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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
22/26

22 あるもので何とかする精神

 ルナの服を最初に買いに行ってよかった。

 正直薄いワイシャツもどき1枚だったので、いつ胸が隙間から見えるか冷や冷やしていた。

 別にいつも胸を見ていたわけじゃない。大きいなあとか思ってない。期待してたなんてないったらない。


「さて、次は武器屋に行こうと思う。」


「あの鉄の塊ですか?」


 鉄の塊とは、ルナを捕まえていた騎士たちの剣を溶かして作ったものの事だ。

 ちなみに、持ち帰ろうとした際、重い上に球体にしてしまうとポーチに入らないので、わざわざ円筒形に固めたという小さな苦労もあったりした。


「そう、それで刀身だけの剣を作ってもらうんだ。」


「何故ですか?」


「俺の魔法に必要なのは刀身だけだからね。」


 魔法で振るにあたっては柄は必要ない。相手を切るための刃さえあればいいのだから。


「そんな訳で何件か回って信用できそうなところを探してみよう。」


***


 そうして何件か回ってみたが、結局やってくれる武器屋は見つからなかった。

 魔法士と名乗るだけで、振る気のない奴に武器なんか作れるか、と門前払いを食らってしまったのだ。


 結局収穫のないまま夕方になり、ギルドに夕食を食べに来ていた。

 勿論いつもの席、と行きたかったが今日はテーブル席しか空いていなかった。


「ご主人様、見つかりませんでしたね。」


「ああ、まさか一軒も詳しい話を聞いてくれないとは思わなかった。」


「せめて魔法を見てくれれば心変わりするかもですが。」


「「はあ。」」


 二人で溜息をつく。


「お待たせしましたー。」


 黒髪をツインテールにしたスタッフが料理をおきながら、話しかけてきた。


「お二人でため息ついてましたけど、何かお困りですか?」


「多少無茶を聞いてくれそうな、腕の良い武器屋を探してるんだけど中々見つからなくてね。」


「職人さんって頑固な人多いんですよねえ。あ、街の南外れのリトヴィアさんのお店行ってみましたか?」


「そこまでは足伸ばしてないですね。お店の名前は?」


「『覇道の剣』という名前ですよ。在庫を持たないし、好きなものしか作らないって有名なんです。

 でも腕は確かですし、面白いものが好きだとも聞きます。もしかしたらやってくれるかもしれませんよー。」


 人の事言えないかもしれないけど変わり者ってことか。

 じゃあ、今日の目標はそこを回って終わりにするか。


「ありがとうございます。後で寄ってみます。」


「お役に立てたようで何よりですー。またご贔屓にどうぞー。」


 いい情報が得られた。情報を得るという意味でもギルドの食堂は良いところなのかもしれないな。

 冒険者が集まるから冒険者に必要な情報も集まる。覚えておこう。


***


「ご主人様、私もギルドカードを作ってほしいです。」


 食事を食べ終わるとルナが突然言い出した。殆ど自分から要望を出さないので驚いたが、断る理由もない。


「また突然だなあ。どうしたの?」


「いえ、ご一緒すると決めてからずっと考えておりました。私を同行者として認めて頂けませんか?」


「戦闘は?」


「出来ません。」


 そこまで即答されるとかえって潔い。一階に降りて脇のテーブルに移動して話を聞くことにした。


「多分この先も沢山の戦闘がおこる。そして、戦闘に赴くと思う。本当にそれでもいいのかい?」


「戦闘は好きではありませんが、ご主人様といられるならどこまでもご一緒します。」


 可愛いことを言ってくれる。こんな可愛い少女にそんなこと言われたらくらっと来てしまいそうだ。来てしまった。

 そこまで言われてしまっては断る男もおるまいて!全力で考えてみよう。


「技能は?あ、小声で良いから。」


強制交換アクティブトレードというユニークスキルです。自分が手に持っているものと相手が手に持っているものを強制的に交換できます。」


 戦闘が出来ないといったが、成る程。戦闘の心得がないなら全く無意味なスキルになりそうだ。

 しかし、悲しそうな声で続けるルナ。


「でも使い道ってないんですよね。例えば手の中の小銭と相手の金貨を入れ替えるとか、ちゃっちぃ使い方しかないんです。」


 キーワードは『強制的に』だ。これはあらゆる場面において戦闘では非常に役立つことがある。

 ことがあるだけだけど。


「効果の範囲は?」


「相手が見えていること。それだけです。」


「鞄の中のものも入れ替えれる?」


「いえ、手に持ったもの限定ですね。なので自分も相手も手に持っている必要があります。」


 聞けば聞くほどしょんぼりとしていくルナだが、今後の戦い方に多いに貢献できそうな予感がした。


「どれくらいの速度で連続使用できる?」


「お父様に協力してもらいましたが、1秒間に何度も出来ました。」


 考える。手に持っているものを強制的に交換するということは、等価の価値である必要がない。

 この技能が盗賊などに渡らなくて本当に良かったと思う。


 マジックポーチを渡せるだろうか。


「シンシアさーん。」


 丁度接客中でなかったシンシアさんを呼ぶと笑顔でテーブルまで来てくれた。


「すみません、呼びつけちゃって。」


「構いませんよ。どうされたんですか?」


 マジックバッグの所有者って変更できますか?


