10 お金より肉
「冗談だろ?」
冒険者たちが口々につぶやく。
死んでいるだろうと思っていた自分よりも新人の低ランクが、悠々と巨大なオークを殺して地面から生えた何かで宙吊りにしている。
「無事に終わりましたので帰りますか。」
完全にその光景に呆けていたマスターに声を掛けると、ハッとして撤収の支持を出した。
撤収は流石の冒険者だけあり、頭部がない死体に首をかしげながらも早々に片付いた。
「ファイヤーボール!はぁ、はぁ、ファイヤーボール!」
何人かの魔法士が息を切らせながら積み上げたオークに火球を放っていく。
身体が大きいだけあって必要な火力も多い。直径50cm程度の火球を「ぶつけただけ」では簡単には燃えないようだ。
戦いが終わった緊張感が解けたせいかぼうっとしてしまう。
「マスター」
「なんだい?」
「ファイヤーボールってどれくらいの魔力を使うんです?」
「魔力の込め具合にもよるが、あれくらいなら100は使ってるな。」
「そうですか。」
自分で聞いておいて反応が薄いのが気になったのかマスターからも聞いてくる。
「ヴォルフ君、どうやって倒したんだい?」
「爆発させました。」
「エクスプロージョンが使えるのかい?その年で?」
恐らくそれは普通ではないんだろう。思い直して適当な言い訳を考える。
「いえいえ、偶然口の中にファイヤーボールが入っただけです。」
「…そうか。」
秘密にしたいことだと悟ったのだろう。それ以上は何も聞かなかった。
「ところであの剣貰ってもいいですか?」
一応自分の戦利品だが、リーダーが持っていた剣がどうしても欲しかった。
「勿論だ。全部君が狩ったんだから、全て持って行っても構わんよ。」
よっしゃ。謎剣の所有権について言質が取れた。
燃やすにはもう少し時間が掛かるということだったので、周りから離れてギルドカードを更新してみた。
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レベル 4
筋力 … 13
体力 … 13
器用 … 13
敏捷 … 13
魔力 … 214
魔力回復 … X
技能:魔力接収、創製魔法
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予感はしていたが、今回のオークの討伐で魔力が一気に伸びていた。
逆にそれ以外のステータスは1レベルにつき1しか上がっていない。
ステータスに変化が少なすぎたせいなのか、全くレベルが上がった実感がわかなかった。
まだ掛かりそうなので余った時間で新しい魔法を考える。
作り上げたのは『ものを操作する魔法』その辺の小石を浮かべて移動させることができた。
動かしたい物の重さと速度に応じて必要な魔力が変わる。移動させられる最高速度は、魔力全開なら拳大の石が音速に至るレベルだった。
パァンと音の壁を超えて砕け散った音に、片付け中の冒険者が臨戦態勢に変わったのは申し訳なく思う。
しかし、魔力回復Xというのも未だに底が見えない。
わざと全力で魔力を使ったのに眩暈はこれまた一瞬しか起こらなかった。
折角所有権も認められているので、皆にはバレない様に死角を縫って赤黒い剣を魔法で手元まで引き寄せる。
持った感じでは十キロ位の重量、周囲の松明の光を吸い込むような赤黒い刀身。
試しに全力で振ってみると、十キロの剣にこちらが振り回された。
「本物の剣はこんなに重いのか。難しいな。」
今度はさっきの小石の要領で魔力を200まで使って剣を操作する。
試しに切るような操作をしてみたところ、自分が振った時よりも遥かに早い斬撃になっていた。
え、私の筋力低すぎ...!?似たような広告があったことなどを思い出しつつ、自分の背中にくっつけてみると、これまたしっくりくる。
暫くこの件にはお世話になろう。
『ヴォルフ君!』
少し離れたところのマスターから声が掛かる。周りに他のメンバーが集まっているので焼却が終わったのだろう。
「終わりましたか?」
「ああ、それは滞りなく。」
それで、と付け足す。
「あのオークはどうする気だい?」
血抜きして放置してあったオークをすっかり忘れていた。
「オークって美味しいかな?と思ったんですが。」
「やっぱりそういうことか。であれば、彼らに運んでもらうとしよう。」
そういうと冒険者たちにバラすための指示を出す。
流石はプロの料理人だけあって指示は適切で、オークリーダーは瞬く間に分解されていった。
「それじゃ、全員戻ろう。」
そういうとマスターは他の冒険者を連れ立って歩き出した。
オークリーダーの肉、たのしみだ。