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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
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02 お酒はほどほどに(重要)

 街明かりが見えたが、このまま入っても良いものだろうか?夜になれば何が出てくるかわからない。

文明レベルもわからない。治安もわからない。お金もなければ常識もない。

ないないずくしの30代。とはいえ街中なら死ぬ確率は低いだろうとたかを括って街入りを決める。


かなり近くまで来て、ようやく道らしい道に出ることができた。

遠くに見える街に向かって一本の街道が伸びており、門には二人の人影が小さく見える。


 よし、通行料を要求されたらその時考えよう。


 門にたどり着き槍を持った門番に声をかける。

 

「どうもお疲れ様です。」


 普段警備員さんにかけていたように話しかけると怪訝そうな顔をされた。


 「見ない顔だが、冒険者か?」


 服を上下に往復させながら聞いてくる小柄なほうの門番。甲冑に近い格好の門番ということは、中世ヨーロッパ位だろうか。

 トラブルは避けたいので無難に答える。


「ええ、駆け出しですので、お世話掛けると思いますが、宜しくお願いします。」


「あ、あぁ」


 若干しどろもどろになっている門番、隣で黙っていた大柄な門番が笑い出す。


「冒険者にしては嫌に礼儀が正しいもんだな!わりぃな!荒くればっかり相手してるもんで、

こいつも礼儀正しいのに慣れてないんだ。」


「いやあ、先達には適いませんからね。それですみませんが、冒険者ギルドってどこにありますか?」


 ダメもとで聞いてみる。さっき冒険者という言葉が出たから恐らくあるだろう。


「あぁ、そりゃ最初はそこに行くよな。この大通りを少し行ったところに騒がしい酒屋がある。そこにいくといい。」


 よし、予想は的中だ。


「ありがとうございます。」


「おう!がんばれよ!」


 明るく見送られて意気揚々と歩き出す。久々に人と会話したのがすごく嬉しく感じた。


***


 明かりがついているのは殆どが食事処だろうか?どの店舗からも笑い声や喧騒が聞こえてくる。


「いやっ!やめてっ!」


不意に助けを求める声が耳に入った。


「いいじゃねぇか、ね~ちゃんも好きだろぉ?」


「好きじゃありません!やめてくださいったら!」


 声を辿ってみると少し外れた宿屋のようなところからのようだ。

女性の方は腰位まで伸びた栗色の髪で整った顔立ちをしている。


 男の方はスキンヘッドに肩パッド、細マッチョのいかにも消毒されそうな雰囲気を出し、所謂『壁ドン』の体勢だった。


「お邪魔しま~す。」


 平然を装って入っていく、あたかもお客様ですよ!と言わんばかりの様相で。だって怖いじゃん!絶対こっちが一撃だよ一撃!


「あ!いらっしゃいませ!」


 こちらに気付いた女性がするりと抜けて壁ドンを抜ける。


「…」


 男の方が無言でこっちを睨んでくる。あ、顔赤い。多分酔ってるぞこの人。


「おいぃい!?にいちゃぁぁんぅう?」


 声めっちゃひっくり返ってるよ!


ジャリッ


 男は座った目でそのまま腰の剣に手をかけた。近寄ってくる殺気。徐々に迫る死。

やばい、切られたら死ぬ。絶対死ぬ。どうしたらいい?どうしたらいい?どうしたらいい?


 使える手札は少ない。そもそも魔力1に何ができる?火をつける?風を出す?水を出す?

 水...?あ。


「ウォーター」


 1mの射程にゆっくりと入った相手に向かって小声で発動し【任意の場所に】水を発生させる。


「ごぼっ?!ごぼごぼごぼっ!!」


 男は急に苦しみだし、暴れ、泡を吹いて倒れた。


「え?え?」


 女性の方は突然苦しみだした男に驚いてきょろきょろしている。


「今のうちに誰か呼んできてもらえますか?」


「はっ、はい!」


 ビクンと反応して外に駆けていった。残されたのはビクビクと痙攣しつづける男とスーツ姿の自分。

今回のは『肺の中にウォーターを発動した』だけだ。


 陸で溺れるというのは経験がないと思うが、飲み物を誤飲した事をイメージしてほしい。

誤飲なら気管支でむせるだけで済むが、肺が直接水で満たされると人は生きてはいけない。

以前関連したニュースを見ていたのがまさかの役に立った。

 

 とりあえず落とした剣と皮の鞄は回収しておく。迷惑料ってことで貰っておこう。ちょっとドライかもしれないが、一歩間違えば自分が殺されてたんだ。やむなしやむなし。


 暫く待っても誰も来ない。そして男が最後に大きくビクンと跳ねて息絶えた。

当然だが前世でも経験しえなかった【殺人】。前世からの禁忌に触れたことには少なからず衝撃を受けたが、自分の死と比較などできようもない。


【魔力7をテイクしました】


 無機質な声が聞こえた。周りを見渡しても誰もいない。

ということは自分の中にだけ聞こえたのだろか。


 魔力接収の発動、もしかすると殺した相手の魔力を奪うのではないか。殺人の衝撃も忘れて、すっかり今後の魔法に思いをはせるのだった。



 酔った男が息絶えてから数分、宿のロビーで時間を潰す。

さっきは身を守ることで精いっぱいだったが、回ってみるとなかなかにいい宿のようだった。


 入って右手にはこの時間でも明かりを煌々とつけた食堂、左手には恐らく風呂だろうか?男女で分けられた銭湯の入り口のようなものがある。


 ただ、疑問なのはこれだけ騒ぎを起こしておきながら、誰一人として出てこない。人の気配が一切しないのだ。


 曰く憑き物件なのか?

 そんな詮無いことを考えていると、受付の女性は先の小柄な門番と一緒に戻ってきた。


「えっと、この状況は?」


 門番が倒れた男と俺を見比べる。出血もないし拘束もしていない。男は倒れて口角から泡を吹いて倒れているだけ。


「多分酔ってその女性に絡んだんだと思いますが、

 助けに入ろうとしたら突然苦しみ出したと思ったら息を引き取ったんですよ。」


 魔法を行使した事実は伏せたほうがいいだろう。創製魔法は万能かもしれないが、多分人目に触れちゃいけないやつだ。


「間違いありませんか?フィーナさん」


 女性に向き直る門番、無言でうなずくフィーナさん。


「わかりました。事件性もなさそうなので引き取ります。」


 思った以上にあっさり引き取ってくれることになった。思わず訪ねてしまう。


「それだけでいいんですか?」


「冒険者が多いと良くあるんだよ。遅効性の毒の解除が間に合わなかったり、怪我をして帰ってきたはいいけど...とかね。パッと見荒れてないし争った結果でもないんだろ?」


 争ったんですけどね。そこは黙っておく。


「オーランドさん、ありがとうございました。」


「どうも、フィーナさんも頑張ってくださいね。」


 どうやら二人は知り合いだったらしい。


「あなたもよかったらフィーナさんの処で泊ってあげてください。」


「考えておきますよ。」


 ひらひらと手を振って帰っていくオーランドさん、見送るフィーナさんの視線が少し赤みを帯びていたのは多分気のせいではないだろう。


「それじゃ、お邪魔しました。」


「ま、待ってください!」


立ち去ろうとすると呼び止められた。これは泊めてくれるフラグきただろうか!?


「お礼と言ってはなんですが、お弁当持っていきませんか?それと、良かったら今度泊まりに来てください。」


「あ、はい。それじゃ頂きます。」


泊めてはくれなかったー!少しがっかりしつつも、そこはありがたくお弁当を貰って宿を後にした。


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