16 この先どうするかについて
無傷の騎士は、失禁して気を失っている。
指示を出した騎士は、まだ意識があるようで呻いていた。
「頼む、もうやめてくれ。」
最初の言葉が命乞いとか、笑える。いや、笑えない。
「この子がそれを言ったときお前らはどうしてた?」
イケメン騎士の顔が絶望に変わる。
「はあ、じゃあそういうことだ。で、情報を洗いざらい吐いてもらうんだけど。」
「誰が貴様になど話すか!」
「へえ?もうやめてくれって言ってたのに大層なご身分ですね?」
イケメン顔にもイラっとしたので、アキレス腱を蹴りつける。悶えるイケメン騎士。
「まず、この子は?」
「・・・」
どうやら黙秘を決め込むことにしたようだ。
「仕方ない。じゃあ腕折ってくので。」
近づいたら何されるかわからないので、まだ潰してなかった手から潰しにかかる。
遠隔操作の剣の柄を肘に打ち付ける。
ばきっ
「ぐああぁあ!」
「まず、この子は?」
「あああぁああぁぁぁ!」
もう一度同じところに柄を打ち付ける。
「がああぁぁあああ!」
「まず、この子は?」
「あぁ、うぐっ、森の国の捕虜だ。」
呆れた。捕虜ってのは無事だから価値があるんじゃないのか。
「なんでこんな捕虜なの?」
「アルフデリック家に、逆らったから腹いせに親父が拉致した。」
「ここまでやったのは誰?」
「そこにいる兄と、お父様だ。」
今度はまだ無事な腕に柄を叩き付ける。
「あぁあああああぁあぁぁ!」
四肢で無事なところが無くなった騎士。無表情で同じことを問う。
「ここまでやったのは誰?」
「言うっ!ちゃんというっ!兄と、お父様と、私だっ!」
「何でここまで連れてきたの?」
「山の、向こうで殺すためだ。」
無言で剣を持ち上げる。意図を言え意図を。
「ひっ!山の向こうにはジーンの街がある。そこで殺して、罪を領主に擦り付ける手はずだったんだ!」
見事に恨まれてるじゃないですか領主様。しかも最大派閥に。
「なあ、これだけ話したんだ!もういいだろ!?」
「ああ、もういいよ。」
「アク、ぶひゅっ」
男が一瞬にやっとして口を開きかける。何かの呪文でも唱えようとしたのだろう。
そこに飛来した剣が、ばっさりと男の首を落とす。
【魔力317をテイクしました】
随分とこの男の魔力量が多かった。恐らく魔法もいっぱしに使える騎士だったのだろう。
ついでに気絶している兄とやらも始末しておく。
始末って発送をしてしまうあたりに、これまた嫌な気分になるが、今後のためには生かしておく理由はないだろう。
【魔力120をテイクしました】
全員の遺体は操作魔法で一か所に集め、放置。失禁騎士は脇に避けておいた。
倒れこんだままで動かない少女に失禁騎士とスーツの男。何だこの組み合わせは。
少女を優先しようとも思ったが、時間が掛かりそうだったので先に討伐報酬だけ集めることにした。
***
色々な場所に落下していたハーピーの討伐報酬を集め、戻ってきたが、失禁騎士はまだ起きない。
少女の方も倒れたまま動かない。
まずは少女の方を優先させることにし、ウォーターの魔法で水を作り口に含ませる。
反応しない。生きることを拒絶しているかのような瞳。
何度かに分けて少しずつ口の中を濡らしていくと、わずかに喉が動き、目に光が戻った。
「!!!」
手を跳ねのけて後ずさろうとする少女。しかし、ガリガリに痩せてしまっているせいか力がなく、手を振りほどけなかった。
「まずは、水を飲んでくれ。少し落ち着いたら食事にしよう。」
意識が戻ったことに安堵しながら、鞄からコップを取り出し水を注ぎ渡した。
その後、落ち着くまで水を飲ませた後、増えた魔力で騎士たちの剣を何本か回収してその場を離れた。
良心は多少残っているようだったので、失禁騎士の分は剣を残しておいたが、これが吉と出るか凶と出るかはわからない。
街道を離れて暫く、森の中で少し開けたところを見つけたので、今夜の拠点をここに決めた。
少女は体力が殆どなく、自力で歩けなかったようだったので、魔法で重量を減らしてお姫様抱っこで運んだ。
自身に力がないこととから少女は既に諦めたようで、また視線が合わなくなっていた。
***
さて、気を取り直して強化された魔力で土づくりの家を作ろうと思います。
まず材料は土、以上!
