19 強さの基準
少々話し込んでしまった為、すっかり忙しい時間に突入してしまった。
二階のカウンターに座ろうとすると、マスターが高速でフライパンを振り回していた。
どういう調理の仕方かわからないが、とりあえず振っていた。それこそファイヤーダンス並に。
少し見ていると気付けば隣においてある皿の山に盛られている。
振っているだけに見えているこれは、実は超高速の調理だったようだ。
「あぁ、悪いね。予想以上のお客さんが入ってしまったんだ。落ち着くまで待っててもらえるかな?」
「じゃあ、少しの間下にいますね。」
「悪いね。」
忙しいとあっては仕方ないので、一階にとんぼ返りとなる。
「ルナ、悪いね。食事はもう少し待ってくれ。」
「全然問題ありませんご主人様。」
ほんの少しの間しか一緒にいないが、最初のころの不自然な遠慮がなくなってきた。
どれくらい一緒にいるかはわからないが、お互い気軽な関係の方がいい。
「あら。あなたはさっきの」
「あ、どうも。セリアさんでしたっけ。先ほどはありがとうございました。」
意外、とも取れそうな表情をし、フッと笑った後にセリアさんが続ける。
「こっちこそ悪かったわね。凄腕の魔法士さん。」
「何のことでしょうか?」
知らぬ存ぜぬを貫き通したい。
「あなたがさっき魔法士で登録しているのは確認済みですからね。ハーピー殺しさん。」
大層物騒な名前だ。
「それまた物騒な名前ですねえ。始めまして、Dランク魔法士のヴォイスです。」
「ソロでDランクって十分に凄腕だと思うわ。」
「そうなんですか?ソロで高ランクの方って意外と少ないんですか。」
「そうよ。というかなんでそんな事も知らないのよ。今いる魔法士の最高ランクはソロでBランクよ。
剣士だとAが最高。AとかBランクのメンバーがぞろぞろいるようなところで、ようやくAAのパーティなのよ。」
「魔法士がBランクまでしかいないのに、理由はあるんですか?」
やっぱり何で知らないのよ。という顔をされる。
「魔力回復ってステータスあるでしょ。いくら魔力が高く育っても回復速度が消費に間に合わなかったら、ジリ貧なのよ。」
ところで、と足を組んで上目遣いで目を合わせるセリアさん、ルナ服と一緒に肉も摘まんでる、痛いぞ。
「ステータスカードの見せ合いっこしない?」
「高ランクの<氷牙>メンバーがこんな低ランクにいいんですか?」
「ふふ、まあレナードを一瞬で意識飛ばしてたじゃない?あれが気になってね。」
そういうことか。高ランクの魔法士ともなると、そういうところで魔法の使用がバレることもあるんだな。
「最近更新すらしてませんけどね。」
「あら、じゃあ今更新してみたら?」
断る道を断ってくる来るなあ。
「ご主人様!」
ルナの心配もわかる。最悪実力行使に出るだろう食いつき具合だ。
「はあ、わかりました。じゃあ、更新します。ですが。」
「なあに?口頭だけで勘弁しろって?」
「技能欄だけは隠させてもらいます。」
「わかったわ。」
この顔はわかってないだろうなあ。
「ちなみに。」
「な、なに?」
「奪ってみようものなら死んでもらいます。」
「死っ!?技能見ただけでもって言うの!?」
「ええ。強さの種が割れると致命的ですので。」
嘘は言っていない。恐らくバレようものならこの世界での『生活が』致命的に悪化する。
「へえ。腕によっぽど自身があるのね。」
「自身がない裏返しですよ。ただまぁ、視界に入ればこの街のどこにいても即死させられる自身はありますよ。」
ごくり。セリアの喉が鳴る。
「わかった。無理にってバレてるし、変なことはしないわ。ちなみに、私はこれ。」
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レベル 142
筋力 … 60
体力 … 224
器用 … 411
敏捷 … 119
魔力 … 34558
魔力回復 … 526
技能:氷魔法10、衝撃変換(魔)
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「魔力がこれだけあってもAには届かないんですね。あ、技能まで見せてもらっても、こっちは見せられませんよ?」
「別にそういうつもりはないわよ。まあ半分はお詫びのつもり」
「残り半分は?」
「気が変わってくれたらラッキーってとこかしらね。」
そうは問屋が卸しませんよ。と、こっちもカードを更新してみようか。
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レベル 69
筋力 … 70
体力 … 70
器用 … 70
敏捷 … 70
魔力 … 3599
魔力回復 … X
技能:魔力接収、創製魔法
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「この偏ったステータスって何なんだろうなあ。」
しかし、レベルからするとセリアさんの半分くらいの魔力があってもいい気がするんだけど。
もしかしてレベルアップの恩恵って1毎に1しかないんだろうか。
「よくこの魔力で、って思ったけど魔力回復ってこれいくつなの?」
「さあ?多分すごく多いんだと思いますよ。」
「本気で魔力枯渇するレベルの魔法使って回復までにどれくらいかかる?」
「多分枯渇しても数分で前回ですね。」
ちょっとぼかす。流石に一瞬と言ってしまっては異常だろう。少なくとも自分ではそう思っている。
「まあ、あなたと敵対する前にわかって良かったわ。3000もあってほぼ枯渇しないなら勝てる道理なんてないもの。
その魔力で視界に入ったら即死とかどう考えても頭おかしいわよ。」
「まあ魔力回復の数字については黙っておいてもらえると助かります。」
「そうね。あなたとは仲良くやりたいから黙ってるわ。それじゃ、付き合ってくれてあ、り、が、と。」
セリアさんは、立ち上がるとそのままギルドを出ていった。
折角まともに話せた魔法士仲間だ。出来れば敵対などしたくないと思うばかりだった。
***
「話は終わったかい?」
マスターが階段から降りてくる。多分察して待っていてくれたのだろう。
「逆に待たせてしまったみたいで。さあ、お楽しみの時間ですね。」
「そうだとも!今日も腕によりをかけて作るよ!」
ルナを含めた三人で階段を上がる。ルナはここまで殆ど話していないが、実はずっと袖を握っている。
「今日のメニューは何です?」
「折角そこのお嬢さんが居るんだ。この前のオーク肉でまたステーキをやろうと思ってね。」
「いいですね。」
「え?オーク肉がいい物なんですか?」
いやいやルナさん、捕まる前はどんな食生活して来たんだ。
「まあ、食べてみればわかるさ。」
「そうだね。ぜひ食べてもらおう。」
「??」
マスターは早速準備に取り掛かり、カウンターにはルナと二人だけが残される。
テーブルがまだ満席ということは、まだ佳境は超えていないのかもしれない。
それでも呼んでくれたマスターには感謝しかないな。
「ルナ、紹介しておこう。ここがジーンの街の冒険者ギルド。で、さっきのがマスター。料理人みたいに見えるけど、ああ見えてしっかりしたギルドマスターだ。」
「ギルドマスターさんだったんですね。」
「それで、ルナ。ようやく落ち着けたので話を聞きたいんだけど、話せるかい?」
落ち着いて早速重い話なのは申し訳ないが、今後の身の振り方に関わるので避けては通れない。
「・・・はい。恐らくご迷惑をお掛けすると思いますので、全てお話しします。」
少し姿勢を整えたルナは、ゆっくりと話し始めた。