スライル、3
いつ開校するか……。確かに今までは目の前のうまくいかないことに全力で取り組み克服し、うまくいったことを皆で喜び合った。そうしてゆっくりゆっくり私の考えを、そして戦争回避の考えを染み込ませていった。7年間続けてきてわかってきたことも多い。今までの傾向から集の規模が大きいほど交渉は難しい。人が多いだけで様々な感情があるし、なにより大勢を束ねるリーダーには大勢を束ねているという誇りがある。見た目が強そうとは言えさすがにこの数人に命を預けるなんてことは難しい。
そして、トルニエが言うように大陸中にまだ浸透しているとはいいがたい。私の知らない間にセイナー新聞なるものが世の中に出回っているらしい。私たちがやったことに対して後追いの形で広まってはいるが、結局、知ってはいるけどそれが何だという感じで我々がかかわってないのに紅蓮の旗を掲げている集団にあったことはまだない。そううまくはいかない。
私の理想では私がやっているようなことを私以外に実践する人が出てくることだが……。
まあ、知らない人の命を預かるだけの交渉力はもちろん、何より初めて見る人たちを数日の間にその特徴や構成人員の長所短所、さらには周辺地域の土地の様子などを的確に把握し、それでも起こる予想外の出来事に対してもそれをうまく利用して実際の戦闘で勝利を掴めるだけの軍才が求められる。
学校を設立し私のような交渉術とトルニエのような戦術家、もしくはバルヴァンのような剣術家を育成できればいい。しかし、人材育成に費やす時間はまだない。バルヴァンとボルドフは今も稽古に励んでいるがそれはしっかりとした土台があるし、一人でも強くなるために必要なことがすでにわかっている人だから……。でも、何もない人に教えるとなるそれなりに時間がかかる。それに私には武術は教えられないし、それと同じように他の誰かに私と同じことをする力、私と同じことをできるようになる力はない。つまり替えが効かないのだ。
少なくとも紅蓮旗を掲げる集落がもっと増え、学校の安全を守れるようにならなくては、結局あの日の二の舞になる。
……いや、それは間違いだ。
こうやって問題を先送りにしてはいけない。我々が時間と身を今より少し削れば指導の問題はどうにでもなる。むしろそうやって開校を遅らせれば遅らせるほど自分たちの首を絞めることになる。
すぐにでも取り掛かるべきだ。早く始めれば早く使えるようになる。トルニエは言わなかったが、彼にもいつか限界はやってくる。特に彼の仕事は失敗すれば、もう2度とチャンスが来ないかもしれない。彼の手足を増やしておくに越したことはないのだ。
まあ、これは私がやりたかった教養や教育を学ぶ場としての学校ではなく、トルニエを中心とした軍学校ということになりそうですが……。
「トルニエ、早速ですが学校を作りましょう!なるべく早い段階で。」
トルニエのアップルパイを食べる手が止まる。キョトンとした顔でこちらを見ていたがやがてニヤリと表情を崩すと
「つくづくお前といると面白いぜ!」
と嬉しそうに言った。
「それは私もですよ。」
私は普通の人よりもよく気が付くし考えられる人間だ。しかし、トルニエといるときはいつもの自分よりももっと気が付けるしもっと考えられる。
彼を選んで本当によかった。
トルニエは食いかけのアップルパイを一気に飲み込むと真面目な顔になって私に尋ねる。
「それで校舎はどこに造るんだ?」
「あまり目立つところに造るのは得策とは言えませんね。私が前に造った学校は敵の襲撃にあって焼き払われたって話は前にしましたね。あの時の校舎はかなり大きいもので、その時は生徒を大々的に募集してましたから狙われたのでしょう。常にトルニエやバルヴァンたちがいるとは限りませんし、この少人数では大勢で来られては太刀打ちできないでしょう。」
もう、あの時みたいな思いはしたくない。トルニエには一度話したがそれっきり何も聞いてこない。けど忘れていないことは知っている。
「ああ、じゃあ南の山の中にしよう。前に言っただろ?誰も近づかない海岸の近くのさ!」
「え!お化けが出るというあの場所ですか?」
「何言ってんだ!お化けより怖いものをもう見てきたんじゃないのか?」
「……そうでした。」
「あなたの顔とかね!」
「コラ!」
遠まわしに大事なものを気づかせてくれる。彼の強くもやさしい部分にこの7年間何度すくわれたことか……。
「冗談はさておき、生徒を大々的に募集しないとなると……。」
「生徒は……戦争孤児を集めてくればいいだろ。その辺で飢え死にするくらいならってついてくると思うぜ。肉親の心配もないから俺たちの存在にも足がつきにくいはずだ。となると寮も必要になるな。」
「そうですね。生徒や校舎などの建設の方はトルニエたちに任せていいですか?私は教材を作りますので。」
「……は?教材はあとだろ!それにやるのは戦闘訓練がメインだろ?まず訓練するための武器だろ!」
「……そうでしたね。……でも、少しくらいいいじゃないですか!私の夢なんですから!」
二人声をそろえて笑った。
軍学校を作るつもりだったのに、やはり私は……。
ここにいるのは本当に心地がいい。




