03 テンプレなんて起こらない
予定より遅くなってしまったが、ようやくギルドらしき建物に到着できた。
建物はテキサススタイルの両開きの扉の酒場を想像してほしい。
余談だが、これって雨風強いときはどうしてるんだろうか。
カランカラーン
中に入ると正面にカウンターがあり、整った服装をした若い女性がこちらに目を向けていた。
「こんばんは。」
目が合ったので挨拶しておく。
「え?こ、こんばんは?」
この世界は挨拶というのはあまり主流じゃないんだろうか。
「ここは冒険者ギルドであってますか?」
「ええ、そうですよ。ご用件はなんでしょう?」
にこりと返事を返してくれる。
「ギルドの登録をしたいんですが。」
「わかりました。ではこちらに記入してもらえますか?」
そういってカウンターから取り出したのは羽ペンと紙。
この世界の字は初めて見るが、読めた。日本語じゃないのに読めた。
記入が必要なのは、名前、ジョブ、性別、これだけで良いようだ。
「ジョブって何ですか?」
恐らく戦士的なアレだとは思うが一応聞く。百聞は一見になんちゃらってね。
「自分の役割を示すポジションですよ。前衛の人は、基本的には戦士・重戦士・騎士が多いです。
後衛は、弓術士・魔法士・治癒士が一般的ですね。とくに決まりはありませんよ。」
じゃあポジション的には魔法士か。
名前は何にしようか。前世のハンドルネームにしようか。記入して受付嬢に渡す。
「名前は、ヴォルフさんですね。ジョブは魔法士、性別は男性と。」
確認をすると、ごそごそと机を漁り名刺サイズの鉄色のプレートと針を取り出す。
「それでは中央に血を垂らしてください。」
まじか針嫌いなんだけどなあ。下に向けた指にプツッと冷たいものが皮膚を突き破る感覚。
極小さな球体になるまで集まると血は自重でプレートに落ちた。
じわっとプレートに浸透する血液。そして浮かび上がる文字。受付嬢は中身を見ないように裏返して返却した。
「見たいのはやまやまなんですが、勝手には規則で見ちゃいけないことになってるんです。
スキルとかステータスとか勝手に見てトラブルがあったらしくて。」
不思議そうな顔をしていたらからなのか、説明してつまらなさそうにため息をつく受付嬢。どこに世界も規則とトラブルはつきもののようだ。
ステータスには先ほど酔っ払いからせしめた魔力7が追加されていた。
「これはリアルタイムで表示されるんですか?」
「血を染み込ませれば更新できますよ。よく冒険者の方は怪我したときに更新してるらしいです」
怪我すれば当然血は出るもんな。逞しすぎるぜ冒険者。そんな余裕でいられる自身ないわ。
「スキルは秘密にさせてもらいますが、今のステータスはこんな感じです。」
恐らくこのステータスは非常に雑魚だ。しかし、恥を忍んで出すには理由がある。
スキルの場所を指で隠しながら見せた。
「ちょ、これは低すぎですよ!今からでも冒険者考え直したほうが絶対いいですよ!しかも魔法士とか!まだ若いんだから他の道も絶対ありますから!」
驚いて声のトーンが上がった彼女に周りの目が向く。
「戦士ならレベル1でも筋力が100はあります。魔法士を名乗るなら魔力が最低でも500はあります。
上級の魔法士なら5桁も居るんですよ?まだレベル1みたいですけどよく街までこれましたね。」
なるほど、大体の目安がわかった。まずはそこまでを目標にしていこう。
「いや、冒険者で大丈夫です。それですみませんが、軽くギルドのこと教えてもらえませんか?」
それから夜も遅いのに暫く付き合ってくれた受付嬢の名前はシンシアさん。
ギルドはG~AAまであり、E、C、Aに昇格するには相応の働きが必要となる。
Gは基本的には街の雑用などがメインになり、Fからが討伐などの依頼があるらしい。
ギルドの目的としては『災害級の魔物に対処する組織』となっているらしく、
戦闘力を重きにおいてランクを上昇させる。ただ、要人警護や承認の護衛は信用第一と報酬がなかなか良いというところから、ある程度のランクからしか受けることができなくなっているそうだ。
依頼は失敗すると違約金として報酬金の3割を支払う必要がある。これによって無理な受注を減らしているそうだ。
ちなみに討伐をやりたいと頼み込んだら
「えぇ...じゃぁキックラビットの捕獲はどうですか?」
と兎の捕獲を言い渡された。そりゃ軒並み下位の下位のステータスだもんな。
涙を呑んで詳細を確認し、雑魚寝なら...とギルドの一角の休憩スペースで一晩を使う了承が得られた。
ばっちり木の板に寝転がる形になったけど、雨風凌げるならこの際全く気にならない。
眠くなるまでの間、ギルドにおいてある資料を読み、簡単なお金になる部位や討伐証明を確認して夜を明かした。
お金は大事、当面は食事だけに充てることにしたいと思う。




