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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
14/26

14 衣食住の衣について

 この世界にきて4日目。

 朝起きたらとうとう自分の鼻でもわかるようになってきた。


臭い!!


 という訳でお金も入ったので今日は朝から宿屋に泊まることにした。

 一部屋六畳の広さだが、洗面所もあり、別室には湯あみができる施設もある。


 湯あみをしに浴場に行って初めて気が付いた。若返ってる。

 無精ひげを生やしていた以前に比べ、お肌つるつる、わずかに出ていたほうれい線もなくなっている。

 ちょっと疲れ気味でくまのあった目元も、すっきり綺麗だ。なんという劇的ビフォーアフター。

 ここにきてようやく口々に『若いのに』と言われる理由が分かった気がする。これはどう見ても18歳位だ!

 髪は変わってないぞ!ふっさふさだ、ふっさふさ。


 若返りの事実に気分上々で服を洗濯し、予め買っておいた服に着替えて柔らかいベッドに寝転がる。

 服屋のおばちゃんにとってスーツは興味が尽きないらしく、しきりにまた寄ってくれと言われた。ワイシャツも半袖とかほしいし丁度いい。高い買い物になるだろうけど今度作ってもらおう。


「あ!」


 そうだ、服だ。汚れるし、たまにほつれたり傷がついたりするのが、玉に瑕だった。

 折角トレードマークにしようと思っている服なんだから、きれいに保ちたい。


 それならすべきことは何か?一つ、汚れ落とし。二つ、傷などの修復。三つ、匂い消し。よし、全部やろう。

 魔力送料が200程度ではそれぞれ個別にやるしかないが、今回は洗って干したものに傷の修復をする。


「リカバー」


 ジャケット、スラックス、ワイシャツ、ベルト、ネクタイ、革靴。一つずつの分しか魔力がないので、順番に修復する。

 空腹を感じるころには全部の修復が終わっていた。空腹をこらえながら温風魔法(ドライヤー魔法)を作って乾かしていると、ふとマジックポーチの事が頭をよぎった。

 今のところ完全にただの財布扱いだ。実際のところ、どれくらいのものが入るのだろうか?

 試しに、乾いたスラックスをいれてみる。入った。

 続いて、ジャケット、ワイシャツ、ベルト、ネクタイ、革靴。無事に全部入ってしまった。重さ?体積だろうか?


 マジックポーチの大きさ自体がウェストポーチくらいの大きさなので、大きなものは入らないが、これは十分に有用だ。

 鞄に持っていた中級ポーションを半分マジックポーチに入れ、非常食も入れる。取り出すときは手を入れれば、頭の中に何が入っているかわかるのは謎仕様だが、入れたものを忘れないためにはありがたい機能だった。

