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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
21/26

21 服を買おう

 明日の朝までは、次の目的地に出発できないため、今日一日は準備に充てようと思う。

 前回街を発った日から9日目、そろそろワイシャツの複製品が出来ている筈だ。


 街を縦断するメインストリートから一本入り、前回注文した洋服屋に入る。


「いらっしゃ・・・あ!お兄さん!待ってたよ!ささ、中に入って!」


「あ、はい。」


 あまりの勢いに圧倒されてしまって流されるまま、奥の部屋に通されてしまった。

 後でおばちゃんが『あんたー』と叫んでいるのは、きっと旦那さんを呼んでいるんだろう。


「すまないね、待たせちゃって。ちょっと旦那も呼んだから少し待っててもらえ」


 バタン!背が低い細身のおじさんが入って来るや、手を取ってきて上下に振り回す。


「お待たせして申し訳ない。この度は本当にいい品を見せて貰ってありがとうございます。」


「いえ、こちらこそ。無理なお願いだったらどうしようかと思いました。」


「とんでもない!ちょっと気合を入れて作りすぎてしまったので5着近くありますが、もし良かったら貰って頂けませんか?」


 1着目を一週間でと言っていたのに早すぎる。一体どれだけ気合を入れてたんだ。

 ありがたい申し出だけど、本当にいいのだろうか。はた、とルナの着替えがないのを思い出したので、それを購入することに心の中で決めた。


「そういって頂けるならありがたいですが、本当にいいんですか?」


「ええ、そちらの女性が来ても似合っていますので是非。」


「ありがとうございます。それと、今回彼女の服も何点か買いたいのですが、見せてもらってもいいですか?」


 え?私?と自分を指さすルナ。この部屋にはルナとおばちゃんしかいないよ、と内心で突っ込む。


「それなら私は下着とズボンだけ見せてもらえますか?」


「宜しいので?」


「宜しいです。この服着やすいですし、ご主人様に始めてもらった服ですから。」


 一瞬ご主人様発言に固まる亭主。が、すぐに気を取り直して笑顔に戻った。この人もなかなか商売人だ。


「では妻がご一緒しましょう。おい、一緒に行ってくれないか?流石に私じゃ下着は見れん。」


「何言ってのよ。そんな事しようものなら張り倒すわよ!」


 まったく、と言いながら満面の笑みでルナを連れ出していくおばちゃん。

 ご主人の方は初めて会ったが、本当に仲の良い夫婦だ。


「彼女は奴隷の方ですか?」


「ええ。意外でしたか?」


「あそこまで生気というか元気がある奴隷の方も珍しいので。よっぽど大切にしてらっしゃるんですね。」


「まだ会って数日ですがね。行きがかりの縁というモノですよ。」


「あなたがそう仰るなら彼女も幸せでしょうね。」


 そういうと少しだけ遠い目をした後、思い出したように振り向いた。


「そうだ。あなたであればここにはないデザインをお持ちではないかと思っていたのです。

 今着ているものといい、その技術といい、そんな気がしましたが、何かありませんか?」


「・・・何でもいいですか?」


 これはまたとない機会がやってきてしまったようだ。男の夢、メイド服。ここまで来て思っていた。

 少し前から気付いてはいた。この世界には制服がない。

 マスターも、それ以外のコックもエプロンなんてつけていないし、領主の使用人も私服のようで装いは統一されていなかったのだ。


「先にお聞きしておきますが、貴族の使用人の服はどのようなものでしょうか?」


 突然替えられた話に戸惑う亭主。


「貴族の使用人ですか?基本的には私服だと聞いています。使用人用にわざわざ服を用意しているというのは余程の金持ちか物好きでしょうかね。」


 後に小さく、それもまともではない服ですが、と続く。要は変態趣味ってことなのだろうか。


「では、その方向性のデザインはどうでしょうか?私の故郷にあるメイド服というものです。」


「長年服屋をやっておりますが、初めて聞きます。是非教えてください。」


 そういうと奥の方から、何枚かの大きな紙を持ってきた。そこに大まかなデザインから始まり、細かい部分のディテールまで盛り込んでいく。

