表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
23/26

23 遺跡ってなんだ

 見るからに職人、どう見ても職人。それが第一印象だった。

 一つの動作に対して究極とも言えるほど最適化された肉体。

 筋肉の着き方、姿勢それらはある意味芸術的だった、と若ければ言われただろうムキムキマッチョのおじいさんが、ハンマーを担いでカウンターの奥から出てきた。


「なんでえ?客か?」


「初めまして。ちょっと変わった剣を作ってほしくて受けてくれる方を探しているんです。話だけでも聞いてもらえませんか?」


 おじいさんの目がギラリと光る。どうやって光ったんだ今の。


「聞こうじゃないか。」


 余っていたルナの隣に座った。ルナ、いくらすごい汗だからって顔をしかめない。


「まず、私は魔法士です。というと、門前払いを食らうので少し魔法を見てください。」


 背中に軽くして装着している二本の魔力喰いを浮かせ、まずは奈落の剣を操作する。


 フォンッ、フォンッ


 軽い風切り音で何度か剣を振る。魔力は大体200、ゴブリン程度なら軽く両断できるような剣速だ。

 次は大剣の方も追加で操作する。使う魔力は400、自分でも視認できないレベル。その速度で二本の剣を打ち合わせる。さながらイメージは模擬戦といったところだろうか。

 意識と思考だけで操作するので別に視認する必要まではないのだ。


 ガキィン、ギィィィ、キィンッ


 ひとりでに宙を舞い、ひとりでに戦う二本の剣。


「ほお?面白い魔法を使うじゃねえか。」


「ただ、難点がありまして。」


「何だ?」


「最高速度で多分音を超えます。ですが、耐えられる剣がこの二本しかない。」


 沈黙が流れる。断ち切ったのは職人。


「・・・なあ。」


「なんでしょうか。」


「音速ってなんだ。」


 そう来たか。


「分かりやすく言うと、遠くから叫ぶと同時に剣を放った場合、声が聞こえる前に切れる。ということです。」


「ものすごく早いんだな?」


「ありていに言えば。」


「でも早いことの何が問題だ?当たるんだろ?」


「後でお見せしますが、音速を超える瞬間に空気が爆発して衝撃波を作ります。そして、最悪空中で剣が自壊します。」


 いわゆる空気の壁を突破するというやつだ。

 職人は嬉しそうな顔をしながら奈落の剣と同じくらいのロングソードを取り出してきた。


「ちょっと外で見せてくれ。この剣を使ってくれていい。裏手なら誰にも見られんだろう」


「わかりました。」


***


 三人で裏手にやってきた。店の裏手はそのまま広大な雑木林になっており、成る程、これなら見られることはなさそうだ。

 でも魔物とかどうやって退治してるんだろうか。筋肉か?


 手に持った剣に魔力を通して剣を浮かす。通す魔力は2000。この速度でやったことはないが、多分マッハ3くらいは出ると思う。


「危険ですので後ろにいてください。」


 ピシュ、パーーーーァァン


 ガガガガガガッ


 説明しよう。

 全力で正面に放つ、10mくらいで最高速になるよう加速する。

 剣が自壊、慣性の法則で速度を保ったまま気に突き刺さる。

 