わざわざテント買ってきたけど、魔力があれば地面の土を詰んで固めて家を作ればいいんだ、という発想になったのは街中でのこと。
テントって重いよなあ、と思っていた時に思いついたものである。
周囲の地面を掘り、6畳ほどのスペースの周りに壁を作り、土で天井を覆う。
途中で一度失敗して天井が崩れ落ちたが、2度目には土のかまくら、とでも言えそうな代物が出来上がった。
かまくらの端の部分に煙突を作り、炊事場を確保すし、拾った7本の剣を端に積み上げる。
これで今日の宿が出来上がった。もう、宿なんか探さなくて毎回これでいいんじゃないだろうか?
そのうちこれで本気の家を作ろう。
出来栄えに満足するのはいいが、野営の準備をせねば。
少女をかまくらに運び座らせたら、薪を探しに出かける。薪拾いも操作魔法で非常に楽だ。ほんと万能で助かってます。
戻ると少女がかまくらから出ていた。
恐らく誰もいなくなったことから逃げようと思ったのだろう。力を振り絞って。
だが、やせ細った手足ではろくに歩くことも出来ずに這うようにしかならなかったようだ。
少女を抱えると、いやっと小さく悲鳴を上げて身体を動かすがやはり力が入っていない。
かまくらの中に少女を下ろすと、入り口の下から半分を塞ぎ、侵入防止を図る。
閉じ込められたと思ったのだろうか、少女はまたおとなしくなった。
魔力の増加によって出来ていく余裕。少女と二人になってもまだ多少の余裕がある自分に、ある意味驚いてもいた。
少女の事は気になるが、かまくらの中は殆ど光が入らない。真っ暗になってしまうと何もできないので、光源魔法を作る。
一定の位置で燃焼を維持させる魔法だ。魔法によって空気供給をしているので、中毒の心配もない。
薪の必要もなかったんじゃないかとも考えたが、それはそれ、キャンプはこれが醍醐味なのだ。
今日はハーピー肉のソテーにしよう。
血抜きはしていないが、爆発で体の半分が吹き飛んだ個体から剥いできたので、多少は抜けてるはず。
不要な部分だけ切り落として腿肉だけにする。腿の部分だけで見るとちゃんと鶏肉だが、上半身は見たくない。
胴体部分だけ見るとほぼ人間なんだ。気分の良いものではない。
ウォーターできれいに洗い、皮を剥ぎ、塩と胡椒で軽くした味を付ける。
サラダ油なんてものはないので、剥いだ皮を取り皮の要領で炒めて油をつくる。
余談だけど、鳥の皮って長時間焼くとパリパリになって旨いんだ。
ついでにスープも用意する。鍋に何種類かの野菜とハーピー肉の切れ端を入れて煮込む。
柔らかくなるには時間がかかるので少しの間、放置である。
さて、この少女だが、本格的にどうするかについて悩む。話を聞くところまではいいが、そのあとはサッパリ想像もつかない。
混乱した頭で最初にやったのはギルドカードの更新だった。
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レベル 26
筋力 … 36
体力 … 36
器用 … 36
敏捷 … 36
魔力 … 1561
魔力回復 … X
技能:魔力接収、創製魔法
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