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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
24/26

24 湧いてYティ

 朝から少し野菜を買い足した。

 遺跡には徒歩では2日の距離にあるらしい。

 少し落ち着いたギルドで聞いてみたら、実はハーピー狩りに出かけるころには見つけていたようだ。

 ただ、調査も終わってないしで公開してはいなかった。

 そして、調査を終える前から噂だけで各地の冒険者が集まってきた。で、昨日はその人たちが一同に街についてしまったために起こったらしい。


 まあ、移動距離に関しては全然問題ない。

 何日か使ってなかったがハイジャンプがある。多分、数時間空の旅をすれば到着出来るだろう。

 ルナは苦手そうだけど楽なんだあれ。


 早速荷物をポーチに仕舞ったら、武器屋で適当な剣や槍をいくつか買い集めた。

 使いきりだが、通称:音速自壊キャノン に使おうと思っている。

 ただ、問題はポーチにしか入れられない。浮かせて持ち歩くには非常に邪魔だった。

 折角創製魔法っていうんだから、空間魔法でアイテムボックスみたいなのできないのかな?


 ・・・魔力足りないらしい。残念だ。


***


「 ぴ や あ ーーぁぁぁー !! 」


 ルナがハイジャンプに悲鳴を上げている。

 こちらは自分の魔法なので別に怖くないが、空に行くという手段がない世界で浮かされているルナにとっては恐怖そのものだ。

 多分、感覚的にはノーロープバンジーのそれだ。ハイジャンプとステップ(足場魔法)の組み合わせで高速で気温が下がるレベルまで飛び上がり、水平にハイジャンプを発動して超加速する。

 ふと思いついてやってみたら、大剣に乗れた。サーフボードみたいに。

 後で思えばこの時、久々に全力で魔法を試せることでテンションが上がってしまった。


 上空での重力軽減、剣をしまってステップ(足場魔法)と組み合わせて宙を蹴り、縦横無尽に高速移動を繰り返す。

 全ての魔法を切って自由落下を始めたところで再度剣を操り、魔力操縦によって拾う。


 この辺りでお姫様抱っこ状態で首にしがみついていたルナから掴む力がなくなった。

 右手側には白目を剥いたルナの顔、膝に手を通して腰に回している左手側は濡れて生暖かい。

 白目を剥いているルナの顔に、少女としてどうだと突っ込みたくなったが、これは言わぬが花だろう。


 あ、これ多分高度1000m超えてるわ。興奮から覚めた途端に、気温の冷たさまでわかってしまう高度自分でも驚く。


 ごめん、ちょっと調子乗りすぎた。


 地面に降りてから目を覚ましたルナに鬼の形相で見られてしまった。

 ちなみに、この時に被服修繕魔法<クリーニング>が完成した。着ている『全ての』服と体表を綺麗にする魔法だったが、ルナに使った後一瞬悲鳴を上げた後、身体をペタペタと触り「変態ですか」と烙印を押された。

 感謝されこそすれ、そんなバカな。


***


 正直、高速機動で空を飛んでしまえば、この世界の距離というのも何ということはない。

 ただ、冒険者もいけるような位置にできた。ということが何となく引っかかった。

 できた、なのかその距離までしか情報が入ってこないのか。どっちなんだろうなあ。


 まだ少し不機嫌なルナを後ろに控えながら入り口に到着すると、既に何組かがダンジョンの前にいた。

 ただ、立往生しているようにも見える。


「こんにちは。」


 そのうちの一番話が分かりそうな赤茶けたフルプレートで兜のフェイスガードを上に上げている男性に話しかける。


「ああ、どうも。こんなところにいるってことは同業者だよな。今回はやめておいたほうがいいぞ。」


「何かあったんですか?」


「一階からいきなりサラマンダーの群れがいるらしい。」


 サラマンダー、現代では火のトカゲとか火の精霊とか言われているが、こっちではどうなんだろう?