 服の類はこれで持ち運び可能、旅の憂いが少し減った。剣は流石に入らなかったので持ち歩くしかないが、まあ魔法で浮かせるので正直変わらないか。


 一旦、服を全て出して引き続き乾かす。やはり少し分厚いジャケットは乾くのに時間が掛かってしまった。



 少し陽も傾いてきたので、今日はぶらぶらすることに決める。

 結局いつもの着心地ということで、乾かしたスーツを着直した。まだこの世界の服には慣れない。肌が痒くなるんだ。

 治安はあまり悪くない様に思うが、念のため荷物は持って出歩く。とは言え、剣以外はポーチに入ってしまったのでからの鞄を持っているだけだ。



 宴の興奮もまだ冷めていないのか、方々で露店が展開されてはいた。しかし、道具屋もさしてめぼしいものが見つからず、結局服屋に一日に二度来ることになっていた。


「おやまあ、また来てくれるとは嬉しいねえ!」


 今朝声をかけてくれた店員のおばちゃんが声をかけてくる。


「どうも。靴下を探しているんですが、ありますか?」


「綿のでいいわよね?」」


 靴下あるんだ。意外。


「暫く買い足せない可能性が高いので10足くらい頼めます?」


「大丈夫だよ。銀貨2枚ね。」


 意外と靴下安いんだな。まあ、冒険者にとって消耗品だから薄利でもいいのか。


「それで、その服見せてくれる気になったのかい?」


「多分一品物なので、複製をしないでもらえるならいいですよ。」


「あらまあ!随分太っ腹だね。てっきり金貨でも要求されると思ってたのに。」


「この服にはそれくらいの価値があると?」


「一目でわかるくらいだよ。服屋からしたら垂涎ものだねえ。」


 確かに予備で購入していた服の縫製方法も、現代レベルと比較できようもない雲泥の差があった。


「もし可能なら、こっちの中の服をオーダーメイドしたいところですが。」


「本当に頼んでくれるのかい?」


 おばちゃんが食いついた。垂涎ものというのもあながち嘘ではないようだ。


「金額はいくらになりますか?」


「逆にこっちからお金払いたいくらいだよ!こんなにいい品見せてもらえるなんて、勉強代払ってもお釣りが出るよ。」


「じゃあ、3着ほどお願いします。」


「デザインはこのままで良いかしら?」


「ええ、そのまま白の無地でお願いします。」


 そんな訳で、店の奥に用意された試着室でワイシャツを脱ぎ、おばちゃんに手渡した。


「暫く時間かかるから、似たような形のこれでも着ててもらっていい?」


 少しクリーム色の入ったワイシャツと同じような型の服を持ってきた。形状は殆どそっくり、わずかにごわつきはあるものの、中に着るなら十分だ。

 再びネクタイを締めてジャケットは腕にかけておく。暫く頑張ろうかと思ったけどやっぱり暑かった。


「長期で出かけるならその前にまた来とくれよ!」


 おばちゃんに交換用のワイシャツもどきも受け取って店を出る。

 最初の1着は何としてでも1週間で作り上げると意気込んでいた。ちなみに、覚えた技術自体は好きに使ってくださいと言っておいた。

 別に産業を興すつもりもないし、ミシンもないから限界があるだろうし。


***


 街の中の色々な露店で謎肉の串焼きを食べ歩きしつつ、この世界の食糧事情を眺めてみる。

 肉の使い方はほとんど同じ。しかし、全体的に塩味が多い。

 マスターの店ともなれば、野菜などを凝縮したスープなどでコクを出したりしているが、一般的な店では基本塩味。醤油や味噌といった和風の食材はなかった。

 その代わり、野菜などを売っている店では、唐辛子のようなカラトーと呼ばれるものがあったり、コショウがあったりした。

 米は取り扱っている店が一つもなく、パン食が主体のようだ。


 暫く食べ物の事ばかりを考えていると、何となくジャンキーな食べ物が恋しくなってきた。

 ただ、油で揚げた食べ物というのは今まで見たことがない。唐揚げ、フライドポテト、とんかつ、ないものねだりだが出来ないだろうか。

 後でマスターに相談してみよう。


 途中、道路脇で喧嘩を見たが刃傷沙汰にはならなさそうだったので、それを傍目にギルドに向かった。


カランカラン


「あ、ヴォルフさん、いらっしゃい。」


 今日も元気なシンシアさんが声をかけてくれる。


「ヴォルフさん、ギルドカードの更新です。マスターからDランク昇格を言付かってますので、ギルドカードをこちらに入れてもらえますか?」


 シンシアさんが取り出した魔法陣の刻まれた石板に、ギルドカードを裏向きにして置く。

 手続きが早いのは流石マスターだからといったところだろうか。

 しかし、オーク討滅作戦時にはいなかった顔ぶれが、何人かおり彼らが驚いているところを見ると、あまり若くしてランクが上がる人は少ないようだ。


「はい、これで完成です。今まで五日目でソロDランクに到達した人はいませんから。伝説級になること期待してますよ!」


 冗談めかしてシンシアさんが煽る。やめてほしい、冒険はしたいけど有名になるのはあんまり好きじゃない。


「ところで次の依頼なんですが。」


「えぇっ!もう受けるんですか?」


「1か月後に別の依頼が入ってるので、それまでに何かいいのがあればと思ったんですが。」


