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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
15/26

15 このひとわるいひと

 昨日の内に買いすぎた荷物の整理をした。その結果、新しく購入した所謂バックパックサイズの鞄も一杯になってしまった。

 マジックポーチのお陰で食品の類は、きれいさっぱり収納できている。

 だが、問題は腐るのかだ。冷蔵庫に葉物を放置したときのようにマジックポーチの中で液体化したらどうなるのか。想像したくもない。


 今日は宿で朝食を取り、弁当も貰ってきた。山に行くなら食べ物はあればあるだけいい。というのは只の心配性だろうか?

 門番に挨拶して街の北側の門から出る。


 街の周りの壁沿いを少し歩いて人の目が無くなったところで、ハイジャンプを使って移動を始める。

 魔力100だと一歩で20m近く飛べるようになっていた。

 しかし、ここで妥協はしない!もっと早く移動したくて温めていた魔法がある。


 魔法の名はステップ、魔力100を消費して空中に2秒間半径20cm位の圧縮空気のブロックを作るものだ。

 傍からの見た目は、空を駆けているように見えるだろう。

 魔力回復の力でごり押ししている感は否めないが、魔力100のハイジャンプ、そして魔力100のステップで移動は万全だ。

 その代わり剣の方に魔力を避けないので、重さを浮かせるために10だけ振っている。


 まずは普通のダッシュで使ってみると、これまた非常に操作が難しかった。

 自分の着地する位置にピンポイントで置かなければ踏み外す。

 街の誰も見ていない場所でひたすら転び続ける青年。ある意味不審人物だ。


 練習を続けること1時間、ようやくコツが掴めてきたところで移動を開始する。


 最初はステップで地上1mをひたすら走った。藪の草木を飛び越えるのでとても楽だった。というのは嘘で、ステータスが体力に全く振られていないことを失念しており、割とすぐにダウンするのだった。

 幸い森に至るまでの藪は抜けることができたので、後は何度も何度も色んな場所にステップを作った。

 発動の場所とタイミングを完全につかんだところで、ハイジャンプとの併用に切り替えた。


 あまり高く飛んでも意味がないことに気付き、木の間を跳ねながら進む。

 ステップを使っていることで地形の変化に影響されず、桁違いの速度で進むのだった。

 移動を始めて出てから4時間、着地した目の前にゴブリンがいた。


「キィ?」


 突然の参上に目を丸くするゴブリン。魔力を剣に流し3m先の相手に投げつけた。

 ぐぎょっ、という声と共に魔力入手を知らせる無機質な声。これも練習と投げつけた剣を操作して耳を切り取る。

 精密な操作はまだ慣れておらず、何度か余計な場所を切ってしまい、最後には見るも無残なゴブリンが残された。


 ホールで地中不覚に埋葬し、移動を再開する。


 何度かゴブリンを狩っていくのだが、徐々に遭遇する間隔が短くなっているように感じるのは気のせいだろうか。



 それから数日は出会ったゴブリンやオオカミ、兎の魔物を出会い頭に切り捨てながら山までまっすぐと向かっていった。

 遭遇したゴブリンだけでも30は超える。直線距離でこれだけ遭遇するのが多いのかは不明だが、山につく前に何か起きないか心配になる。

 しかし、結局そんな懸念も杞憂に過ぎず、4日目の朝に山のふもとまで到達した。


 山の高さは1800m級位で木というよりはゴツゴツした岩が目立つ、一見切り立った崖にも見える山は、大地の神秘を感じさせた。


 さて、まだ昼過ぎでここまで来れたので、ある程度調査をしておこう。

 シンシアさんの話では、街道が封鎖されていると言っていた。

 今日の目標は街道の位置を特定して可能な限り狩ると決め、即行動に移るのだった。


 ステップとハイジャンプで上空から探索しているとゴブリンの群れに襲われている一団がいた。

 守っているように見えるのは、見るからに高価な馬車。苦戦しているのは、いずれも白い甲冑の身なりの良い騎士たちだった。

 何故ハーピーが出るような場所にゴブリンで手こずるような人間が?とも思ったが、放っておくのも寝覚めが悪いので、助太刀することに決めた。


 少し離れた場所に着地し、騎士たちに声をかける。


「助太刀は必要か!?」


「冒険者か!頼む!援護してくれ!」


 ゴブリンを切り捨てた金髪の男性騎士が答える。


「わかった!」


 魔力200を剣に通し、遠隔操作でゴブリンを切り裂いていく。

 突然宙に浮いて暴れ出した剣に唖然とする騎士たちだが、矛先がゴブリンにしか向いていないことがわかると、安心した面持ちで防御に切り替えた。

 ゴブリン約20匹は悉く背後から首を落とされるか、突然のたうちまわり息絶え、あっという間に戦闘が終わった。

 

「うわぁああぁあ!」


 声のした方向を見ると、一人の騎士が突然浮き上がっている。背後の翼に羽が生えたのかと思ったら、ハーピーに捕まれているようだ。

 上を見上げると、ハーピーの群れが空を覆いつくしていた。


「やばい、死ぬかもこれ。」


 ハーピーの実力がわからない、捕まった騎士が迂闊なのか、それともハーピーがそれだけ強敵なのか。


「おい!そこの冒険者!貴様も馬車を守れ!」


 近くにいた若い騎士に突然怒鳴りつけられる。


「断る!」


「なっ!」


 未知数の相手に防衛するのは得策じゃない。少なくとも打って出なければダメだ。

 剣の操縦は半径5mがまだ限界。ウォーターを使おうにも飛ばれると位置が決められない。

 爆破だけが頼りか。


 上空でも一番近いハーピーめがけて最大魔力で爆破を放つ。


ズドォン!

