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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
11/26

11 旅の苦労はある意味お金

空も白み始めた頃、緊張感が解けて眠気を訴え始めた冒険者たちを迎えたのは、かなり大勢の住民だった。

既にお祭りムードなところから、伝令を出していたんだろう。


「悪いが今夜は一睡もしていない!防衛の宴は今夜行います!」

街の人々にマスターが告げると「準備しなきゃ」と言いながら人々が去っていく。

それを見ながら冒険者に向き直るマスター。

「みんな、ご苦労だった!お陰で今回は街の被害がゼロで済んだ。

 終わってからも悪いが、今回の報酬を出すのでまずはギルドに集まってくれ!

 報酬はオーク肉と交換にするからガメるなよ!」

では解散!と一気に言い切ると一人足早にギルドに戻ってしまった。


「いやあ、君のおかげで助かったよ!」

魔法士の女性の一人が声をかけてくる。

「正直私たちのパーティじゃ絶対死んでたからね。」

「そんなわけないだろう!」

後ろから旨を覆うプレートアーマーを付けた少年のような顔立ちの男が声を荒げる。

「俺達でもあの程度余裕だったさ!お前、先陣で多少功績を上げたからっていい気になるなよ!」

一方的に捲し立てて立ち去る男。

「ごめんね。あいつ幼馴染なんだけどプライドだけはやたら高くて。」

はぁ。と大きなため息をつく女魔法士。普段苦労してるんだろうなあ。

「いえ、大丈夫です。」

「ありがと。私はシスカ、であいつはアペタイザー。Eランクパーティの<妖精の舞>よ。」

「ご丁寧にどうも。私はヴォルフです。Eランクの魔法士です。」

「そっちこそその年の冒険者らしくない丁寧さだわ。見た感じパーティじゃないの?」

不思議そうに首をかしげるシスカに笑顔で肯定する。

「はぇ~。私と同じくらいなのにソロでEランクとはすごいわね。しかもオークをソロで狩れるなんて既にEランク以上じゃない。

 それなら今回の功績でソロEランク昇格は確定ね。」

「だといいなあ」

「あ!報酬貰いに行かなきゃ!もし興味あったら声掛けて!君なら大歓迎だよ!」

そういうと、待ってよ~と言いながら相棒の男を追っていった。

マスターからこっそり「ゆっくり来てくれ」と言われていたので、薬屋のおばちゃんと話していたら知らない人が近づいてきた。」

「なあ、あんたの持ってる剣、どこで手に入れたんだ?」

そういって赤黒い剣を指す。

「襲撃してきたオークが持ってたんですよ。」

「そうか。魔法士なら早めに手放したほうがいいぞ。」

「何かあるんですか?」

突然現れた男性に不審げな視線を向けてくれる。

「彼は道具屋のリッキーさんじゃ。アイテム鑑定の技能を持っておるから安心だよ。」

薬屋のおばあちゃんが教えてくれる。

「その武器は銘が付いてる。名前は【奈落の一薙ぎ】特殊効果で【魔力喰い】ってなってるんだ。」

魔力喰いとはこれまた魔法士には、というか誰が持っても致命的じゃないか。

だが、魔力が吸われている感覚は少なくともない。

「全く吸われている気がしないんですが。」

「ということはあんたはそれ以上の回復速度って訳か。それなら寧ろ使ってやってくれ。」

意外だ。てっきり買い取りたいとかそういう話かと思っていた。

「フォフォフォ、そんな驚いた顔しなさんな。リッキーさんは別に取り上げようと思ったわけではないよ。」

「すみません。最初は少し疑ってました。」

リッキーさんは苦笑いしながら頭を掻いた。

「こっちこそ突然すまんな。この街を救ってくれた恩人なんだ。モノがモノだけに気になっちまってな。」

「ちなみに性能の方はどうなんですか?」

「その剣は超一級品だな。しかも魔力喰いってのは総じて吸った魔力を剣に蓄積していくからどんどん強くなる。

 長く持てば持つほど硬く、鋭くなっていくらしい。まあ、ただその...強くなるってくだりは道具屋の逸話みたいなもんだ。

 期待しないほうがいいぞ。」

話しているうちに興が乗ってしまったのかリッキーさんがどんどん饒舌になっていく。

気付いたら薬屋のおばあちゃんもいなくなっており、20分位話を聞かされてようやくお開きとなった。


