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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
20/26

20 ルナの話

 まず、私の名前ですが、ルナ=フォルド=メセタニアと言います。

 森の国の豪商と言ったらわかりやすいでしょうか。大きな商会の代表をしていました。


 ある日、アルフデリック家と名乗る使者が、私の家にやってきました。

 後継者という名目で私も育てられましたので、父に同席して話を聞いたのですが、内容が奴隷の斡旋だったんです。


 獣人族は種族にもよりますが、軒並み人族に比べて何かしら特出した能力があります。


 例えば虎獣族なら、強靭な体躯に高い反射神経、戦闘のプロフェッショナルです。

 他にも妖狐族なら、高い魔力と高位の炎魔法を持っています。


 話が逸れましたが、そういった彼らを奴隷として、バントデンの街に卸せという要求でした。

 見返りは一人当たり金貨10枚、一人の人生を壊すにしては、はした金も良いところです。


 当然、父は怒りました。

 奴隷を扱う気もないし、ましてや同族を売るなど絶対にしない。

 二度と自分の商会に近づくな、と。


 そして、アルフデリック家とは取引をやめる旨、国内の全ての支部と連携を取りました。

 信用のできない取引先は絶対に相手をしたくなかったからです。


 しかし、半年経った頃、また使者が来ます。

 使用人によって門前払いされた使者が、帰り際に絶対に公開することになるぞ、と言って帰っていったそうです。


 その後、私が攫われるのにさほど時間は掛かりませんでした。


 捕まってからは、アルフデリック家の当主と、ご主人様が殺してくれた二人の兄弟、そして末の妹と言っていましたが、代わる代わる私の事を


***


 そこまで一息で言い切ると、その頃を思い出したのか涙ぐんで俯いてしまった。

 傷を抉ってしまいそうで、拷問の時のことまでは流石に聞こうとは思わないので止めることにした。


「ルナ、話してくれてありがとう。で、これからだけどどうしたい?

 信じていない訳ではない。ただ、今後狙われる可能性と、俺の情報の事もあるから出来れば一緒に行動したいけど。」


「勿論です。何も仰らなくても私はずっとご一緒するつもりでした。」


「わかった。旅の目的は今のところないから、希望があればまた行ってくれ。」


「ありがとうございます。そしてごめんなさい。きっと沢山迷惑をかけます。」


 ルナを助けた時点で乗りかかっていた舟だ。今更捨て置けるわけもない。

 それにルナも可愛いし一緒に旅が出来たら一人よりは楽しいだろう。

 そのうちルナの奴隷も解除してやりたいとも思う。


「お待たせ出来たよ。それと悪いね。肉の焼ける音に交じって半分くらい聞こえちゃってたんだ。

 君があのメセタニア商会の娘さんだったとは。一応一方をいれておいたほうがいいかな?」


「マスター、今のところ内密にしておいてもらえますか?」


 ルナを拾った経緯と今回のいきさつを話す。勿論、兄弟を葬ったことも。


「成る程ね。もし間者に伝わってしまったら、次の手が待っているだろうし、こちらへの襲撃も考えられるという訳だね。」


「察しがよくて助かります。なので、この後の領主様との同行にも連れていきたいとは思っています。」


 マスターが顎を触りながら考えている。


「本当にいいのかい?今のヴォルフ君で守り切れるだろうか。」


「ええ。なので、あと2週間で何とか強くなろうと考えています。依頼でなくても構いませんので、何かいい場所はありませんか?」


「どれくらい危険なことを言っているのかわかっているかい?」


「勿論です。」


「わかった。ならDランクの魔物が多く生息している場所を紹介しよう。だが、依頼前提だ。いいね?」


 是非もない。当然と言わんばかりに頷く。


「では、また明後日の朝までに準備しておくよ。ヴォルフ君は随分と速く走るらしいから、周辺の討伐要請を整えておこう。」


「ああ、討伐要請の場合には、その地域で特定の魔物を一定数狩って討伐報酬を持ってくればいい。

 未達成のペナルティがある依頼と違うから、気軽に行ってくるといいよ。準備だけは万全にね。」


「わかりました。」


「少し冷めてしまったね。ほんの一瞬温め直そうか。」


 もう一度皿を持ってカウンターの調理場に戻るマスター。

 その後は、マスターも交えての遅めの夕食となった。

 血抜きオーク肉のあまりの美味しさに、またも涙を流すルナを撫でながら食べる食事は今日もとても美味しかった。


 結局、宿を取るには遅くなり過ぎたので、二人で一緒にギルドの休憩室を間借りした。

 ルナと隣で寝ていたが、久々に戻ってきた街に安心して、二人ともすぐに眠りに落ちていった。


***


 ギルドの朝は早い。

 休憩所は適当な仕切りをしただけのロビーの一角なので、朝の騒がしさが非常に分かりやすい。

 眠い目を擦りながら厠に向かい顔を洗う。この世界にも男女の区分けはあるらしく、決してトイレが同じという訳ではないようだ。

 行きかう冒険者たちと挨拶を交わしながら休憩所に戻ると、ひときわ大きな声の怒号が耳に入った。


「おい、てめえ今言ったことをもういっぺん言ってみやがれ。」


「はっ!獣人風情が粋がるなと言ったんだ。クイーンを狩るのはこの僕だ。」


 ああ、またあのキラキラ騎士か。何だってこう何度も突っかかるのか。

 ほんの少し前の事も反省しないとか鳥頭なのか?

