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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第四章 王都編
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第四十話 港町クラークと岬での話し

少し長め。

 何かの空間を強制的に移動させられる感覚。自分の体を動かせず、視界は真っ白に染まる。


「着きました」


 時間的には一秒も経っていないのだろうか。自分の体を取り戻せた感覚と、変な空間から抜け出せた感覚で、少し混乱する。


「うー。ここは何処でござるか?」

「ここは王都から東にまっすぐ行った、港町クラークの近くです」


 ウルルさんの言葉で辺りを見渡すと、少し遠くに低い壁(と言うか柵)に囲まれた、小さな町らしき物が見える。


「ウルルさんは何でここに?」

「もちろんあなた達の脱獄を手伝いに来たのですが、自力で外まで出ていたみたいですね。それでこそ見込んだだけあります」


 ウルルさんは、俺達を捕まえに来たのではなく、脱獄を手伝いに来てくれたみたいだ。


「なんで脱獄を手伝ってくれようと……」

「あなた達は牢獄で腐って良い玉じゃない」


 俺達が腐って良い玉じゃないか。何時も思うが、俺達ってそんな凄いのかな? 馬鹿騒ぎしかしていない気がする……。


「あ! あんな事件を起こして、冒険者ギルドから除名されるのかな?」

「それに関しては安心してください。ギルドはそこら辺緩いですし、私が口利きしておきます。それに、あなた達果てなき夢は今や市民の英雄ですよ」

「「「「英雄!」」」」


 英雄って言っても、俺達はただ貴族殴って脱獄した重罪犯だろ。


「ええ。ドックス公爵は市民に嫌われており、殴られたその日から一日で猫でも噂していると言われるほどの広がりを見せています。それに、あなた達は一石を投じました。これから、王国では変化が起こるでしょう。落ち着くまで逃げた方が良い。この港町から南に向かえば隣国に入る事も出来ますし、この港から月光国まで行くのも良いでしょう。判断はあなた達がやる事です。それと、これは置いておきますね。それでは、此所で失礼します」


 ウルルさんはそうまくしたてると、大きな袋を残して姿を消した。


「……この袋なんだろう」

「この魔力。これって俺達の装備じゃないか?」

「夜桜-!」


 俺の言葉を聞くやいなや、桜は袋にすっ飛んでいく。


「見つけたでござるよ-! 夜桜-!」

「バベル! お金も入ってるにゃ」

「なにー!」


 ニャルカの言葉に俺も袋を調べると、今まで稼いだお金の袋が入っていた。


「魔法のポーチもある」

「良かった。全部入っている」

「にゃにゃにゃ。ハッピーエンドにゃ」


 俺達はさっそく装備を付け、これからどうするかを決めることにした。


「……バベル君。どうする?」

「うーん。俺達のことが広まるまで時間は掛かるだろうし、取り合えず今日はこの町で宿を取ろう」

「賛成でござる。せっしゃはえんしゃる帝国に行きたいでござる」

「我は月光国にも行ってみたいにゃ」

「さすがに疲れたし、明日決めるか。月光国に行くか、エンシャル帝国に行くか、明日までに決めておいてくれ」


 俺は取り合えず何処に行くかは先延ばしにして、港町クラークに向かった。



 ◇



「おお、海が見える宿にゃ」


 俺達は、港町クラークの宿の部屋から、海を見ていた。

 クラークは小さな町で、宿は二件しかない。そのどちらも値段は同じだったので、一時間吟味した結果、此所の海が見える宿にした。


「海って広いね-」

「そうだな」


 そういえば、エルは海を初めて見るのか。


「ニャルカは海を見たことあるのか?」

「我は一度族長と見に来た事があるにゃ。だけど、海は嫌いにゃ。しかし魚は好きにゃ」


 ニャルカって海嫌いだったのか。だけど魚は好きだと。ニャルカって辛い物以外に好きなのあったんだな。『魚に辛いもの掛けたら最高にゃ』とか言いそうだけど。

 