「え!?」


「可能ですよ。お連れの方にですか?」


「ええ。いつでも良いのでやって頂けるとありがたいんですが。」


 そういうとふふふ、とシンシアさんが笑う。


「お二人だけで大丈夫ですよ。今からやりますか?」


「やりましょう。ルナ良いね?」


「え?どういうことですか?」


「お願いします。」


 言葉にならないルナを尻目に説明を聞いていく。

 マジックポーチの中に片方が手を入れて、取り出しかけた物を二人で持って現所有者が『譲渡する』旨の意識をしながら魔力を流す。

 そして次の所有者が『受理する』と意識しながら魔力を通すことで譲渡が完成するようだ。

 購入の時には何だったんだと思うくらいの簡単さだった。

 事が終わるとまた笑顔で去っていくシンシアさん、ありがとうございます。


「・・・マジックポーチです。」


「マジックポーチ以外ではないかな。」


「ですよね。ご主人様、何で私なんかに渡したんですか?」


 疑いの眼差しを向けるルナ。別に意地悪したわけじゃないんだけど何となく、悪いことをした気分になる。

 まぁそれでも必要だからやるんだけどね。


「それは追々説明しよう。」


 そんな!と言いかけたルナを流して立ち上がる。


「まずは武器を作ってもらわないといけないんだ。」


 ルナのギルドカード作りをすっかり忘れていたので、ギルドを出てからルナに少しだけ責められた。


***


 街の南側の外れ、『覇道の剣』はひっそりと建っていた。

 並外れた名前の店にも拘らず、小さな看板が一つ掛かっているだけ。

 他の武器屋にあるような大袈裟とも言える武器のサンプルや、盾に鎧などは一切なかった。


「すみませーん。」


 ほとんどがらんどうなロビーに右の奥に続く部屋の前の小さなカウンター。

 そして、左の壁側にはテーブルといすだけが置いてあった。

 知っている人でなければ武器屋などとは露にも思わないところだろう。


 カーンカーンカーン


 鉄を打つような音だけが聞こえる。職人が仕事しているときに声をかけるのは危険だ。

 暫く時間が掛かることを覚悟して、ルナと中断した話をすることにした。


「ルナ、さっきの話だけど。」


「はい。ご説明をお願いします。」


 少しだけルナの視線が冷たい。


「地面の小石を拾ってみてくれないか。」


「はい。これでいいですか?」


「じゃあ、魔力喰いを持つから交換してくれ。危ないからすぐ放してね。」


「わかりました。」


 魔力喰いの【奈落の剣】を持つと瞬時に小さな石ころと入れ替わる。

 持ち続けると危険なことを分かっているので、そのまま地面に剣を落とすルナ。

 重厚な金属音が響くが、奥からはやっぱり人は出てこない。


「重量的には剣もいける、か。じゃあ次はこれだ。」


 魔力で浮かした大剣を手に持ち、さっき手の中に移された石を手渡す。


「では、行きます。」


 ガアァァァアァン


「ひっ!」


 またも金属が地面に落ちて轟音を響かせる。

 交換できたところまでは良かったが、重すぎて支える事すらできなかった。

 恐らく、恐らくだが人が『手で持っているもの』はすべて交換できる。


「じゃあ、最後にこれ。」


 テーブルの足を掴んでみる。


 大きすぎるものに対してはどうなのか。

 

「はい。」


 ズドンッ


「ひゃぁっ!?」


 やはり、『持っているもの』に対してはほぼ有効なようだ。

 相手の武器を無力化するなら、これ以上の逸材はない。

 相手を倒すのではなく、無力化する。戦えない少女なりの戦い方があったのだ。


「じゃあ、最後に小石を持ったままポーチに手を入れて。」


「こうですか?」


「じゃあまた交換してみようか。」


 そういってテーブルを『持つ』


 ひゅんっ


 『持って』いたテーブルが無くなり手のひらに小石が握られる。

 一見テーブルが消滅したようにも見えるが、思った通り『ポーチの中に入れた手』に転送されたようだ。

 

 にやり、これなら対人戦ではかなり有利に立てる。

 少なくとも襲撃以外での即死はかなりの確率で減った。


「ご主人様。悪い顔してますよ。」


「あ、っと。ごめんごめん。じゃあ、テーブルを元に戻そうか。」


「はい。」


 交換したテーブルがこちらの手に戻ってくる。重い!慌てて風の魔法で浮力を調整して優しく置く。

 そりゃ、さっきから無遠慮に音出してるけど、わざとじゃないから許してほしい。気付いてなさそうだけど。


「でもこれだけだと、決め手に欠けるなぁ。」


「いえいえ!こんな使い方考えたこともなかったです!」


 そりゃ商人の娘だもんね。あんまり泥棒まがいの事は考えたりしないだろう。


 あ、そうだ。


「それぞれの自分の手の中のものを交換できる?」


「それなら出来ますよ。」


 来た。我、天啓を得たり!


「じゃあここを出た時に少し練習しよう。」


「かしこまりました。」


 ルナには本気で生き残る戦いができるようになってもらおう。


「ところで、まだ職人さん出てきませんね。」


カーンカーン


 鉄を打つ音はまだ終わっていなかった。

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