表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/93

ソルナード、1

戦地から馬をとばし、ようやくパーティー会場に着く。

「……このパーティーってもしかして俺のために開かれたんじゃないだろうか。」

「そんなことないです。気にしすぎです」

部下であり相棒であるザンゾニスはそう言うが、実際怒られるのは俺だけだしな……。この先が思いやられる……。絶対王に怒鳴られる……。

もともと無理だったのだ。

ガルネシア王国の軍はかなり強いとは言え、他国の真ん中にある果樹園を占拠し続けるなんて……。しかもその果物の実がなるのはあと半年以上も先だ。

ガルネシア王国に樹木ごと持ち帰っても気候か土の栄養素かわからないが木は成長しなかった。

でもさ、分けてもらえばいいじゃないか。独占しなくても分けてもらえばいいじゃないか。

それに数か月前に攻略を命じられた他の国に兵のほとんど割いている。果樹園の占拠、それも王以外特に気にしていない果物のために頑張れるか!半端に両方こなそうとしてそっちもまだ終わってない。

あれやれこれやれ言うのはいいがそんなにいくつもできるか!どうしろというのだ。


パーティー会場には招待状に強制と書かれていたからもはや来るしかないから来たが正直もう帰りたい。そもそも招待状に強制って書かれたら招待じゃなくて、召集じゃないか。

はぁー……。

「どうされました?ソルナードさん。」

ため息を吐くところを見たイーリス様が心配そうに顔をのぞきこむ。

「いえ、仕事でうまくいかなくてですね……。これからお説教ですよ……。」

王の愚痴を王族に聞いてもらうというのもおかしなものだが、どうもイーリス様を前にすると思ったことがすんなり出てしまう。イーリス様の美貌は男なら漏れなく見とれるほどであるが、彼女にはそんなことは歯牙にもかけず優しく寄り添っていただける清らかな心がある。

戦争捕虜になった美女を王が要求することがあるため、侍女やまあ王の夜の楽しみなど、ガルネシア王国の王宮内に美女は多い。しかし、ミスコンなんかを開いたら一位は決まっている。


「それは大変ですわね。ソルナードさんのお仕事は軍事関係でしたよね。人と人とのやり取りである以上自分だけの都合で物事は進んでいきませんものね。反省も大事ですけども自分の力でできることを越えたことなら開き直るのも大事ですわよ。私自身、特に何かしているわけではないので大した力になれませんが、これから説教される方にもうまくいかなかった原因にも、そして自分にも負けてはダメですわよ。」

「ありがとうございます。頑張りますね。」

説教するのはあなたのお父さんなんですけどね……。

でもすごく心が軽くなった。

美人で優しくて誰もが憧れる女性、その上親のあいさつも不要という超優良物件だというのに彼女に浮いた話が全くないのは……。

「おい!ソルナード!イーリス様に何をしている!」

茹蛸みたいになって駆け寄ってくるこの爺さんのせいだろう……。

私も彼女のような方が恋人、ひいては身を案じてくれる伴侶になってくれたらもはやいうことはないだろうが普段からこの爺さんがいてはそういう雰囲気にもならない。

とりあえずファレンス様が生きている間はイーリス様との婚姻は絶望的だろう。ガルネシア王宮内では『ジジイめ、邪魔だぞ、地獄に落ちろ!』通称JJJという言葉が裏で流行っている。あくまで余命がどうのこうのとよく言っているが当分死なないだろうという愛ある皮肉の言葉だ。財務大臣のルードがチラチラこちらの様子をうかがっているが……、もう今日はあきらめるしかないですよ……。


「何もしていませんよ、ファレンス様。それではイーリス様、そしてレポンス様。またどこかで。」

会釈をしてその場を離れた。レポンス様は肉団子に夢中で最後まで私のことなんか見てなかったが……、イーリス様には力を分けてもらった。

さてと、怒られに行きますか!


「ザンゾニス、俺、今から王のところに行ってくる。」

「いってらっしゃい。ザンゾニスは稽古しています。」

……まったく人の気も知らないで。


「軍総司令ソルナード只今参上つかまりました。」

挨拶すると王はふかしていた煙草を消した。そんな改まらなくてもいいのに……。

「してどうなった、果樹園は?」

「すみません。予想外の敵襲に遭い、自軍の状況を鑑みまして全軍撤退させました」

ちらりと顔を見ると眉間にしわが寄っている……。まずい。

「しかし、今は季節ではございませんゆえ、占拠しても梨は手に入りませぬ。収穫時期になりましたら必ずやこの王宮にお持ちいたします。」

自分をフォローするが、

「そんなことは聞いとらん!占拠しろと言ったら占拠しろ!」

ダメだった。そもそもこの王に理屈なんか通じない。理屈が通じればはなからトルニエを失うことにはならなかったのだ。彼がいかに優れた将軍であるか……。

「そう言えば逃げられたと言っておったトルニエはどうした!」

やばい、謹慎処分を受けていたトルニエの監視も命令されていたのだが、そんなにあっちもこっちもできるか!そもそも全力でやってもトルニエの逃亡がとめられるか!何やったか知らないが牢にでも入れてなきゃ逃げられるわ。

「あやつ、逃げ出しおって。ちゃんと探し出して首をはねたのであろうな!」

「ええ。それは滞りなく。」

……まあ、どうせ王に確認するすべはない。彼を逃し、ほとぼりが冷めたらまた帰ってきてもらおうというのは軍関係者のごく一部しか知らないはずだ。


「ならよい。」

収まったー。


「そう言えば今攻略中の国はどうなった?ちゃんと滅ぼしたか?」

多いんだよ、仕事が……。

「それはまだ……。」

これはトラーノ宰相とかに聞かれれば一発でばれる……。


「なんだと!」

そんなこと言われても……。


その日の文句は結構すさまじかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