 男二人がああでもない、こうでもない、こっちのフリルが、あっちの方が、と試行錯誤しながら完成形を作っていった。

 これなら 男(自分)の浪漫を詰め込んだ一品が出来るだろう。

 ちなみに、初期デザインは試作品ということで最初の一着が貰えることになった。

 服を選び終えてルナが返ってくる頃には、ほぼ形になっているメイド服のデザイン画が出来ていた。


「ご主人様、お二人で何してるんですか?」


「ああ、故郷の服がこの辺で見なかったからデザインを提供したんだ。出来上がったらもらえるらしいから着るかい?」


 別に是非着てくれなんて思って、るんだから!


「ご主人様の故郷の服ですか。これはまた・・・とても可愛らしいですが、凝ったデザインですね。」


 一瞬商売人としてのルナが出ていた。相当真剣な顔をしていたので、商品として出せるか考えていたのだろう。


「メイド服、と言って故郷の貴族の使用人が着ていた服なんだ。」


「成る程。通りで男性受けしそうなデザインな訳です。でしたらまずは私が着なければなりませんね!」


 ふんすっ、と胸を張って宣言するルナ。


「あ、デザイン料ですけど貴族向けで恐らく相当数売れますので、売上価格の1割位は頂きたいところですね。」


 突然の商売開始に驚いてしまうが、逆に亭主には感心していた。


「当然です。私としては逆にこれなら2割はお渡ししても良いと思っておりますよ。」


 普通は嬉しい申し出のように思えるが、ルナは数瞬の迷いもなく断った。


「いえ、1割でお願いします。継続的に売り上げを上げていただくことと、派生商品も含めての意味で申し上げています。

 お互い疲弊せずにいい関係を築くなら、これくらいで丁度良いでしょう。」


「そこまで考えて頂けるとは。わかりました。今後とも宜しくお願いします。」


「こちらこそ、宜しくお願いします。ご主人様もこういった商品があるなら、商会を作ることをお勧めしますよ。って聞いてます?」


「え?あ、ごめん途中からルナすごいなーとしか思ってなかった。」


 生まれてこの方商売なんて自分でしたことないしね。元プログラマーにそんなに求められても困ってしまいますとも。

 溜息をついて亭主に向き直るルナ。いや、そんな顔されても。


「では、今回はそう言った内容でお願いします。特に疑う訳ではありませんが、売上があった場合には帳簿に記録をしてください。

 最初は日付と金額、品物の名前だけで構いません。そこから1割を算出しましょう。」


「本当にしっかりしてらっしゃる。今は日々の売り上げしかつけていませんので、メイド服が完成するまでには大勢を整えましょう。」


「今までやってなかったんですか・・・。出来ればすべての商品でやることをお勧めします。

 それによって売れている商品の流行も見えますし、不人気で撤去する商品もわかります。

 継続するほど、前年度の記録も残って振り返りができますので、恐らく今よりも売上は向上するはずです。」


 そこまで指摘するのか。ルナすごいなー。


「どうしてそこまで教えていただけるんですか?」


「ご主人様と今後ともお世話になりたいと思っていますので。」


 それに、と続ける。


「仲の良いお二人のお店が気に入っちゃいました。」


 にっこりと笑うルナに、おばちゃんの方が若干涙ぐんでいる。

 その場で買った商品の料金を支払い、今日のところは服屋を後にした。


 少し店を離れたところでルナに声をかける。


「ルナ」


「出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした!」


 土下座するような勢いとかじゃない。目にも止まらぬ速さで土下座した。伏せられた耳がかわいらしい。


「いや、そうじゃない。ありがとう。俺じゃそういうことに全く気付けなかったよ。」


「え?」


 一瞬よくわからないと言った顔で見上げたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。


「どういたしまして!」


 そして土下座の姿勢まま、改めて頭を下げた。

 人目がありすぎたため、ルナを慌てて立たせて逃げ去ったのは言うまでもない。

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