カランカラン


「お!戻ってきたね!今回の立役者!」

マスターが呼ぶと職員が一斉に寄ってくる。男女入り乱れて迫ってくる光景にたじろぐと、胴上げ状態にされて運ばれる。

「他の貢献者にはすでに報酬を払い終わったんでね。後は人払いもしたので、今回の功績の清算をしようと思う。」

ギルドの職員から拍手が上がる。

「まずは先陣を切ってくれた報酬だよ。よく生き残ってくれた。はい、金貨10枚。

 で、次は討伐報酬だが、オーク30匹とオークファザーが1匹だ。」

あ、あれファザー(父親)だったんだ。

「報酬は全部で金貨20枚。」

あ、思ったよりも少なかった。

「Cランクともなると一般的な相手だからね。これが相場ってやつさ。」

どうやら顔に出てしまっていたらしい。

それでも今日の稼ぎだけで中流階級が1年暮らせる程度はあるわけだ。暫く食うに困ることがないのは非常に助かる。

「ちなみに金持ちになるとほぼ無制限に金貨が入るマジックポーチを買ったりするんだけど、買うかい?」

「買います。」

ヒューヒュー!と指笛と歓声が上がる。

「ありがとう!ちなみに金貨30枚だ!」

「全部じゃん!」

「相場は金貨50枚だからね。この街の英雄なんだから大奮発だよ。」

いずれにしても金貨ばかり大量に持ち歩くのも体力的に厳しいので、このまま購入を決める。

「じゃあ持ってきて!しかし潔いね。即決するとは思わなかったよ」

「今後のための先行投資ってことで。」

受け取ったポーチを腰に装着する。ベルトにつける小さな茶色の皮のポーチだ。スーツには些か似合わないが。

「ああ、今後も期待してるよ。さて、報酬についてはこれでおしまい!次は肉の清算だ。」

あれ?清算なの?

「あれは自分で食べたいんですが。」

「それは当然わかってるよ。でもこれは非常に重要なんだ。わかるかい?重要なんだ。」

マスターの目が少し血走ってる。寝不足なのか食材に興奮してるのかわからない。

「まず一つ目は、君だけではこんなに食べきれない。二つ目は、ものすごく質がいいこと。三つめは私も食べたい。」

本音混じってるし見たことないテンションになってますマスター。

「でだ。今回金貨30枚使ってしまっただろう?食べる分以外を売りに出してほしいんだよ。」

途中から少しずつ元のトーンに戻ってきた。

「確かに食べきれないですね。なら全部の部位を食べる分だけもらったら後は売りに出します。」

言い終わる前にガシッと手をつかんで上下に振り回される。

「ありがとう!ありがとう!じゃあ金額だが、あのサイズなら金貨20枚でどうだい?丸一匹の相場丁度といったところだが。」

「それで売りましょう。」

「みんな!喜べ!これから血抜きオーク肉が食べれるぞ!」

やっぱりハイテンションなマスターが職員たちに向いて声を荒げる。ちょっと声枯れてきちゃってるよ。

しかし、職員の方も徹夜のテンションなのか凄い歓声を上げる。

「二階に運べ!下処理から全部一気にやるぞ!通信部は血抜きオーク肉が入ったと他の街に連絡して購入者を募れ!

 はっはっは!これで今期の売り上げ目標は達成だ!」

大笑いしているマスターに飽きれていると後ろからシンシアさん肩を叩かれた。

「すみません。久々にマスターがテンション上がっちゃってるみたいで。」

「それはいいんですけどね。目標達成できる位ってことは市場価格すごいんですか?」

「当然です!あれだけ綺麗にした処理してあれば、王族用にも出来ますし、

 ちゃんとしたルートで流すなら市場価格は金貨100枚は下りませんよ。」

それはすごい。血抜きまではできても捌くのはまだ無理だからな。今後も血抜きしたら捌いてもらおう。

そのうちジビエ(狩猟)料理も試してみたい。調理器具揃うだろうか?

「シンシアちゃん!君はヴォルフ君を二階に運んでくれ!準備できたら早速調理を開始するよ!」

「はい!それじゃあ行きましょうか。」

眠気でふらつく意識に鞭を打ち、いつものカウンターに座ったところで完全に意識を手放した。

ガラン!と高い金属音と慌てた女性の声が聞こえたのは多分気のせいだ。

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