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バルヴァン、2

この集落に入って1週間後、空いた時間にこの廃墟で人が住めるように改良していたが、ついにこちらに襲い掛かりそうな敵がいるという情報が入りバルヴァンたちは臨戦態勢を整える。

トルニエ様に従軍するとバルヴァンはいつも振り回される。

「ここに伏兵を張る。敵の本軍は必ずこの道を通る。伏兵部隊は敵の足並みを乱す程度でいい。かく乱したら速やかに戦線を離脱しろ。遊撃部隊はバーナフの指示に従ってこの山をこの川から逆走し、ここにある本陣に突撃。時刻は明日の正午だ。」

「明日の正午にここに敵本陣が来るのですか?昨日のボルドフの報告と大して変わっていませんよ。正午にはもっと近くまで来ているのではないですか?」

「敵の軍容や攻撃回数と攻撃パターンを考えるとここまでで止まる。ボルドフから聞いた情報だと敵はかなりの臆病者だ。綿密に相手を探り慎重に仕掛けて勝ち戦しかしない。逆に言うと勝ちが確定するまで本陣はここから先には来ない。退路がないからな。この作戦でいけば問題ない。ああそうだ、スライル、あんたはここで待機!以上だ!」


バルヴァンにはスライルさんがこの時のトルニエ様の軍略会議の手際に驚いているように見えた。トルニエ様は戦略も勘も素晴らしいお方だ。バルヴァンは今まで負け戦というものを経験したことがない。バルヴァンが危ない目に遭ったことはあるが軍全体が危なくなることはなかった。しかし、今回の戦はいつもと少し違う。兵の質も作戦の効率も。それは今回がスライルさんの戦いでもあるからだ。バルヴァン自身もスライルさんの話を聞いたとき現実的ではないと思っていたが、その非現実のためにこれから戦を行うと思うと……、なんだか言いようがない。


作戦会議が終わり、それぞれが持ち場に移動する。久しぶりの戦だ。ガルネシア王国を離れてからも稽古を欠かした日はないが、やはり実戦と稽古は違う。

「師匠!今日はなんだか気合入ってますね!」

ボルドフが笑顔でバルヴァンにそう言った。

気合……?バルヴァンに気合が入っている……?バルヴァンは記憶があるときからバルヴァンの師匠に感情がないと言われ続けてきた。そんなバルヴァンに気合などはいるはずもない。いつも通り冷静にトルニエ様の指示に従って目の前の敵を殺すだけだ。

「何、言っている?」

ボルドフがバルヴァンには何を言っているのかわからない。

「わかりますよ。師匠、今日は勝ちましょう!」

「……、ああ。」

皆にわかるというのか……。

今日のバルヴァンはどこかおかしいのかもしれない。


その戦は大胆でいて自由度が高い一方で細かい要所はしっかり押さえてあるトルニエ様の策が見事にはまり数人の負傷者は出したものの全体的には圧勝に終わった。バルヴァンの活躍が霞むほど、その時のセイナーさんをはじめとした族民の気合いはすさまじく負傷者とは言ってもかすり傷程度で今後の生活に支障をきたすほどのものはいなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

スライルとトルニエという悪魔に魂を売った結果……。

数えられるほどしかいなかった族民は1年を過ぎるころには続々人が集まり1000人を超える大所帯となっていた。廃墟だった遺跡の跡も立派に修復しもはや一つの新しい村が生まれていた。

新しくできた門の前で大勢が見送りしてくれる。


「そろそろ我々は次の場所に向かいます。」

スライルさんは皆を代表したセイナーさんに別れの挨拶をする。

「あなた方が来てから何もかもが変わりました。毎日襲われることに怯えていましたが今では娘の将来を考える余裕が生まれました。本当にありがとうございました。」

「そう言ってもらえるのはこちらとしてもうれしい限りです。そうそう約束通りこの旗を掲げてもらいますよ。」

「ええ、それはもちろん。でも本当にそれだけでよいのですか?」

「まあ他に条件があるなら族長はじめセイナーさんや皆さんが長生きしていただくことですかね。」

「勿体ないお言葉……。本当に何から何までありがとうございます。」


「おじちゃんたちどこか行っちゃうの?」

セイナーさんの娘がスライルさんに駆け寄ってくる。

「ええ、お嬢ちゃん。私たちはまた他の集落でお嬢ちゃんみたいな子たちを救わなければならないのです。あと、私はまだお兄さんです。」

「やだ。あたしおじちゃんと結婚する。」

「だってよ。結婚してやったらどうだ、スライルおじちゃん。」

トルニエ様が茶化す。

「……ごめんなさい。私を待っている人がいるのです。だからお嬢さんとは結婚できません。」

「子供相手に本気になるなよな」

「いえ、適当なことを言ってごまかすのはよくありません。いつかばれる嘘はつかないのがモットーなので。私はいつまでも正直者でいます。」

「あっそ。それにしてもいいな。こんなかわいい子にプロポーズされるなんて……。」

「もしかして貴方ロリコンなんですか?」

「うるせえ!」

トルニエ様がロリコンだったとはバルヴァンも知らなかった。

「いえ、戦場が恋人とか言うのかと思ってたんで少し驚きましたけど……。」

「というかお前、結婚しないのか?」

「いえ、別に。私が心から愛せる女性がいたなら迷わずプロポーズしますよ。お嬢さんはまだ幼すぎる。」

「格好つけやがって!」

トルニエ様が鼻を鳴らす。


ただ茫然と見ていたセイナーさんがようやく話し出す。

「すみません、うちの娘がご迷惑を……。」

「いえ。迷惑だったのはトルニエですから。」

「おい!」

「でもこの子が言ったこと、結婚は無理でも……、私たちがいつでもあなた方と共にいる。そのことは忘れないでください。スライル様、トルニエ様。」

「はい。」

「ああ!」


その後もまた困っている集落を見つけては戦術を売り、その見返りに紅蓮の旗を掲げてもらうという活動を続けた。


スライルさんの壮大な計画のほんの足掛かりに過ぎないが、最初の一歩はしっかり踏み出せたようだ。



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