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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
25/26

25 ほねすぱーん

 ゾンビばかりを倒していたらもうレベル100近く、ということよりも魔力が一万を超えている。

 魔力が一万。何ができるんだろう?というか一体ゾンビどれだけいたんだろう。


「ご主人様、凄いです。もうすぐレベル100じゃないですか。覚醒ですよ覚醒!」


「覚醒?」


 種とか割れちゃうんだろうか。


「まさか覚醒を知らないんですか?そういうところは抜けてますよね。」


 異世界人だからね。仕方ないね。


「それで覚醒って?」


「覚醒はレベル100になると、もう一つ技能が手に入るらしいです。何が手に入るかはわかりませんが、レア技能以上のばあいが殆どだそうです。」


 成る程。それで覚醒か。


「それだとレベル200とかでも何かあるの?」


「ん~。200は分かりませんが、この世界の最高レベルが551だと言われています。伝説の戦士バクヤって言ったら有名ですよ。

 御伽噺でもあるくらいで、最終的な技能が健脚、鈍器装術、超動体視力、超鋼の上腕二頭筋だったそうです。」


「超鋼の上腕二頭筋ってなんなんだ。」


「絶対に何にも負けない硬さの二の腕らしいですよ。必殺技は健脚で相手に向かって近づいて二の腕でバーン!だそうです。」


 伝説の戦士の必殺技がラリアットとか笑える。いや、笑えない。


「ただ、力を入れていないと硬さが維持されないらしく、難しい技能だったらしいですね。」


 そう聞くと戦闘のセンスが実は物凄かったように聞こえるから不思議だ。

 伝説っていうくらいだから物凄かったんだろうけど。なんだかなあ。


「何が出るかはわからないってことか。」


「しかもギルドカードを使うまで何が手に入ったかわからない、らしいです。有名でない技能だと試行錯誤して使ってみるしかないですね。」


 暫く出番がなかった≪魔力接収≫のように死にスキル化する可能性もあるってことか。分かりやすいのだといいな。


***


 一面焦土と化した一帯を歩いていると、石造りの小屋が見つかった。しかし、木製の扉が生活感がある風に凄くぼろい。遺跡のセンスは何なんだろうな。

 今回の階層移動の階段は、入り口が閉じているタイプのようだが、扉の中からは何か物音がしている。


 ルナに小声で注意を促す。


「魔物かもしれない。空けるぞ。」


「はい」


 バァンッ


「きゃっ!!」


「え?」


 そこには服が焼けてボロボロになった女性が居た。後に流した藍色の髪はところどころ焦げており、杖だけを抱えて蹲っている。

 服のボロボロ具合は、それはそれは名状しがたいくらい白い肌が見えている。


「大丈夫ですか?」


 多分自分がやったんですがね...。


「ご主人様、ここは私が。」


 男ってこういう時無力だよね。

 まあ、ここはルナに任せよう。


「どうされたんですか?」


「パーティで挑んでいたんですが、ゾンビを狩っているうちにどんどん増えて行って。仲間は全滅、途方に暮れていたところに炎の鳥が全部焼き払っていきました。」


 少しずつ落ち着きを取り戻したような声で女性が続ける。


「炎の鳥はすべてを焼き払おうとしていました。私も含めて。なので這う這うの体で偶然見つけたここに逃げ込んだのです。」


 ルナがもういいですよ、と言ったので振り返る。予備の服を着せたみたいだ。


「トラップだったんでしょうかねえ?災難でしたね。」


 自分でも思うが、一体どの口がいうんだろうか。災難でしたね、なんて。

 ほら、ルナもじいっと見てる。人がいるとは思わなかったんだ。手当たり次第、なんて魔法出して反省してます。


「でもお陰で助かりました。あれ以上増えていたら私も...。」


 そういって俯く女性。人と会って落ち着きを取り戻したのか、頬から涙が零れ落ちる。


「ま、まあ、結果オーライということで。では、私たちはこのまま潜りますので、お気をつけて。」


「えっ!そんな!一緒に連れてってください!お願いします!」


 そうは言われても、こちらの予定もある。冷たいとは思うが少なくとも素性のわからない人間を同行させられない。

 これ以上、危険な要素を増やすのは御免だった。


「私を外に連れて行ってくれるなら奴隷でもなんでもいいです!お願いします!」


 ルナと言いこの人といい、奴隷のハードル低くないか?なんかこの世界の貞操観念が心配になってきた。

 どこまで本気かこれじゃわからない。


「仮に奴隷にしてもこちらにメリットがないですよね?」


「・・・その通りです。」


 認めてしまった。理由を聞くしかないか。


「はあ。そこまでする理由はなんですか?」


「私は、まだ死ぬわけにはいきません。私を守って死んだ母の代わりに何があっても寿命まで生きると決めたのです。」


 なんも言えないっ!もっとこう、同情するようなエピソードがあるかと思ったら事情なかった!

