第百十七話 エクスさん
「どうぞ。粗茶ですが」
ここは賢者の遺跡内部。そして、俺の対面には【暴走兵器エクス・マキナ】が座っていた。
「お、おかまいなく」
暴走兵器が出したお茶をおっかなびっくり飲み、心を落ち着かせていままでの事を振り返る。
暴走兵器に『歓迎しますよ』と言われた後、俺達は賢者の遺跡の内部を案内され、なぜかお茶をだされた。ぜったい厨房に連れてかれて料理されると思ったのだが……。
「お腹は減っていませんか? 簡単なものであればお作りしますが」
なぜ料理まで出してくるのだろう。
――まさか、いろいろ食べさせて太ってからパクリと……
――な、なにー!!
マモンの言う事に一理ある。物語の怪物はだいたい捕まえた人間を太らせようとするからな。暴走兵器の容姿は、人間の女性と変わらない。ところどころコードが内部から出ていたり、一部機械で出来たような感じだが、美しい人間と同じだ。あのような美人が人肉を食べる事に疑問をもつが、肉食系女子と呼ばれる存在も居るし、たぶん食べるのだろう。
「お、おかまいなく。そのまま存在ごと忘れて頂いて結構です」
「なにを言っているのですか?」
自分でも分かんない。
お茶を飲み、心を落ち着かせる。エルは全てを諦めた目でお茶を飲み、ニャルカは気絶している。桜は、寝ていた。そう、寝ているのだ。さっきから一行に起きる気配がなく、暴走兵器を前にしても起きる様子がない。もう超人じゃなくてただ馬鹿と思ったほうがよさそうだ。
「はあ。どうやら、私の存在がお客様を怖がらせているようですね」
「いえいえ。おかまいなく。……お客様?」
いまこの兵器なんつった?
「はい。お客様ですよ。エネにあなた達が来ると聞いていたのですが」
「エネ?」
「はい。エネです。人間風に言うならば、【酸性雨 エネルギーフロッグ】」
蛙かっ!
「えっ! あの蛙さんが?」
「蛙さんと呼ばれているのですか」
「す、すみません」
「いえ。怒ってはいませんよ」
そういえば、あの蛙と別れる時、『名前を出せば分かるようにしておこう』とかなんとか言ってたな。
「じゃあ、蛙に俺達が来る事は聞いてたのか?」
「ええ。赤髪の男に、銀髪の女。黒髪の女がそっちに行くと言っていました。その猫の事は聞いていませんが」
暴走兵器は気絶しているニャルカを見て微笑む。
「じゃあ、俺達を食べる気はない?」
「なにを言っているか分かりませんが、食べる気はありませんよ」
よかったー。死を覚悟した。蛙の時と同じぐらいのインパクトに、気絶しそうになったぜ。
「なんか、ホっとしたら急に疲れたよ」
「だなー」
ソファーに体を預け、脱力する。豪華とは言いずらい部屋だが、なんか暖かみがある。
「どうやら、想像以上に怖がらせていたようですね。待っていてください。なにかつまめる物を持って来ます」
「あ、すみません」
「いえ」
暴走兵器は立ち上がって、奥の部屋へと消えていく。少し待つと、暴走兵器はケーキの皿を二つ持って現れた。
「そちらのお二方は寝ているようなので、二つ持って来ました」
「ありがとうございます」
クルミが入ったようなケーキを目の前に置かれる。
「えーと。なんて呼べば良いですか?」
「ああ。申し遅れました。私はエクス・マキナ。エクスとお呼び下さい」
エクスさんはそう言い、向かい側に座る。
「あ、美味しい」
エルが一口食べ、そう感想を言う。
「それは良かった。材料を確保する為に“竜の森“まで行ったかいがありました」
「竜の森まで!?」
「ええ。古代竜王と交渉して中に入れて貰いました」
どうやら、二つ名持ち同士は結構繋がっているようだ。古代竜王と交渉するなんて始めて聞いた。
ケーキを二人でバクバク食べ、あっという間に皿をカラにする。
「お。美味しかった~。ごちそうさま」
ケーキを食べた後はお茶を飲み、一息つく。
「さて、一息つきましたし、なにか質問でもありますか?」
エクスさんはそう言って、こちらを見てくる。質問と言っても、なにを質問すればいいのだろう。
「古代文明ってどんな所だったんですか?」