 無言でルナに振り返ると、分かっていないと気付いてくれたようで必要な説明をしてくれる。


「ご主人様、サラマンダーは人型で炎を纏ったEランクの魔物です。火事が起こった時に魔力が多くあり過ぎると、生命をもって復活して生きているものを襲います。」


 ありがとう。本当にできた仲間だ。


「人型で動きも遅くないので、複数だと普通なら相当厳しいでしょう。」


「まあ、行ってみようか。」


「本気か!?やめておけ、一人なら死にに行くだけだが、彼女もいるんだろう。少なくとも複数だとCランク以上の実力がないと無理だ!?」


 本気で止められた。よっぽどやばいんだろうか。


「大丈夫ですよ。ちょっと見てきます。」


「・・・そこまで言うなら止めないが、危険を感じたら戻ることを奨める。まだ若いんだ。後悔は少ないほうがいい。」


「ご忠告ありがとうございます。」


 ダンジョンの入り口に向かう。道を開ける入り口前の冒険者たち。

 今度はこいつらが挑むのか、という目で見ている。

 尻込みするくらいなら撤退したほうがいいぞ諸君。食料も時間も有限なんだ、と元サラリーマンが別の視点から忠告したくなる。

 

 ダンジョンに入る瞬間、何か幕のようなものを透過したような感覚がした。

 幕、というよりは水のカーテンみたいな物だろうか?それとも結界のようなもの?


「ルナ、今の感触は知っているか?」


「え?今何かありました?」


 気が付いていないのか。何だったんだろう。


「さて、ルナ。基本的には自動操縦の魔力喰いの大剣で守りながら戦う。可能なら攻撃して欲しい、レベルが上がったら儲けものだからね。」


 実はルナにはある戦法を授けてある。その名も【カウンターパイク】、相手が接近しているときに、アイテムボックスに入った左手から外の右手に4m弱の長槍を転送することで、相手の軌道上に槍を置くものだ。

 当然、身体も軽いのでまともに力を受けるわけにはいかない。槍の中央部分を手に持ち、自分の後方にスパイク付きの石突部分を接地させることで、相手の突進力を地面で受けることができる。


「かしこまりました。」


 初めての戦闘がいきなり高ランクなんだから緊張も当たり前だろう。だが、ルナを守るためにも付き合ってもらうほかない。

 歩き始めて、数十分、あまり見通しの悪くない場所を歩くようにしているのもあるが、物陰から数体のサラマンダーが現れた。


「ぉー、ぉーん」


 唸り声が聞こえる。人って焼け死ぬときは先に呼吸で喉が焼けるらしい、あれはどういう機構で燃えたまま唸ってるんだろうか。

 魔物だから関係ないのかもしれないけど。


 ゆっくりとした動きかと思ったら小走り程度の速度までは出るらしい。一瞬戸惑っている間に十を超えるサラマンダーが集まっていた。


「ルナ、離れない様に。殲滅する。」


「はい。」


 奈落の剣と魔力喰いの大剣を同時に操作開始、左翼は奈落が、右翼は大剣が襲い掛かる。

 風圧すら伴う剣速に一刀の元に切り捨てられるサラマンダー。


【魔力121をテイクしました】

【魔力115をテイクしました】

【魔力139をテイクしました】

【魔力122をテイクしました】

【魔力135をテイクしました】


 どんどんと蓄積されていく魔力。やはり高ランクの魔物の方が高い魔力を有している。

 これは魔力が高い=強いなのか、強い=魔力が高くなるのか、卵か鶏かの違いか?