【魔力を31テイクしました】

【魔力を30テイクしました】

【魔力を39テイクしました】


 魔力300近くともなると威力は相当上がっていたらしい。

 半径10mくらいを消し飛ばしてしまった。あ、討伐報酬!

 だが、空を覆うほどいるハーピー相手に手加減する余裕はない。

 少し威力を落として射程を上げた爆破魔法で次々と落としていく。

 20匹を超えたあたりで爆破魔法を右の翼から下半身に変えた。部位報酬が左の耳に一本だけ映えている風切り羽で、回収したかったのだ。

 これまた唖然と空を見上げる騎士たち。仕事しろ。


 これ以上は高度を落とすと狩られると判断出来た賢いハーピーは少しずつ撤退していく。

 全てのハーピーが去った後、騎士たちを無視して討伐報酬をむしりに行こうとしたところで呼び止められた。


「貴様!何故命令を聞かなかった!」


 さっきの騎士だ。厄介ごとの匂いしかしないので無視しよう。

 一匹一匹風切り羽をむしり取っていく。

 四匹目に取り掛かった時に、後から肩を掴まれた。


「その態度、私が誰か知ってやってるんだろうな?」


 不遜な態度を取られると、丁寧にしようという気は起きなくなるがなんでだろうか。


「私はハーピーを退治しに来ただけですから。邪魔しないでもらえますか?」


「くっ!無礼なっ!アルフデリック家に向かってその口を叩くとはいい度胸だ!」


 こっちの世界に来てからというもの、しょっちゅう絡まれている気がしてきた。

 その度に自分が好戦的になってきている気がして、少し嫌な気持ちになるんだ。


「面倒なのでやるなら掛かってきてください。ただし、容赦はしませんよ?」


 プライド高いから挑発に乗っちゃうんだろうなあ。

 振りかぶる騎士。ステップを発動して拳の到達地点に空気の壁を設置した。


 ガツン


「え?」


 突如空中で止められた拳に理解が追いつかない騎士。

 その隙に、遠隔操作していた剣の側面で、こめかみを打ち付けると、白目をむいて倒れこんだ。


「やばい、これは絶対面倒ごとになる。」


 慌ててハーピーの羽をむしり取るが、時すでに遅し、10人近くの騎士たちに囲まれてしまった。


「おとなしくしてもらおう!冒険者!」


 何故どいつもこいつもそんなに不遜なのか。しかし、この人はさっき唯一ゴブリンと戦えてたイケメン人だよな。


「一つ聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「あの中には何が入っているんです?」


「冒険者風情には関係ない!」


 おおう、取り付く島もない。


「討伐報酬だけもらって帰りますので通してもらえませんか?」


「貴族に手を挙げてそれで済むとでも思っているのか?」


「先に絡んできたのはそちらでしょう。」


「アルフデリック家と言ったら王国の中でも中枢を担っている最大派閥の貴族だぞ。詫びるなら今の内だ。」


 ワタシイセカイジン、貴族事情なんぞ知りません。


「ゴブリン程度も軽く倒せない貴族の坊ちゃまに絡まれて、鬱陶しかったので昏倒させてすみませんでした。」


 ぶちっ、という音が聞こえた気がした。

 目の前にいる男の雰囲気が変わる。キレて殺意をこちらに向けているようだ。


「皆さんの中で話が分かる人はいませんか?」


 周りを見渡していると、キレた男が剣を抜いた。

 無言でそれに合わせて剣を抜く騎士たち。


「ついでだ、馬車の中のも持って来い。」


「しかし、その男は」


「異論があるのか?」


「申し訳ありません。」


 正面の男が顎をしゃくると、中からまだあどけなさが残る少女が出てきた。

 多分、元はすごく綺麗だったんだろう金色の髪は汚れ、いたるところにある痣、がりがりにやせ細った手足、死んだような瞳は何も映していない。

 そして服はボロボロで少し大きな胸が見えてしまっているにも拘らず、隠そうともしない。

 よっぽど今までひどい仕打ちをされて来たのだろう。少女を連れてきた騎士が、輪の中に少女を放り出す。

 ふらついて倒れる少女は、それでも悲鳴すら上げなかった。


「胸糞悪い。」


 心底そう思った。これが貴族のやることなら、うちの領主様がどれだけ素晴らしいことか。

 詳しく知りはしないのに、ここまで嫌悪感を感じたのは生まれてこの方初めてだ。


「やれ。」


 騎士が一言指示を出す。だが、騎士それぞれの動きが遅い。

 魔力総量が上がり、威力・速度ともに増した剣速は空気すら切り裂く速さで騎士たちの首を切り捨てた。

 アキレス腱を切られた代表の男と、異議を唱えていた無傷の騎士を残して。


【魔力を51をテイクしました】

【魔力を76をテイクしました】

【魔力を102をテイクしました】

【魔力を60をテイクしました】

【魔力を98をテイクしました】

【魔力を210をテイクしました】

【魔力を143をテイクしました】

【魔力を49をテイクしました】


魔物に比べて人間の方が魔力が多いのは何故だろうか?

それとももう少し上位の魔物はこれくらいなのか?

だからと言って強くなるために人を殺そうとは思わない。思ってしまったらいけない気がする。


さて、事情聴取ごうもんの時間だ。

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