 まあ、割りのいい仕事は入ってこないだろう。というか、お金にひっ迫していない今、魔物がいる場所の情報がほしいだけだ。」


「まあ、心配しているっていってもどこ吹く風ですもんね。どんなのがいいですか?」


「複数の魔物が出てくるところがいいです。」


「かなり遠方になっちゃいますよ?」


「承知の上ですよ。2週間くらいの場所とかでも大丈夫です。」


 魔力が上がってハイジャンプの飛距離も大幅に増えた。その為、藪を抜け、森を抜け、に比べると大幅な時間短縮もできる。

 長距離移動に関しては試してみたいこともあるし。


「なら、これですかね。ここから東に見える山にハーピーが住み着いてるらしくて、街道を封鎖してるのでその退治です。

 数は最低でも50匹は確認されていますので、最低でも部位証明を10個お願いします。報酬は金貨4枚です。」


 思ったより割のいい仕事があった。


「50匹全部相手にしようなんて馬鹿な事考えないで下さいね?ハーピーはオークより頭も良くて連携してきます。

 しかも半人半鳥で飛行しますので、頭上からの攻撃に注意してください。」


「この前のオークみたいに上位種は確認されてますか?」


 下手を踏んで手を出して死にたくはない。情報収集は綿密に。


「今回は慎重ですね?いい心がけです。」


 なぜかえへんと胸を張るシンシアさん。少し大きな胸が強調されている。


「ハーピーは基本的にオスですが、メスが大きくて強いクイーンと呼ばれています。

 クイーンは変な音を出すらしいですが、あまり詳しいことはわかっていません。

 狩ったことのある冒険者の方は、何かよくわからないが突然一人の剣が熱くなり手放した直後に本人が四散した。

 ただ、こちらが動けば爆発はしない。と言っていたそうです。」


 爆発か。不穏だな。ただ、四散したって表現が気になる。火の魔法のような魔法攻撃ではないんだろうか?

 剣が熱くなって、四散する。金属、熱くなる...?爆発。


 思い浮かぶのは電子レンジに入れた卵だ。

 人間もある意味水が入った袋のようなものだ。加熱で体内の水が暴れればどうなるだろうか。

 あまり想像したくはない。


「ありがとうございます。他に注意点とかはありますか?」


「ちょうど後の方たちも同じ依頼を受けようとしていた。ってことくらいですかね。」


 そういって後のテーブルの見ない顔の三人組に視線を移す。


「まあ、何もされなければ何もしませんってことで。」


 シンシアさんに礼を言って席を立つと、二階のマスターの城というなの食堂に向かう。



「朝出て行ったり、その日のうちに帰ってきたり、なかなか忙しいね。」


「さっき下でハーピー退治を受けてきたんですよ。」


「ほう?街道が封鎖されてもう1ヵ月近くになるからやってくれるなら助かるよ。でも、それをわざわざ報告しに来てくれたわけじゃないんだろう?」


 にやり、とマスターはフライパンをかざす。流石、話の分かるマスターだ。


「今日は君が教えてくれたハンバーグなるものを作ってみるよ。」


 そう、この世界にはハンバーグが存在しなかった。

 肉の切れ端は、捨てるか店員の家庭で食卓に上るかの二択になるそうだ。

 だが、これが売れれば...とホクホク顔になったのは記憶に新しい。


 血抜きオーク肉の切れ端部分を細切れにして成形し、フライパンで蒸し焼きにする。

 ジュージューと焼ける肉の音と香りで、プライパンから上がる煙のようにテンションも上がってきた。


 10分ほど待ってようやく焼きあがるハンバーグ。

 豪勢なことにオーク肉100%だ。昔作ったハンバーグは合い挽き肉に、炒めた玉ねぎ、パン粉、卵を入れていた。

 余談だが、ハンバーグの繋ぎに砕いたご飯をいれると非常にうまい。米がないのでもうできないのが残念だ。


「いただきます。」


 ちゃっかり自分の分も用意していたマスター。ハンバーグはナイフをすんなりと受け入れ、ジュワッと肉汁が溢れる。

 中もしっかり火が通っているが硬くなく、二人で程よい脂の乗りに舌鼓を打つのだった。


「いやあ、おかげで看板メニューが増えたよ!」


綺麗に平らげてマスターも上機嫌である。


「これからも美味しいメニューを頼みますよ。」


「はっはっは!勿論さ!また面白いメニューがあったら教えてね。」



***


 早めの夕飯を済ませた後は、買い出しに出かける。明日からの依頼のために、食材と調理器具の調達だ。

 幸いにも手元にはマジックポーチ、本来は財布がある。

 一応マスターにも聞いてみたら本当はそんな使い方で正しいらしい。

 ポーチの口から入るものしか入らないから自然と小物入れに落ち着くと言っていた。


「らっしゃい!」


 八百屋のおっちゃんに少し多めの野菜を何種類か頼む。どっさり10kg近くで銀貨6枚だった。

 道具屋では、鍋、フライパン、スプーン、フォーク、皿などの食器。

 また別の店では、何種類かの調味料を。更に他では小型のテントなどを。

 店が閉まり始める頃には、金貨1枚近くのキャンプ用品を購入していた。


「ちょっと買いすぎた。」


 宿屋に戻って翌日の準備を始めた頃、買いすぎを後悔するのにそう時間はかからなかった。

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