 いや、きっとこれは重大な意味がある。いずれにしても魔力が低い高ランクの魔物が出れば卵が先なのかはわかるだろう。

 次から次へと集まってくる炎人間を1体だけ残し駆逐する。


「ルナ、最後は頼むよ。」


「わかりました。」


 前方の接近する人影に注意を払い、3mほどの距離まで近づいたころ、パイク(長槍)を取り出す。


 ぐしゃっ


「ひぃ!」


 炎で柔らかくなった肉体は長槍によって刺さり停止。しかし慣性で下半身が浮き、ルナが驚いた拍子に槍の先を持ち上げたため、空中でぷらぷらさせられることになった。

 しかし、まだ息絶えていないサラマンダーが暴れたため、空中で魔力喰いの餌食になった。


【魔力119をテイクしました】


「串刺し少女ルナ。」


「じろり。」


 からかうと、ジト目で見返してくる。今じろりって口で言ったな。

 お茶目なルナを可愛がりながら、手当たり次第に現れた魔物を倒していく。勿論ルナ最後の1体も忘れずにこなす。


 あまりに他の冒険者と遭遇しないこと、サラマンダーしかいないことから二人とも飽き始めていた。

 油断しすぎではあるが、移動時には二人にそれぞれ一本ずつの魔力操作剣を背後に装備している。

 『3mいないに接近する物は切り捨てる』仕組みにしたところ、トラップの矢もあったもんじゃなかった。


 落し穴系があると怖いので、途中から剣に乗っての移動に切り替えた。

 ルナをお姫様抱っこし、大剣をサーフボードに、奈落の剣を護衛用に操作。

 床のトラップも関係なく、出てくる敵を倒す簡単な作業になった頃、下の階への階段が見つかった。


***


「階段ですね。」


「階段だな。」


 そう、階段だった。しかも結構長い。

 正直もっと何か魔法陣的なもので下の階に行くのかとも思ったが、なんてことない石造りの階段だったのだ。


「まあ、下の階に行ってみようか。」


「そうですね。」


 何度かの戦闘によってルナにも若干の余裕が出てきた。獣人だけあって戦闘はセンスがいいのか、パイクで刺した後に横薙ぎして転倒させる、という技術までいつの間にか身に着けていた。

 ギルドカードを見ていないので、今の魔力がどれくらいあるかはわからないが、五十近くは狩っているので後が楽しみだ。


 階段を降りて最後の1段を降りたところ、これまた陰気な湿気ったような空気が感じられた。

 階段を降りた先は4畳ほどの石造りの小屋を連想させ、階段の正面には扉がある。


「気持ち悪い臭いがしてます。」


 ルナが顔をしかめている。人間よりも優秀な嗅覚な分、異変に気付きやすいようだ。


「どんな臭い?」


「何かが腐ったような、そんな臭いでしょうか?」


 1階層がサラマンダー、2階層は腐った、さあ何でしょう?

 答えはゾンビでした!


「「ぉぉーぉー」」


 扉を開けるとそこは、街一つを全部ゾンビにしたような、そんな光景だった。

 一斉に振り返り、歩き出すゾンビの群れ。数多すぎるよ、これは。


 急いで扉を閉めて階段までバックする。少し待っても石畳の部屋には入ってこなかった。

 それとは逆に上から降りてくるサラマンダーもいない。安心できないが他の階層との接続部分は、セーフゾーンとして使うことも出来そうだ。


「新しい魔法が至急必要だ。」


「そんなポンポン作るものではないと思います。普通は。」


「気にしない気にしない。」


 でだ、何を作ろうか。痛みもなさそうだし、死体と言ったらやっぱり焼却か?

 爆発魔法を最大で放ってもいいが、遺跡自体が崩壊しないかが心配だ。


 でも火を広範囲に出す魔法か。ただ燃やすだけだと、そのまま歩いてきた時にえらいことになるから、一撃で戦闘不能にしたい。

 あ、じゃあこれを試してみよう。やっぱり魔法が創作できるならカッコいいのも使ってみたい。


「よし、一回使ってみようと思う。

 但し、いざという時のために、いくつか分からないけど魔力の半分を使って障壁を作るから、外に出ないでね。」


「かしこまりました。」


 もう一度、魔法をイメージしながら扉を開ける。

 ガバッと振り向く大量のゾンビ。怖いわ。


「フェニックス」


 炎が目の前に集まり始め、約3mになった頃、鳥の形になっていく。

 炎の鳥は徐々に色を薄くし、最後には青色の炎になる。

 青く燃える鳥は一度羽ばたくと最高速度まで加速してゾンビの群れを焼き裂いていく。


 ゾンビ一体あたりの魔力は平均して90前後、ただ、どれだけいたか分からないくらい大量にいることから、『集団だと手間がかかる相手』なんだろう。


 右へ左へ上から下に。

 火の鳥は字の如く縦横無尽に駆け抜けた。


 途中で火の鳥に魔力をチャージする。使いきりチャージ式の方が、回復力が高い自分にとっては使い勝手がいい。

 下手に温存するよりは使い切ってしまえ精神でいこうじゃないか。


「もう、私要りませんよね。」


「戦闘では最初から宛にはしてなかったしねえ。」


「拗ねてもいいですか?」


「ゾンビの仲間になっても良ければ。」


 いーやーでーすー!と叫ぶルナ、そんな呑気な会話ができるくらいにまだまだ余裕だ。


「そういえばご主人様、今の魔力どれくらいなんですか?」


「後からカード更新してみよう。多分、この階層で相当強くなってると思うよ。」


 その後数分して、 全てのゾンビを灰燼に帰したところでギルドカードを更新してみるのだった。

 がっくりと肩を落としているルナのワイシャツの隙間からちらっとたわわな果実が見えたのは、心に仕舞っておく。



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レベル 98

筋力 … 108

体力 … 108

器用 … 108

敏捷 … 108

魔力 … 16221

魔力回復 … X


技能:魔力接収、創製魔法

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