「夜ご飯はどうする?」


 と、エルが聞いてくる。


「うーむ。各自自由に食べよう」

「あ! そうだ。さっきギルドカードを確認したら、ユニークスキルのLVが上がって、LV3に成ってたよ」

「せっしゃもれべる四に成っていたでござるよ。せっしゃはこれで、最強に一歩近づいたでござる」

「にゃははは。最強の我は、ユニークスキルのLVが上がって、もっと最強に成ってしまったにゃ!」


 ……と、いう事は、ユニークスキルのLVが上がっていないのは、俺だけか……。


 ――だから言っただろう。強制成長など使ったから、LVが上がりにくくなっているのだ。


 マモンの言うとおり俺が強制成長を使ったから、俺だけLVUP出来なかったのだろう。あとニャルカは何かむかつく。

 LVUP出来なかった事は諦めて、俺達は夜までの予定を決め、クラークにくり出した。



 ◇



「何しようか?」

「我はあの塩焼きが食べたいにゃ」


 俺は、頭にニャルカを乗せて、クラークの町並みを歩いていた。


「良いぞ。それより、何でお前は俺の頭に居るんだ?」

「にゃんかバベルの頭じゃないと、落ち着かなくなったにゃ。それより、早く食べたいにゃ」


 ニャルカの催促を受け、俺は屋台の焼き魚を売っている露店を覗く。


「いらっしゃい。何食べる?」

「我はイワシの塩焼きにゃ」

「じゃあ俺もそれで」

「おう、もう少し待ってくれ」


 店の人が魚を焼いている間、ニャルカを頭から下ろしてモフモフする。

 ニャルカの毛並みはヤバイ。何がヤバイって、それはこの中毒性にある。一度モフりだすと止まらないほどだ。これは一種の麻薬だと思う。このフワフワでモフモフでいろいろとヤバイ。


「へい、そこのケットシーの分と、お前さんの分だ」


 ニャルカをモフっていると、亭主が焼き魚を渡してくる。


「銀貨一枚で良いよな」

「毎度あり-」


 最近やっと、銀貨を見ても痙攣しなくなった所だ。前までは銀貨一枚払うのに一時間は迷ったと思う。


「にゃー。美味いにゃー。魚は最高」

「それは良かったな」


 ニャルカは、頭の上でにゃーにゃー騒ぎながら、塩焼きを食べる。ニャルカは猫なのに器用で、俺の頭の上でもこぼさないように食べる。一度こぼしたときに、教育一時間コースを受けさせてから、全くこぼさなくなったのは何でだろう。密室で爆虫と戯れさしただけなんだがな。


「そうにゃ、矢っ張り食い物には辛い物にゃ。――にゃはー、魚に辛いもの掛けたら最高にゃ!」


 可成りくだらない事だけど、俺の予感は当たったな。


「そういえば、その粉ってシュナの粉って言うんだろ。何時も小瓶に入っているが、切れないのか?」

「当たり前にゃ。これは妖精族秘伝の無限小瓶にゃ。調味料をいくらでも入れておける主婦のお助けアイテム。我は妖精族でも屈指のシュナラーにゃので、この無限小瓶にも一年分入れてあるにゃ」

「シュナラーってなんだよ。マヨラーみたいなやつか?」

「マヨラー? 知らにゃいのか。妖精族は辛い物がすきにゃんだぞ」


 意外な事実。小さな妖精がシュナの粉をたっぷりかけながら、ご飯を食べたりするのだろうか。


「我はその中でもシュナラー選手権で銀メダル一枚取った事があるほどのシュナラーにゃよ」

「そうかそうか」


 妖精族って何か神秘的だな。もしくはただの馬鹿なのか……。



 ◇



「にゃ、バベル。何処行ってるにゃ」

「んー。この港町の名所“夢見がちな馬鹿を投棄する岬”だ」

「……バベル並のネーミングセンスにゃ」


 俺並みとはどういう事だ。

 この夢見がちな馬鹿を投棄する岬は正式名称らしい。

 なんでもその昔、この海に居る、二つ名持ちの魔物を討伐すると豪語していたモサエモンと言う者が居たそうだ。しかし他の者はただのホラだと相手にせず、それを見返そうとしたモサエモンは船を乗っ取って、二つ名持ちに立ち向かったそうだ。まあ、もちろん失敗して二つ名持ちの怒りを買い、町は壊滅状態。命からがら逃げ切ったモサエモンを待っていたのは絶望した町の者。モサエモンはその町の者に、夢見がちな馬鹿として岬に投棄されたのが、この夢見がちな馬鹿を投棄する岬だったそうだ。