 相手は大きな斧を持った巨大な二足歩行の虎、虎獣族というやつだろうか。もう一人は熊のような丸い小さな耳の軽装の女性。それとそのまんまサイを二足歩行にしたような体躯の重戦士がいた。


 セリアさんが視界に入ったところで、目が合う。溜息顔でこっちを見ているので苦笑いで返す。またも溜息顔で肩を落とすセリアさん。

 どうにかしてくれと言っているんだろうが、無理だ。


「ふざけやがって。」


「やるのか?たかが獣人が僕にかなうとでも?」


 しかし、その物言いには腹が立つ。冷静でいるつもりだったが、何となく間に入ってしまった。


「ギルドのカウンターで突然気を失うような、お間抜けさんはその辺にしておいたらどうだ?」


「何だとっ!貴様は昨日の!」


 突然降って湧いたようなスーツの男に獣人パーティの面々が驚いている。

 そして激昂して今にも掴みかかろうとするキラキラ。


「やめなさい。」


「セリアっ!何故だっ!」


「いつも言っているでしょう。いい加減にしないと、私も見限るわよ。」


「ぐっ・・・。」


 セリアさんから重々しい台詞が放たれる。それに押し黙り踵を返すとギルドを出ていった。


「すみませんでしたね。あれを庇うつもりはありませんが、割って入ってすみませんでした。」


「いや、こちらこそ見苦しいところを見せて悪かった。」


 虎獣族の男性がハスキーで男前な声で答える。


「それじゃ、私はこれで。」


 立ち去ろうとするが、軽装うさ耳に回り込まれてしまった。何やらくんくんと匂いを嗅いでいるようだ。


「お兄さんからも獣人の匂いがするけど、一緒に旅してるの?」


「そうですよ。旅の仲間です。」


「成る程。でしたら今度紹介してもらえませんか?」


 目的がわからない。ただの友好目的か?それともそこまで疑うのは杞憂か?

 まあ、ルナも話の出来る女性仲間が居るに越したことはないから、構わないか。


「紹介くらいなら今でもいいですよ。ちょっと待っててもらえますか?」


「は~い。」


 嬉しそうにニコニコしているうさ耳の女性を傍目に、休憩室の影から覗いているルナに手招きする。

 ルナは緊張した面持ちで、そろりと休憩室から出てきた。


「こんにちは、私は兎耳族のミオ。さっき彼に助けてもらったの。で、獣人仲間がいるって聞いたから紹介してもらったのよ。」


「そういうことでしたか。私は金狼族のルナです。」


「狼ってのは分かってたけど、金狼族って珍しいわね。メセタリア卿の関係の方?」


 ルナの父親は貴族だったのか。心配ではあるが何も言わずにルナの言動を見守る。


「かなり遠縁の親戚筋にあたると聞いています。私はあったことも殆ど記憶にありませんけどね。」


 ニコニコと嘘で返すルナ。豪商の跡継ぎ予定と言うだけあって、頭の回転は悪くなさそうだ。

 違和感を感じさせないレベルの嘘に、うさ耳の女性も気づいた様子はなく、笑顔で返した。


「そっかぁ。困ったことがあったら言ってね。私たち<勇猛の爪>が協力するよ!」


「ありがとうございます。その時には宜しくお願いしますね。」


 そのやりとりで満足できたのか、うさ耳の女性はじゃあねーと残りの二人も連れてギルドから去っていった。


「一瞬焦りました。」


「ああ、俺もだ。流石豪商の跡継ぎ、躱し方が自然だった。」


「お褒めにあずかり光栄です!」


 嬉しそうにほほを染めるルナ。そんなに嬉しかったのか。

 そんなやりとりをいていると、くぅ、と可愛らしい音がなった。


「わ、私ではありませんよ?」


「そうだな。じゃあ先に食事にしようか。」


「分かってないじゃないですかー。でもご一緒します。」


 今日も二人で食堂の階段を上がる。朝食は角煮のようなもの。

 甘辛ダレで煮たオーク肉だった。血抜き品でも美味しいのは絶対にマスターの腕だと思う。


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