っていないところがトルニエ様のいいところだ。


「それで具体的……、というのは難しいですが、今後どういうビジョンを見ておられるのでしょうか?」

バーナフが質問する。

「ああ、俺は武人だからな。暗躍してこの国を瓦解させることもできると思うが、やはり戦争を起こして滅ぼす!だが、そうなると問題なのは兵がいないということだ。そこでこの国を滅ぼすために奴隷制度に目をつける」

「というと?」

「時間をかけて奴隷を中心に水面下で反乱軍を組織させる。」

「まあ、他国に亡命したとしてもガルネシア王国と全うにやりあえる国は西の端のボーネン王国ぐらいでそれこそ見通しが立ちませんから、内部で作るというのは賛成です。ただ、奴隷と言ってもガルネシア王国にいる奴隷は特に虐げられているわけではありません。それなりに仕事もありますし、福祉も充実しています。ガルネシア王国に対して強烈な不信感や不満を持っている者は少ないと思いますが……」

「それは知っている。けどそれでも不満や不信感を抱いている奴はいるはずだ。まあ、奴隷じゃなくても不満を持つものがある程度集まればそこからいろいろ吹き込んで勢力を拡大することは可能だろう。俺みたいに王によって不当な処分を下された奴もいるだろう。そういうやつらを時間をかけて集める。」

「確かに、王は人を殺しまくっているという噂は上層部がしていました。俺が戦果報告に行ったときについでに癖で噂を追ってましたら、そういう話を聞きました。」

テンガロが思い立ったように口にする。

「なるほど。まあ、王が少し変と言うことは軍の上層部に来て初めて知ったことですが……。それならモチベーションは申し分ないですが、ガルネシア王国を滅ぼしうるだけの数が集まりますかね……。」

「まあ、実際に仕掛けるときには伏兵として使うかもしれないな。だから、これからそれとは別に主攻を用意する必要がある。ガルネシア王国内部で反乱軍を組織しつつ、それを探しに行く。それなら軍の規模も中規模でいいから、ボーネン王国のような大国の融通のきかなそうな力を借りる必要もない。」

「それに、ガルネシア王国と大国ボーネン王国は政略結婚で繋がっているのでけしかけるのは難しいでしょうね」

「まあ、その辺にいいのがいなかったら、ボーネン王国を何とかするさ。まあ、反乱軍がものになるかにもよるしそれは後で考えるとして……。この計画の肝である反乱軍の組織をテンガロ!お前に任せたい!」

「僕ですか!」

テンガロはちょっと間を置く。

「わかりました。やらせていただきます。期限は?」

「あのチキンなトラーノのことだ。耳に入ったら積極的に潰しに来るだろう。だからゆっくりでいい。こっちの準備もあるし、10年だな。時間はあるから水面下で進めてくれ。」

「はい。」

「頼んだ。俺たちの居場所は報告するから反乱軍の様子の連絡は頼む。他の4人は俺について来い。もう一度、この戦乱の世に一旗揚げようじゃないか!」


これから波乱の人生になりそうだ。



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