 こんな感じだ。いや、もうこれが攻撃方法でもいいかもしれないとか思ってしまった。


「剣でこんなことするなら魔法で攻撃すりゃいいじゃねぇか。」


 職人さんもそう思うようだ。


「いやあ、物を操るのが本懐なものですからね。壊してしまっては元も子もないんです。

 なので、あそこまでは出来なくても、もう少し耐久性があって、軽いものを作って欲しかったんですよ。」


 職人の視線は後ろの二本、魔力喰い達に向いている。


「今持ってるその二本じゃいかんのか?」


「ダメです。数が足りないんですよ。お店の中で見せた高速の剣舞レベルなら20本近くは同時に操作できます。」


 ちょっと誇張して言っておく。呼びも含めて今だと10本行かないくらいが限界だと思う、けどストック欲しいし。


「・・・冗談じゃなさそうだな。てか、さっき二本でやってたしな。」


「軽くて丈夫なほど、同時操作がしやすいので、方向性はそれで。後、手では握らないので、柄も要りません。」


「そうか。よし!面白そうだ。じゃあまずは20本、材料費諸々込みで金貨100枚でどうだ。」


 よっしゃ!心の中でガッツポーズ。


「そういえば、品質はわかりませんが金属の塊があるので、良かったら使ってもらえませんか?ルナ、出せる?」


「少々お待ちください。」


 そういうとポーチに右手を突っ込み、『左手に』ポーチから長さ2mの円筒状の金属を出現させて地面に落とした。


「お嬢ちゃん。いったい今何した?」


「ごめんなさい、秘密ってことになってるので。」


「まあ、マジックバッグみたいな代物だろうが、あんまりほいほい見せるんじゃないぞ。危ないからな。」


「気を付けます。」


 笑顔で答えるルナ。


「二人ともわけわからん。が、これはいい仕事が出来そうだ。これは後から材料費と相殺しとくぜ!」


「「ありがとうございます」」


 それから辺りが暗くなるまで、店の裏手で『剣を使った』戦いの方法を説明していた。

 最適な長さや、重量、切れ味などを考えてもらえるそうだ。



 少し暗くなってきたので、店に戻り詳細を詰めることになった。


「なあ、あんちゃん達。今回持ってきた金属の出どころは聞かねえ。だが、あんまり無茶な山は登るんじゃねえぞ。」


 材料だけで貴族に喧嘩売ったことに気付いているのか。


「ありがとうございます。まあ、山が迫ってこない様に頑張りますよ。」


「あんだけの力があってそれを言うんだからある意味大物だな!」


 2週間後、ジーンの街出立の直前になるが仕方ない。ギリギリでもある分だけ貰っていくこと、残りはまた今度貰いに来ることで話が付いた。



***


「ご主人様、お腹すきませんか?」


 すっかり街が暗くなったころ、ルナが提案を出した。

 自分から言ってくるあたり余程空腹だったのだろう。


「ああ、じゃあ情報も聞きたいしギルドに戻ろうか。」


「急ぎましょう!ご飯が待っています!」


 嬉しそうに手を取って駆け出すルナ。

 そんな姿を見ながら、こちらも頬が緩んでしまうのだった。



 さて、ギルドに着いたらこれまた大喧噪に包まれていた。

 大勢の冒険者がいるわいるわ。なんだこれは?


 とりあえず、まずは食事がしたかったので二階に上がって空いているカウンター席に二人で座る。


「今日はオークサンドでお願いします!」


 メニューも見ないでルナが料理を決める。殆どこれを食べてる気がするな。

 栄養バランスとか大丈夫だろうか?まあ、胸も十分にあるくらいだから健康ではあるのか。セ、セクハラじゃないぞ。


「じゃあオークサンド二つお願いします。」


「かしこまりましたー。」


「ルナ、ちょっと聞き耳立ててくれないか。」


「わかりました。情報整理しますので、少しお待ちください。」


 犬の耳しているし良く聞こえるだろ、と思って頼んでみたらほんとにできるようだ。

 ピコピコと色々な方向に向く天を突くように張った犬耳。流石、獣人というべきか身体能力が人と比べ物にならない。


「ある程度わかりましたよ。何でもこの近くに遺跡が見つかったそうです。」


「遺跡?ダンジョンじゃないんだ?」


「ダンジョン?何ですかそれ?」


 この世界にはダンジョンという言葉自体が存在しないのか。


「いや、何でもない。気にしないで。それで、その遺跡って言うのは?」


「一般的には古代に作られた魔物が出る建築物、という解釈です。遺跡の存在自体は理由がよくわかりませんが、何もなかったところに突然できることもあるそうです。」


 と、いうことはおおよそダンジョンのように解釈してもよさそうだ。


「冒険者が多いということは魔物も?」


「ですね。ですが、皆さんの話だと遺跡の魔物が全体的に非常に強いみたいです。」


「序盤は弱い魔物とかではなく?」


「仰る意味はわかりませんが、普通は遺跡の難易度は固定と言われてますよ?お父様からも聞きましたし。」


 ということは最初からハードモードもあり得るわけか。


「あ、マスター、こんばんわ。」


「こんばんわ。マスターさん」


「ヴォルフ君にルナちゃん、こんばんわ。待たせたね。オークサンド二つだよ。」


 せわしなさそうだが一応聞いてみよう。


「マスター、遺跡って誰でも入れますか?」


「やっぱり聞きつけてしまったか。どうだと言われれば可能だ。けど、出来れば依頼の方も受けて欲しいかな。」


「わかりました。ちなみに魔物の数はどっちのが多そうですか?」


「遺跡だね。湧き出てくるとでも言っていいかもしれない。Cランクパーティ以下は無理な位だ。」


 まだ早いか?でもなあ、手っ取り早くを狙うと後が怖いが、強くなるのが遅くなるほうが今は致命傷だ。

 やり直しの効く失敗なら何度でもできるので最悪逃げ帰ろう。

 そうでなくても一階層で延々と狩ってみるのも手だと思う。


「じゃあ、明日遺跡の様子を見に行ってから考えます。」


「そういうだろうとは思ったよ。まあ気を付けて行ってきてくれ。」


 マスターは半ば呆れたように去っていった。

 別に強い魔物が呼んでいるとかいう気はないんだけど、それでも倒せる中ならより強い魔物が欲しいのが今なんだ。


「悪かったねルナ。拗ねないで食べよう。」


「べ、別に拗ねてなんかいません。頂きます!」


「いただきます。」


 明日の朝市で野菜類買っておけば数日の野宿なら平気な筈だ。

 こっそりスケジュールを考えながら今日の料理に舌鼓を打った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