表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
4/26

04 うさぎの蹴りはものすんごい

 朝起きて、ギルドの2階にあるという食堂でサンドイッチを注文した。

 冒険者が多いからか割と安くボリュームのある食事だった。味はお察しだったけど。



「あ、ヴォルフさん!」


 出かけようとしたところにシンシアさんから声が掛かる。


「おはようございます。」


「おはようございます。本当に行くんですね?」


 余程心配されているらしい。


「勿論です。」


「昨日同僚に確認しましたが、一般人でも狩れるような、たかがラビット種と思うかもしれませんが、

 農家の人でも蹴られたら骨折くらいはするそうです。くれぐれも気を付けてください。」


 ラビット見くびってました。だが、ここで引くわけにはいかない。


「魔物って溺れたりします?」


「え?何ですか突然。たまに洪水が起こると巻き添えでって話は聞きますよ?」


よし、それなら呼吸しているのは間違いなさそうだ。ある程度通用しそうだな。


「ありがとうございます。それでは!」


「気を付けてくださいね。」


 かき消えそうな声を背中にギルドを後にした。


***


 確かに無限とも思える草原を歩いてきたはずだ。

 だが、これはどういうことだろう? 

 昨日シンシアさんからキックラビットの詳細を聞いた時にも疑問に思ったが、門をでて数分で藪に入ってしまった。


 あの神秘的な緑の草原は幻だったのか?

 結局ぐるっと一周街の周りをまわってみても獣道はあるものの開けた草原なんて見当たらなかった。


 少し藪を抜けると、そこからはもう街が見えない。

 歩き始めること1時間、こまめに着火<イグニッション>で生木に目印を付けつつ奥に進んでいくと、

 聞いた通りの足跡が見つかった。足跡の大きさは10cm程度、体長50cm程度の兎とは思えないサイズ。

 だが、蹴りに特化した結果こういう進化を遂げた種の様で、この世界では一般的な食用の魔物である。

 性格はおとなしく草食だが、一撃で倒せなかった時には激しい反撃の蹴りが待っているそうだ。

 捕食者のゴブリン(1m位の人型の魔物)でもいい具合に蹴りが入ると即死することもあるが、知能は野生並なのがGでも唯一受けられる理由なのだとか。

 尚、新人の死因ランキング1位でもあり、別名新人キラーと呼ばれてるとも言っていた。怖いわ。


 魔力が8になったものの、一般の魔法士には遥かに劣っているので、

 見つけてしまう前に、ある程度のことは考えておく必要があるだろう。


 まずは、ウォーター恐らく地球の兎と同様の位置に心臓があるとすれば、溺死は可能だ。

 魔力が増えたので今の全力ならコップ一杯の水を5m先で発生させられる。

 鼻歌気分で餌を食べてたら突然溺れるとか、キックラビット視点でみればえげつないことこの上ない。


 もう一つ浮かんだ案は、空気を操ることだった。

 とはいえ衝撃波を出せるほど操ることは出来ないので、空気中の二酸化炭素を一か所に集めるだけだ。

 酸欠職場と呼ばれる酸素が殆どない環境で呼吸した場合、一回吸っただけで意識を失うらしい。


 日本の国家資格の問題に出るくらいだから、呼吸する生物には効果が見込めるだろう。

 道中試してみたところ消費魔力が最低5で使えた。恐らく魔力を使うほど範囲は広がるはずだ。

 如何せん、空気は無色透明なので感覚的に成功したとしか言いようがないのが不安だった。


 しかし、何故窒息系の魔法しか使えないのか。

 魔力が少ないのが原因というのはわかってはいるが、魔法使いになった実感が全然わかない。

 もっとこう、ド派手とまではいかなくても魔法使いらしい火力というものを使ってみたいものだ。


ガサガサッ


 不意に右後方から草を踏みしめるような音が聞こえた。

 慌てて振り返ると3mくらいの距離に大きな兎がいた。

 大きな兎と言えばかわいく聞こえるが、太もも辺りがものすごく発達しており、アームレスリング選手の腕のような太さだ。

 上半身のスリムさに反して下半身のムキムキマッチョ具合は全く可愛さがない。


 お互いの目があって数瞬、差し迫る命の危機にこちらのほうがわずかに早く魔法を唱える。

 

「ウォーター」


 一歩を踏み出そうとした兎はそのまま前に倒れてのたうつ。

 たっぷり1分間様子をみて、動かなくなったところで首を刎ねた。


【魔力1をテイクしました】


 魔力の増加はイコール対象を殺めた確認にもなりそうだ。


「ふう、一丁上がり」


 一呼吸して落ち着いたら、血抜きのために適当な蔓を兎の足に括り木に吊るす。肉は血抜きしたほうが断然旨い。

 酔っ払いの剣で捌いて腸を放り出すと、ぽたぽたと滴る血を横目にウォーターで喉を潤した。


 この時はまだここが本当に異世界だということに、注意も理解も及んでいなかった。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