「……それで、にゃんでいくのにゃ?」

「名所らしいから行ってみようと思ってな。何か記念になりそうだから」

「ふーん。あれ? あの岬にゃ?」

「おおそうだそうだ」


 ニャルカと歩いていると、夢見がちな馬鹿を投棄する岬が見えて来た。


「よし、いくにゃ!」


 ニャルカの言葉に、俺は岬に向かって駆け出した。




「はあはあ。ここが岬の先端だ」

「にゃー! 海にゃー」


 息を整え、岬から海を見渡す。


「広い」


 岬から見た海は広すぎる。永遠に続くと思える青い海。水平線の向こうには月光国があるのだろうか


「「あれ、バベル君(主殿)」」


 海の広さにボーっとしていると、後ろから声をかけられる。


「ん? 桜にエル。どうしたんだ?」

「ボクはこの夢見がちな馬鹿を投棄する岬を見に来た」

「せっしゃは道に迷ってたらたどり着いたでござる」


 なるほど。桜は相変わらずだな。


「バベル君も見に来たの?」

「ああ。そうだぞ。それに決まったよ」

「決まった?」

「俺は月光国に行く」

「そうなんだ」


 俺はあの水平線の向こうにある国に行きたい。


「何時も目的地はボクが決めてるしね、バベル君が行きたい所もいいんじゃない」

「にゃ、そこまでいうなら我も月光国に行くにゃ」


 エルもニャルカも月光国行きに賛成する。


「ううー。せっしゃは月光国は行きたくないでござる」

「なんでさ、そこまで月光国に行きたがらないんだ。桜の故郷だろ」

「……乙女の悩みでござる」


 ……桜に乙女の悩みか。ハッキリ言って似合わない。それに、桜なら悩まずズバズバ決めるたちだと思うんだけどな。


「無理には聞かないけど、行きたくない理由はあるのか?」

「……隠し事は嫌でござるな。分かったでござる。話すでござる」

「そうか。聞こう」

「せっしゃは武者修行に旅に出たと言ったでござるが、家出同然で飛び出してきたでござる」


 意外な事実でもないか。桜ならやりそうだ。


「せっしゃの本名は夜月桜。月光国の殲滅将軍の娘でござる」

「え! 殲滅将軍ってこの前言ってた月光国の最強?」

「そうでござる」


 これは意外だ。ギルドカードを作る時に文字も書けたし、何か文学は学んでそうだったから貴族だとはあたりを付けてたが、何か凄そうな家の出だったか。桜があの貴族に怒っていたのは、自分が貴族だったからか?


「なるほど。家出同然で出てきたから、帰るのが恐いと……」

「はい」


 親御さんは心配している……のかな? 桜ならたくましく生きられるだろうとか思ってそう。


「理由は分かった。……桜がちゃんと話してくれたし、俺も秘密を話しておこう」

「え! バベル君に秘密ってあったの?」


 俺にももちろん秘密はある。実は甘い物が好きだとか。今度あのデブ貴族を社会的に抹殺してやろうと思ってるとか。今話すのはそんなくだらない事じゃない。


「実は、俺には前世の別の世界の記憶がある」

「そうなんだ」

「あれ? 驚かないのか」

「いや、バベル君って初めから勉強も出来てたし、何か不思議な所があったからね。それも今納得したよ」


 何だうすうす気付いていたのか。


「主殿なら納得出来るでござるよ」

「そうにゃ」


 結構簡単に流されたな。あんまり重要じゃないのか。


「バベルも話した事だし、今度は我が秘密を話そう。我は妖精族最強。冥王ニャルカにゃ」

「ふーん」

「あれ? 我は冥王にゃ。強くて偉いにゃ」

「ふーん」


 ニャルカの中二病が出てきたな。まだ冥王設定続けてるんだ。


「にゃるかって冥王だったのでござるな」

「凄いね!」

「にゃ! 我は凄いのにゃ」


 桜とエルは信じてるみたいだ。ニャルカが冥王なら、アリでも魔王に成れる。


「エルはどうするんだ?」

「……分かった。みんな秘密を話した事だし、ボクも話すよ。ボクは、吸血鬼の血をひいている」

「……吸血鬼って何でこざるか?」

「吸血鬼にゃ!」


 桜は知らないようだが、ニャルカは知っているようだ。この前知ってるとか言っていたが、可成り驚いている。


「吸血鬼をしらにゃいのか。一〇〇〇年前に絶滅したといわれる闇の種族にゃ。たった一人で一軍を葬ったといわれてるにゃ」

「うん。ボクはその吸血鬼の子孫なんだ。可成り血は薄いみたいだけど、ボクは先祖返りで普通の人間と違うんだ」

「……話してくれて良かったでござる。エル殿が吸血鬼だろうと鬼だろうとエル殿はエル殿でござる」

「……バベル君も桜ちゃんもそう言ってくれるんだね。ありがとう」


 ――エルは自分が違う事を恐れていた。自分が人間じゃない。異種族でもないナニカだという事実に。


「お前が闇の種族だったのは初めて知ったにゃ。お前が悪い奴じゃにゃいのは分かった事にゃ」

「ニャルカ!」


 ニャルカも認めたようだな。ニャルカは吸血鬼について何か知ってそうだが、何か聞いたことあるのかな?


「決めたでござる。せっしゃは月光国に行くでござるよ。腹を割って話したし、せっしゃも頑張るでござる。それと、――月光国に行くなら、私は今までの口調を改めますので」

「「「…………」」」


 い、違和感しかねー。急にキリッとなるな。ギャップが凄いぞ。矢っ張り桜のマジメモードは駄目だわ。


「みんなで秘密を共有出来たね」

「いや、エル。お前一番大事な事話してないぞ」

「え! 何かあったけ?」

「お前が男だという事を!」

「「えーーーー!!」」


 エルが男だという事実が、桜が貴族だったより。俺に前世の記憶があるより、衝撃だったようだ。

一応これで第四章終了です。もう一話ありますが、それは主人公が出てこないので番外編扱いになると思います。それと、ストックが切れたのでこれからは2日~3日に一度の投稿になります。

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