エルがエクスさんにそう質問する。古代時代に創られたエクスさんには、まあ妥当な質問だろう。
「そうですね。今より魔法が発達していて、人口の99%は魔法を使えるような時代でした」
今は魔法を使える者が全体の三割と言われているから、それは凄まじい。
「その反面ユニークスキルは発展せず、高い者でもLV5もいかないという感じでした。魔法の補助が出来るユニークスキルが出ればラッキーという風潮がありましたね」
今はだいたいLV5を越える者は全体の四割ほど。昔は高くてもLV5って話だから、LV10まで行く人はいたのかな。
「しかし、マスターはそんなか、ユニークスキルのLVは10であり、魔法も“大賢者”と呼ばれるほどでした。マスターほど素晴らしく、崇めるべき存在はいません」
あれ、なんかスイッチ入った。そういえば蛙が暴走兵器はただの狂信者だと言っていたような。
「あ、あのエクスさん?」
「はっ……失礼。少しトリップしていたようです」
良かった。目が冷めた。
エクスさんはお茶を一口飲み、話にもどる。
「まあ、そんな時代も、あいつに因って終わりましたけどね」
エクスさんが今一瞬すごい殺気をだした。殺したい対象が居ない。行き場のない殺気を。
「古代文明は、たった一夜で滅びました。その時私は眠りに就いていたので、詳しくは知りませんが、跡地となった場所には、怪物がいました」
古代文明が滅びた原因はいまだ分かっていない。もしかしたら、俺達は世界で始めて真実を知る人間になるかもしれない。
「私の目の前には跡地となった文明。そして、人間の言葉を借りるなら二つ名持ちと同等の力を持ち、イレギュラーとなった怪物が居ました」
……二つ名持ちのイレギュラーなんて、ただの悪夢だ。いったいどんな力を振るうのだろう。
「その頃マスターは過去の私と同じ力を持っていました。言っておきますが、過去の私はあまり強くありません。せいぜいSランクの魔物の上位と同等といったところでしょう」
それでも充分強いと思う。
「さすがのマスターも“古代竜王“や“海王”といった存在すら越える怪物にはあと一歩届かず、お亡くなりに。私も敵をとる為に孤軍奮闘しましたが、あえなく惨敗命からがら逃げました」
「ゴクリ……で、その怪物は?」
「“古代竜王”“海王”“暴牛”がイレギュラー化を解除して対処したと聞いています」
さすがに想像がつかないレベルの怪物も、陸海空の最強に挟まれたらどうにもならないか。イレギュラーも解除したみたいだし。……あれ? いまなんか変な事を言ったような。
「イ、イレギュラーって解除出来るんですか!?」
そう、それ。イレギュラーとは普通なったら倒せと教えられる。正気に戻したりは出来ない。
「ええ。イレギュラーとは一度に大量の魔力を魔物が摂取する、もしくはまだ生まれてもいない間だに魔力を浴びて、それが体内に進入して出来ます。その大量の魔力を吸い取れば直りますよ」
「大量の魔力ってどれぐらいなんですか?」
「それは分かりません。魔物の位が低いほどなりやすく、高いほど成りにくいです。いちがいにこれとは言えません」
「そうですか」
エルは少し考え込むようにソファーによりかかる。
「ほかになにかありませんか?」
「いえ」
「まだ時間もありそうですし、遺跡の内部を案内しますよ」
「え!?」
世界でもっとも謎な遺跡“賢者の遺跡”その内部を世界で始めて探検する事が出来るなんて。
「マスターはいろいろ創っていますから、新しい発見があるかもしれませんよ。あなたの中にある古代兵器もマスターの作品ですし」
「……もしかしてバレてる?」
「はい」
二つ名持ちには、マモンの事もお見通しだったようだ。
――まあ、あいつなら分かるだろうな。
――知っていたのか?
――姉妹みたいなものだからな。
しかし、マモンの声音はあまりいい雰囲気をだしていない。
「まあ、いろいろありましたね。では、こちらへ」
桜とニャルカはソファーで寝かせて毛布を掛け、俺とエルはエクスさんに案内されながら遺跡の奥へと足を踏み入れた。




