第十二話 “果てなき夢”
俺達は今、ギルドの酒場で三等分に切られたパンを見つめていた。
「ッ、これでござる」
「な、じゃあボクはこれ」
「クッ、遅かったか」
そう、俺達は三等分に切られたパンを巡って、争っていたのだ。
朝パン屋で買ってきた、一個銅貨二十枚の楕円形のパン。エルが切り分け、どれが一番大きいかを見極めていたが、やはり桜が一歩早かった。
「うー。これだけじゃ足りないのでござる」
「我慢しろ。俺達には金がないんだ」
今俺の手元にあるのは銅貨が二枚だけ。昨日まで銀貨一枚の残っていたが、すでにきれいさっぱり無くなっていた。
なぜ銀貨が無いかというと、それは昨日のこと――。
――ラーメン屋魔豚四号店からの帰り道。
「主殿。不気味でござる」
「そうだな」
小豚亭に戻る途中の路地裏は、夜になるとさらに不気味になる。
「この道は暗いな。大通りは街灯があったけど、路地裏だから仕方ないか」
「そうでござるね。エル殿は大丈夫なのでござるか」
「ああ、ボクは夜目が利くからね」
正確には吸血鬼の血を引いているからだがな。
「お、ついたよ。小豚亭だ」
「やっぱり、何時倒れても可笑しくないな」
「うん。だけどここしか泊まれる場所が無いしね」
小豚亭の扉を開け、中に入ると、爺さんが掃除をしていた。
「お帰りなさいませ。ところで、お客さん。お金が無くなってはいませんか?」
「お金? ちゃんとここに……。てっ銀貨が無い!」
「やっはりですか」
「何故分かったんだ」
ちゃんとラーメン屋から出た時は有ったはず。一番怪しい路地裏でも、誰ともすれ違わなかった。
「おそらくスリ吉の仕業でしょう」
「スリ吉?」
「ええ、この都市では有名なスリですよ。何でも強奪系のユニークスキルを持つとか」
「強奪系? 系統は、戦闘系、生産系、補助系、召喚系、特殊系の五つつしかないはずだが?」
「ええ、基本五系統の他にも一般的には知られてない、強奪系、変身系、領域系、支配系、隠蔽系の五種類があるのですよ。とても珍しい裏系統と言われる物です」
聞いたことない系統だ。それよりも。
「スリ吉の事を詳しく」
「ええ、スリ吉は強奪系のユニークスキルを使って遠くから標的の持ち物を奪うのです。なので正体も不明です。貴族の屋敷から金貨三十枚を奪った事も有り、奴の首には金貨五枚の値が付きます。最近この辺りで出現すると言う情報が入ってきたので、気をつけて下さい。と、言おうと思ったのですが……」
「もう少し早く言ってください」
「すみません」
スリ吉許さん。絶対にとっつかまえてやる!
――と、いう事があり、残っていた銅貨二一枚と、桜の拾った一枚で、パンを一つ買い、ギルドの酒場で食べていた。と、言う訳だ。
「すぐに依頼を解決して、ご飯を食べるでござる」
「そうだな。手頃なEランクの依頼は……」
「探して置いたよ」
エルはそう言って、紙の様な物を三枚取り出した。
「早いな」
「もちろん、依頼は三つ。薬草採取と、ゴブリン退治。それに荷物運び」
「荷物運び?」
「うん、三人で役割分担した方が一杯儲かるしね。荷物運びは桜ちゃんにやって貰おうと思って」
「ふむ」
薬草採取は村でエルが良くやっていたし、荷物運びは桜の【超人】があればいける。ていうかエルはお昼着きと、出ているのを取ってきたのか。チャッカリしている。なら、俺はゴブリン退治かな。
「決まりだね。受付に行こう」
「お昼着きで一日銀貨一枚。こんなに貰って良いのでござるか?」
「いいだろ」
銀貨一枚だと日本円で一〇〇〇円位。一日でこれだとやっぱり安いんだよな。
受付に行き、エルが依頼書と、ギルドカードを受け付けの人に渡す。他の冒険者は依頼に出かけていて、ギルドの中にはいないので、並ばなくてもすんだ。
「そちらの三人がたとはパーティですか?」
「そうですが」
「ならパーティ登録をしてください」
エルが依頼を発注しようとしていると、受付の人がパーティ登録をやるように言ってくる。
「カードを提示して頂いて、パーティ名を決めて頂けたら終わりですのでぱっぱとやちゃってください」
「バベル君?」
「まあ、簡単そうだしすぐにやっちゃおう」
そう言うと、俺と桜はギルドカードを出し、受付の人に見せた。
「それでは、パーティ名を決めて下さい」
「パーティ名ですか。……少し相談しても良いですか」
「どうぞ。その間に必要なことは終わらせてしまうので」
「ぱーてぃ名はどうするでござるか」
「二人は何か決めてるのか?」
「うーん。“闇を纏いし者の宴”とか」
「却下だ」
そんな中二ネーム付けられるか! そんな名前を思いつくって事はもしかして……。考えないようにしよう。
「“桜の剣士”とかどうでござるか」
「今はパーティ名を決めてるんだが……それはお前の異名か?」
「もちろんでござる!」
「お前の異名は土下座侍で充分だと思う」
「ガーン。ぬ、主殿はどうなんでござるか」
「俺か……。うーんエルはSランクに成るのが夢なんだよな」
「そうだけど。どうしたの突然」
「Sランクに成った後はどうするんだ」
「え! ……考えた事も無いな。Sランクに成ったら決めるよ。だけど、死ぬまで冒険をしたい!」
エルは目を輝かせながら言う。
「桜は武者修行の旅に出たんだろ。強くなった後はどうするんだ」
「うーん。分からないでござる。まあ、例え最強に成っても止まらないでござる。最後まで……」
二人とも目標で終わらせるつもりはないのか……。
「じゃあ、決まりだ。パーティ名は“果てなき夢”」
「果てなき夢……いいでござるな」
「うん、そうだね。あ、バベル君の夢は?」
「俺か」
俺が冒険者に成りたかったのはウルルさんに憧れたからだ。取り合えず、ウルルさんを越えよう!
「うん。それが良いよ」
「え、俺何にも言ってないけど」
「分かるよ。ウルルさんを越えることを目標にしてる事は。一五年間一緒にいたからね」
「ああ、ウルルさんを“予測不能”を越える事が目標だ」
「うん。あ、そうだウルルさんSランクに成ったそうだよ」
「え、そうなのか。なら、俺もSランクに成ろう!」
目標。Sランク冒険者に成る。ウルルさんを越えると。
――さあ、冒険を始めよう。
補足 エルは補助系ではなく、隠蔽系より。