 死んだ母のくだりで、実はすごい泣けるエピソードがあるかもしれないが、そんな事は関係ない。


「・・・そういう理由なら、頑張ってください。」


 捨て置こう。


「ルナ、行くよ。」


「・・・はい。」


 理由はわからないが、ルナも微妙な顔をしていた。

 帰り道でまだ居たら拾っていこう。


***


 三階層目は墓場だった。この遺跡はこういうコンセプトだと割り切った方がいいんだろうか。

 幸い魔力は増えているので、試しに熱源探知の魔法を作ってみた。


「熱源探知」


 視界に赤い点、というかぼんやりした赤色が表示される。後のルナを振り返ると真っ赤に光っていた。

 ルナがただの赤い光に見えるレベル。個人の特定とか絶対無理な濃さの赤色表示だった。


「左に熱源2体、前方遠目に熱源1体」


 ふと右にまで視線を移すと遠くに明らかに巨大な熱源が見えた。かなり遠いと思われるが、ところどころ色を示す赤色が増減しているのは何故だろうか。

 だが、熱源探知を切っても視認できる範囲にはそれらしきものは見えない。


「ルナ、右側に何かいる。警戒しておいて。」


「わかりました。」


「かなり大きい。距離はあるけど、何か気になることがあれば教えてほしい。」


「アンデットで大きなものはあまり聞きませんから、気を付けましょう。」


 アンデット種だと大きなものは少ないのか。実はアンデットではない?

 巨大な相手に対する魔法を考えておいたほうがいいだろうか。

 下手すると遺跡自体が崩壊しかねないよな。ダメだ、ピンポイントで一か所だけを破壊するような方法がすぐに思いつかない。


 しかし、かなり遠くまで熱源が見えているはずなのに、反応が少なすぎたのは気になる。ゾンビ階と比べるとこんなにも少ないものなのか。

 ゾンビ階が特別だったのか、それともこの階層は一体あたりが相当強敵なのか。


「ルナ、今のところ魔物は出てきていないけど、防御用の魔法を作ってみたい。少し時間をくれないか?」


「防御用の魔法と言ったら氷魔法の氷壁が有名ですね。魔法の内容は想像の通りです。」


「一応この世界にも魔法での防御という概念はあるんだ?」


「純粋な防御は氷と土だけですね。後は、炎ならカウンターのように火柱を打つとか、攻撃用の魔法からの転用が多いですね。」


 ようは腕とタイミングでカウンターにしているということか。圧倒的質量には敵いそうにないな。

 圧倒的質量、運動エネルギー、位置エネルギー。最初に防御が必要な場面は基本的には物理的なエネルギーが相手か。

 ということは。


 座標は自身の右足裏を起点に、半径2mの半球型の膜を生成。

 膜にかかる運動エネルギーを、膜内に侵入する為の運動エネルギーと相殺する。


「耐衝撃結界<マテリアルシールド>」


 発動していても消費魔力はさほど高くはない。

 不意打ち対策も兼ねて、常駐型の魔法にしたかったので、常時一定量の魔力を補充するようになっている。

 イメージとしては、最大MPを減らして常駐型の魔法を使う、に近いと言える。

 魔力回復が異常なほど高いからこそできる芸当。力技も良いところだ。


「ルナ、適当な武器で思い切り刺して」


「良いんですか?まあ私の力なんてたかが知れてるんですけどね。」


 少しぼやきながら槍を取り出すルナ。


「てええぇい!」


 ぴたっ


「ん?ていっ。はっ。」


 ルナが首を傾げ、何度か膜に向かって槍を突き出す。

 しかし、エネルギーが相殺されるからか不自然に途中で停止する槍。

 おおよその実験は成功らしい。

 

