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バルテニー、2

うーん、どうしたものか……。

愛用の帽子をかぶり直す。

数年前からなかなか業績が上向きにならない……。

このままでは数年後には破産するな……。先祖代々商売で蓄えてきた今ある財産を土地につぎ込み農業を営めばやっていけるかもしれない……。いや、やったところで土地を奪われるのがオチか。今のままではまずいのはわかっているが、やはり同業者のように水や食料、武器を手に戦争をやっている治安の悪い地に赴くしかないのか……。

しかし、大量の物資を持つ商人は格好の的だ。襲われたらすべてを一度に失う。ハイリターンは間違いないがハイリスクなのだ。傭兵を雇うにもおそらく1年以内に結果を出さなければ破産だ……。

しかし、今のままあまり戦闘が行われていない所で商売をしようにもほとんどが自給自足で生活が成り立っている。

それに代々武器は売らない。そういう家訓がある。戦争に加担しない商売をすることが私に流れる血の誇りだ。


私は自宅の愛用の長椅子に横になりながらコーヒーをすする。

妻もいるのにこのままで本当に良いのだろうか……。格好つけたところで生きられねば何の意味もない。言い知れぬ将来の不安を感じていた。


きっとどこか私は見落としているのだ。

私の父は頭が良いわけではないが商売で生計を十分に立てられる程度には儲かっていた。父は自分の頭がよくないことを知っていた。だから積極的に人に意見を求めていたし、いいと思った考えはすぐに採用していた。私の意見も多く取り入れていた。

そして、代替わりした今、私の考えで支えていたと思っていた商売は下向きにある。

そこがおそらく問題なのだろう。今うまくいっていないのは……。

私一人の考えではダメだ。私の内側から出てくる考えには限界がある。

父は商売のいろはが全く分からなかったころの私にも意見を求めていた。

迷ったら初心に帰ろう。

……私も妻にでも何か聞いてみるか。


妻は台所で夕飯の支度を始めていた。ちょうどいい。

「おい、ちょっといいか?今仕事に行き詰っていてね。そのままでいいから何か答えてほしいんだ。私の商売の今後について何か思うところはないか?」

妻の軽快に野菜を切る包丁の音が止まり、少し沈黙が流れる。

「あなた……、ちょっと外出てきたら?」

やっと口を開いたかと思ったら妻はそれだけ言った。

何だそのアドバイス?うるさかったのか?邪魔だったのか?

いや、本当はどうだかわからないがここはポジティブにとらえておこう。

きっと外に出た方が良い理由があるのだろう。何もしないよりはましだ。

そうかと言って出かける準備を整える。

「行ってくるよ。」

「ちょっとどこ行くの?」

お前が言ったのではないか!

「どこって外だが?なにちょっと散歩してくるだけだ。夕飯までには戻るさ!」

「帽子はいらないわよ。」

「なんで?部屋でもかぶっているのに外でかぶらないのはおかしいだろう?」

この帽子は私の愛用品、父の形見だ。

我が家系では家督をついだ男が代々かぶってきたものだ。

風呂に入るときと寝るとき以外は常にかぶっているのだが……。

「部屋でかぶっているからあなたの頭がおかしいことになっているんじゃない!」

「頭がおかしいだと!」

いや、これに怒るのは筋違い。妻の目から見て私は相当参っていたらしい。

「声を荒げてしまってすまない。悪気はないんだ。お前の言うとおりだな。ちょっと外に出てみるよ。」

「ちょっと待って!ごめんなさい、さっきのは私の言い方が悪かったわ。でも、今日は気分転換に帽子をかぶらずに行ってらっしゃい。たぶん湿気が良くないんだと思うの。太陽で頭を乾かしてきなさい」

妻は何を言っているのだか?

あー、帽子を置いていけというのは要するに先祖代々の考えに縛られすぎて周りが見えなくなっているからいったん忘れてみたらということか……。言われてみれば父と比較ばかりしていて、現在の市場を蔑ろにしてしまっているかもしれない。なるほど私が必死に考えても出てこない答えだ。我、妻ながら鋭いところをついてくる。

「わかったよ。いつもと違ったことをすることが大事ということだろ?」

帽子をテーブルに置く。

「ぜんぜん違うけどそれでいいわ。行ってらっしゃい。」

妻はそう言うと夕飯の支度に戻った。


我が家のあるガルネシア王国は近年人口が増えている。昔からここに住んでいたのだが最近ではすれ違う人は知らない人が多い。遠くを練り歩くことも多いせいでもあるだろう。


街を歩いていると大工が見たこともない工具を使って釘を抜こうとしている。

「それは何ですか?」

近所付き合いもあるしとりあえず声をかける。

「え、これはペンチさ。つかむ力が強くなるんだ。」

「ほう、それはすごい。これをどこで?」

見たところそこまで複雑な構造ではない。しかし、自分の指を挟むと力のかかり方が全く違うことがわかる。

「あそこ。クードル研究所っていう小さな研究所があってな。そこで博士に作ってもらった。」

男が指差す方向には山がありその中に一軒の小屋が見える。

「ありがとう」


独創的な発想を持つ人がこの世にいるということか……。

確かに妻が言うように外に出てみるものだ。視野が一気に広がった。

妻には悪いが今日は遅くなりそうだ。


「あっ、お父様なら留守です。」

その研究所を尋ねると出てきたのはクードル博士の娘らしき女の子が出てきて淡白にそう言った。

留守か……ならば仕方ない。

「クードル博士はいつ帰ってこられますか?」

「さあ?」

なんかダメだな。出直そう。予定も聞かずに勝手に来た私が悪い。とりあえず挨拶だけは済ませておくか。

「私はバルテ――」

「私はナートルよ!」

私の言葉をさえぎって食い気味に名乗ってきた。

「あっ、よろしくね。ナートルちゃん。」

クードル博士が帰ってきたらバルテニーと言うおじさんが来たと伝えてもらおうと思っていたんだけど……。

「それでは今日はこの辺で、また明日来ます。」

「はーい。お待ちしてます。」

妻の料理も出来上がっていることだろうし、その日はそれで自宅に戻った。

ナートルちゃんに待っていてほしいわけではないんだけど……、あの子ちゃんとわかっているかな?ずいぶん変わった子だったな……。




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