トラーノ、2
今日も月に一度の定例会議。
トルニエが処分されてから1年……、今日あたりまた……。
重い足取りで4階にある会議室へ向かうと既にガルネシア王は上座の一つだけ立派な椅子にふんぞり返って座っていた……。
「おはようございます。」
「ああ。」
挨拶を済ませるといつもの席、王の隣に座る。いつもは私が一番早くこの場所へ来るのが、王が私よりも早く来ている日は決まって王が何らかの要求をする日だ。
今日の議題、主にルードからの予算案改定案の確認とソルナードの軍の近況報告、あと王の唐突な殺害などで減った人員の人事調整……これは終わったか……、いや、今日でまた……。私の父や祖父がこの国で代々宰相をしていなければ私も目指すことはなかったかもしれない。宰相と言う役職がこんなに大変だったとは……、毎日が憂鬱だ……。
定刻になり全員集まったところでいつも通りに会議の進行を始めようと席を立つとそれを待っていたかのように、
「トラーノ!」
と横から大きな声がとぶ。
「ハッ、なんでございましょうか?」
口ではそういうものの大体の察しはすでについている。王は自分の懐から取り出した紙を私に手渡す。
「その紙に書いてある、こいつとこいつとこいつをクビにしろ!」
3人も!内容は想定していたが、3人は想定外だ。それもまだみな若い……。判断基準がわからない。王は何を思って……。
「なぜでしょう?この二人は精力的に働きガルネシアの経済を活性化させているという報告があり、私を含め今後に期待している人材であります。またもう一人の彼は軍で貴重な戦果を挙げておるとソルナードから報告がございます。」
3人ともガルネシア王国を支えていく柱になりうる存在、ガルネシア王国の今後のためにも守らなければならない。私にしかできないことだ。この国で2番目に地位の高い私が。私が宰相としてガルネシア王国で働く皆を守らなくては!そして、ガルネシア王国の未来を守らなくてはならない!
「ゴホッゴホッ……。言いたいことはそれだけか?」
王はそれだけを冷めた口調でつぶやくと、
「トラーノ、とっとと動け!お前も処分されたいのか?いや、お前はいろいろ知りすぎている。お前の場合は俺が直々に打ち首にしてやるがな!」
……打ち首、私の首が飛ぶようなことがあれば、今後のガルネシア王国を守れなくなってしまう。どうしてもこの一言にあらがえない……。何度宰相なんぞにならなければと思ったことだが、なってしまった以上は仕方ない。この国を、そして、先祖代々の誇りを守るためにも今は……。すまない。みんな、私が弱いばかりに……。
ルードなら彼らによい働き先を提供してくれるだろう。彼にはいつもそういう仕事ばかり頼んでしまって本当に申し訳ない。
「……わかりました。ではあとでそういう措置を……。」
「今やれ!」
「……わかりました。」
王の強い言葉になすすべもなく部屋を出る。宰相とは名ばかりの王の召使いでしかない。今回はその3人の命までなくならなかったのはよかった。トルニエのように逃げ出しさえしなければどうなるかはわからないが、最近は処刑を命じることが少なくなってきたのはせめてもの救いだ。だいぶ前に召使いが王の寝室で粗相があったという話は聞いたが、それを入れて昨年はまだ2人。
近年はだいぶマシだ……。
免職処分の書状を書きに自室に戻る途中、イーリス様にばったり会った。会釈をして通り過ぎようとすると、
「あら、トラーノ様。どうかされましたか?」
声をかけてくださった。私の心に巣食う重く苦しいものが見えたのだろうか。
「何でもありません。」
彼女の父親のせいでこうなっているのだがそれを彼女に言っても仕方がない。というより彼女に知ってほしくはない。彼女の父親のやっていることを……。王が完全に子供たちと距離をとっているため、王の仕事の実態を子供たちは知らない。何よりガルネシア王は代々男が継ぐことになっており、現状、王を継がれるとすればイーリス様の弟のレポンス様となるため、彼女はやはり関係ない。関係なくても彼女の人生に支障はない。むしろ関係ない方が……。ならばこのまま何も知らずに生きてほしい。
「そうですか……。」
何か察したのだろうか、彼女も深くは聞いてこなかった。イーリス様から王に告げ口する可能性はまったくないのだが、彼女自身の美しさや聡明さに王宮に勤めるものは一歩引いて接しているものが多く、彼女自身もそれを察してなるべく関わろうとはしない。今は助かるが……。
「今からレポンスとファレンス様と一緒にお茶にするところでしたの。トラーノ様もいかが?」
私の沈んだ気持ちを察してくれたのだろうか……。彼女の気づかいに一瞬心が緩みそうになる。しかし、その甘えに乗るわけにはいかない。今抱えている仕事は私の弱さが招いた結果だ。
「お誘いありがとうございます。ですが、今は忙しくて。ぜひまたの機会にでもお願いします。」
「そうですか。お仕事がんばってください。」
そういうと会釈し去っていった。
私ももっと強くならねば……。
ガルネシアには守らねばならないものもたくさんあるのだから。




