スライル、2
その後帰ってきた族長さんとセイナーさん、トルニエと私の4人で話し合いをし、今後彼らを守ること、そのすべを教えること、そして、最後に紅蓮の旗を掲げることを約束し、私の目的の一歩目は無事成功した。私たち4人はその廃墟の中でも最も眠りやすいところを与えられた。その晩、私たちは今後の方針を話し合うことにした。
「ガハハ、疑っていたわけじゃないが信じてもいなかった。まさか本当にこうなるとはな。」
夜で集団の人たちはいつ来るかもわからない敵に怯え、憔悴しているというのにこの男の余裕ときたら……。まあ、それが彼なのだろう。見た目はとっつき難いがおそらくいままで会った人の中で最も話しやすい。まだ会って数日だがなんとなくトルニエと言う人間がつかめた気がする。
「私の親はろくでもないやつでしたが一応、一流の教育を受けてきているんです。何よりあなたと出会う前に私が開いていた学校を、そして、生徒たちを何もできずに燃やされるという耐えがたい痛みも知りました。だからこそ今の私なら弱者に寄り添える。だからこそ、この計画の重要性をわかっている。その自信と覚悟を持ってこの計画を実行しているのです。半端ははじめから捨ててくださいね。」
「悪かったよ。」
トルニエが申し訳なさそうに自分の髪を掻く。彼もどうやらわかってくれたようだ。いや分かってはいたのか……、ただ信じきれてはいなかっただけだ。だけどきっともう大丈夫。
大丈夫……。
大丈夫……なのですよね?
彼が戦に強いという話はとある商人から聞いただけで実際に戦っているところは見たことがない。酒で酔っぱらってチンピラみたいなことをやっているところは残念ながら見たことがあるが……。その商人に聞くまであのガルネシア王国の将軍であるというのに私は知らなかったし……。彼の部下と言われるバルヴァンたちは見た目にも戦に強そうなのはわかる。性格がちょっと不気味だけど……。だけどトルニエはなんかやりそうな雰囲気はあるけど驚くほどの筋肉質でもない。
戦が強いとは言っても敵を殺す技に長けているだけが戦の強さではない。戦は集団の戦いである以上兵を扱うのがうまい人間を戦が強い人と言うのもおかしくはないし、トルニエはきっとそうなのだろう。しかし、将軍と呼ばれるほどの男なら万の軍を操る大規模戦術がメインだろう。もしかしたら、こういう少人数の戦闘は不向きってこともある。何せ今回の戦の我が軍容はここにいる5人以外は今から調べなくてはならないのだ。
この計画の肝であるのは戦術を売ることである。しかし、その戦術が使い物にならないのでは話にならない。多少の失敗はしてもいい、ただ、万が一にも敗北は許されない。
敗北するようなことがあればまた人探しから始めなくてはならない。
その日はそのまま眠りについた。行動は明日からだ。
……ズボラで豪快なイメージだが意外とトルニエはいびきをかかなかった。
日が昇るとトルニエはすでに動き出していた。
「早速仕事に取り掛かるか……。族長さん!ここにどんな人がいる?大人は何人?そのうち男は何人?子供は?戦えない年寄りは?」
「大人の男は全部で9人、女は16人。子供は12人だ。戦えないほどの年寄りはいないのう。」
「そうか……。そいつは助かる。バーナフ、みんなの強さを見てくれるか?俺はこのあたりの土地を見てくる。あと周辺の偵察に向かったあの2人が戻ってきたら状況を地図にしておいてくれ。」
「かしこまりました」
……早い。
まずは敵と味方の整理……、そして戦地の地形の把握。
武器や戦闘訓練ではないのか……。
それもそうか……。
人を殺す心構えができなければ、道具も技術も関係ない。
そして人を殺す心構えなんてそうそうできるものではない。
せいぜい殺されないための心構え程度だ……。
戦の経験がない私には戦に必要なことが何なのかわかるわけもない。
あの日も危険に備えろとは言ったが……、危険とは何だ?それがわからなければならなかった。
もし、あの時、彼がいれば……。
いや、過去にとらわれるのはやめよう。
今私がすべきことは知ること。
私の計画の根幹にあって私にできないことをやる男の姿を……
「トルニエ、私にも何か手伝えることはありますか?」
「お前、戦えるのか?」
「一応、昔、剣は習っていました。」
腰にぶら下がっている剣をさする。未だ抜いたことはないが……。
しかし、トルニエが少し眉をひそめ質問してきた。
「そうじゃない、戦えるのか?」
どういう意味だ?
……何か試されているのか。確かに剣の稽古など習っていたころだけで今はまったくやっていない。しかし、ここで戦わなければ私も男が廃るというもの。直接は関係ないだろうが死んでしまった私の昔の仲間たちのためにもここで奮起しなければ!
「戦えます!」
「……無理だな。まあ、あんたは後方支援でもしていてくれ。具体的な内容はあとで説明する。ああ、とりあえず今はバルヴァンがやっている地図の仕事を覚えてくれ。これからはあんたに頼むことにするから。」
失礼な!
とも思ったが、私だってできることなら人を殺したくはない。そんな私の気持ちを見透かしたように言い放ったトルニエに対し、何も返すことはできなかった。
バルヴァンのわかりにくい説明を受けながら私の仕事に専念した。