「不思議な膜ですねえ。何というか膜の中に入ろうとするとただ止まる。そんな感じです。」


「今回のは膜に通るエネルギーを利用して、同じ量をぶつけているだけだからね。何の衝撃もなかった?」


「槍が急に止まるので、擦れた手が少し痛いぐらいで衝撃はなかったですね。」


 後は実戦でどこまで活用できるか、というところか。


「ルナは自由に出入りできるように変えておくから、危ないと思ったら膜の中に入ってね。」


「ありがとうございます。できるだけないように頑張ります!」


 いい返事だ。ある程度は頑張れるようになってもらおう。


「しかし、この階層に出てからまだ何も遭遇してない。これは正常なんだろうか。」


「わかりませんねえ。何といってもまだ新しい遺跡、ほとんど情報も出回ってませんでしたし。」


 耳の良いルナがそういうなら間違いないのだろう。

 しかし、先行組の冒険者と一人しかまだ会っていないのには少々不安を覚える。

 はるか先に進んでいるのか、戻ってこれないのか、戻る道がないのか。


「ご主人様。」


「ああ。」


 そうこう言っているうちに何とも遭遇せずに、次の階段まで来てしまった。

 何だったんだ、この階層。


***


 防御魔法の作成によって、かなり気分が楽になった。不意打ちに対して意識を向けなくても問題ないのは大きい。

 4階層目は先ほどとは、少し違う石造りの回廊のようになっていた。

 何本か分かれ道を抜け40畳位の広間に出ると、いたるところから湧き出る骸骨剣士。中には重装備を着こんだ骸骨重戦士もいる。


「骸骨の敵は基本的に全てスケルトンナイトと呼ばれています。」


 膜に侵入できずにガシャガシャと音を立てながらも、無音で宙を叩く骸骨たち。

 一斉に攻撃を受けた時、どれくらい耐久できるかの試験をしてみることにしたのだ。

 ただ、別に戦闘慣れして言えるわけでもないので、振り上げられた剣はやはり怖い。

 振り下ろされたら魔法で止まるとはわかっていても、現代人には精神的ストレスが半端なかった。


「ついでにピンポイントで破壊力の高い魔法を作ろうと思う。暫く耐久性の試験を続けるから、ルナは休んでてくれ。」


「この環境の中で休めと仰る精神が正直すごいです。お願いですから動かないでくださいね?」


 そりゃあ骸骨に囲まれて振りかぶる剣を見ているわけだ。やすやすと休憩できる光景ではない。

 まあ最悪、抜けてきても魔力操作で魔力喰い二本を成業しているので遅れは取るまいという、ある意味慢心だった。本当は良くないけどね。


 ルナと一緒に地面に腰かける。結局前の階層で巨大な何かに遭遇しなかったのは偶然ともいえる。

 もしあれが高速で迫ってきたらと考えると、気が気ではなかったのだ。


「ピンポイント、ピンポイント。」


 あ、いいこと思い出した。工具の一種でウォーターカッターなるものがあった。

 超圧縮した水を一点から噴き出すことで高圧の水流を作り、物を切る装置だ。

 木材は疎か、鉄板、鋼板まで切り穿っていく様は、初めて見た時にはときめいたものだ。


 思いついたら即実行。目の前に50㎝大の水球を作る。これはただの水を発生させれば良い。

 次は耐衝撃結界<マテリアルシールド>を水球の周りに展開。徐々に水球を小さく圧縮していく。

 圧縮した水球を覆った膜の一点にだけ、穴を空け水の出口を作る。


 ズバシュン


 大きな音と小さな水しぶきが舞ったかと思ったら、水球は一瞬で消滅していた。

 正確には飛んで行ったというべきか。

 目の前にいたスケルトンナイトの背骨を貫通し、崩れ落ちる。


【魔力を159テイクしました。】


 数が多すぎて一体どこまで届いたのかわからない。

 唯一わかったのは背骨を穿たれたスケルトンはそのまま活動を停止するらしいことだけだった。


 暫くは水球を複数にしたり、元の水球大きさを変えたり、天井に向かって薙ぎ払うような放ち方をしたり、と色々試した。


 たっぷり1時間程度は時間をかけて魔法を完成させる。貫通力、切断力、同時発動数、どれをとっても問題ない出来栄えになった。


「超高圧水流砲<アクアブラスト>」


 スケルトンナイトたちの頭上に発生した20個の2m大の水球が一瞬で圧縮され、30cm程度の大きさになると一点から水流を放射。

 放ちながらも角度を変え、高圧水流によって骨を、武器を切断していく。

 今更ながら、ルナに剣を回収させておけばと思った。後悔先に立たず。

 わずかに悲しみに暮れながらも、殆どの骨は剣と合わせて細切れになった。


「私が知っているアクアブラストと違います。」


 同じ名前の魔法あったんだ。


「知ってるアクアブラストってどんなの?」


「水の塊をぶつける魔法です。少なくとも衝撃で吹き飛ばしたりする魔法で、切断とか貫通なんて聞いたことありません。」


 高位のアクアブラストってことで誤魔化そう。そうしよう。


 その後もいくつか部屋を超え、今度はルナのマジックポーチに武器をすべて回収させてからアクアブラストで砕いていく。

 階段に着くころには、二人とも空腹で倒れそうだった。

総PV 2,000 ありがとうございます。

もし読んで楽しんでいただけていれば幸いです。

読みづらい点などありましたら、感想頂ければできるだけ精進したいです。

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