第百八話 ニャルカ、Bランク試験を受けるの巻
秋真っ盛りのこの季節。あの化け物屋敷との対決後、鈴玉さんから討伐賞金を丸々貰い、働かなくても良くなったので、宿の部屋でゴロゴロしている。そんなゴロゴロしている時に、ニャルカが口を開いた。
「にゃあ、バベル。我、Bランク試験を受ける事ににゃったんだけど」
「……マジで?」
「マジにゃ」
唐突にそう言ったニャルカは、とくに気負う事なくサラりと言う。
ニャルカの強さはよく分からないと言うしかない。弱いと思っていたけど、この前はミノタウロスをなぜか一撃で倒せたし、強いと思ったらこの前ゴブリンの子供に一撃でやられていたし……。
「勝算は?」
「我は最強だから人間ごときが作ったチャチな試験は簡単にゃ」
こいつ舐めくさっとる。Bランク試験を舐めていやがる。しかし、筆記試験は今から詰め込めばいいとして、問題は戦闘力を計る試験だよな。
「あのミノタウロスを倒したときの力は?」
そう聞くと、ニャルカは露骨に嫌な顔をする。結局、あの力の正体は教えてくれなかったし、聞いたら嫌な顔をするし、訳が分からない。
「我はあんな力に頼にゃい!」
うーむ。しかし、どうするか……。俺だけで考えてもしかたないな。
「よし、今夜会議をするぞ!」
ニャルカを昇格させる為に、今夜会議を開くことにした。
◇
――その夜。
「集まったな」
あの後帰って来たエルと桜と一緒にご飯を食べ、部屋に集まっていた。
「じゃあ、第一回ニャルカをBランク冒険者にしよう会議を始める」
小さく拍手がなり、会議が始まった。
「まずは筆記試験だよね」
「それについては俺が詰め込もう」
どんな問題が出るかは分からないが、俺の時出た問題から粗方予想は出来る。
――私も協力しよう。
――それは助かる。
筆記については俺がやると決まり、次は戦闘。
「一番の難関はBランクの魔物を一体一人で討伐だけど……」
一斉にボーっと聞いているニャルカを見る。が、あんな猫にBランクの魔物を討伐出来るのか? いや、必殺スキルを使えばニャルカでもいけるか。
「エル、ここらへんに二足歩行でBランクの魔物は居るか?」
「んー。うん。オーガジェネラルが歩いて二日ほどの森に居たはず」
試験では、討伐を手伝うのは駄目だが、場所までの送り迎えは良かったはず。
「でかぽんに乗ればすぐだな。後は現役Bランク冒険者との戦いか……必殺スキルが通用すればいけるか」
しかし、必殺スキルは魔力を使って仕様する。魔力が少ないニャルカだとBランク冒険者を10秒支配出来るかどうか。
「確かに、人を支配するのは難しいにゃ。だけど、我なら出来る」
その根拠のない自信はどこからくるんだ。
――戦闘訓練しかあるまい。
――しかし、ニャルカだぞ。何を鍛えればいいんだ。
魔力を鍛えても雀の涙だし、力なんて鍛えてもあの子猫パンチが猫パンチになるだけ。
「あ、そういえば、この前ユニークスキルのLVが上がっただろ。どうなんだ?」
「ほれにゃ」
ベッドの上でボーっとしていたニャルカは、こちらにギルドカードを渡してくる。この前、化け物屋敷との戦闘で上がったLVを確かめる為だ。俺もLVが上がって、新たな爆虫が追加されたし、ニャルカもなにか追加されているんじゃないだろうか。
確かめてみると。一つだけ知らないスキルが載っていた。
「『強化波動』?」
名前は強化波動。それは、味方の能力を強化するというもの。ただし自分には効果がない。
「駄目じゃん」
自分を強化出来ないようじゃ、意味が無い。
「訓練だな」
「それしかないでござる」
ニャルカの訓練は、今から始まった。
◇
それからは怒濤の日々が過ぎていった。あれから一週間後に筆記試験。詰め込むだけ詰め込んで、試験会場に放り込んだニャルカは、無事合格した。帰りは頭からポロポロ数字とかが出ていたから、もう覚えていないだろう。
次の試験、Bランクの魔物討伐は、必殺スキルを上手く使って無事合格。そして、今日は最終試験だ。
「最終試験は見れるんだよね」
「ああ。訓練場でやるから、俺達も見られるはずだ」
なぜか桜は居なくなっていたが、居ないならどこかに出かけたのだろう。今日はエルと二人だけだ。ニャルカはすでに行っているので、俺達も追いかける。
ギルドに入り、訓練場への扉を開く。ここの訓練場も外で、可成り大きい。その訓練場の一画には十数名の冒険者。そして、それをベテラン風の冒険者や、見るからに初心者といった冒険者が取り囲んでいた。
「もう始まりそうだよ」
俺達も取り囲んでいる冒険者達の輪に入り、試験を見守る。マニュアル通りの宣言をした試験官らしき森人は、声を張り上げ、Bランク冒険者を呼んだ。
ギルドから出てきたの三人の男女。大盾を背負った小人の男と、杖を持つ魚人の男。そして、着物を着、腰に刀を差した桜……。
「なあ、エル。なぜ桜が居るんだ?」
「分かんない。試験官として呼ばれたのかな?」
なぜか一緒に出てきた桜は、試験官らしい。なんか前にも似たようなことがあった気がする。
「では、クジを引いて下さい」
前と同じように、クジを引き、戦う相手を決める。ニャルカは係員さんにクジ箱を下ろしてもらって、クジを引いた。ニャルカがそれを開くと、少し驚愕したような顔をし、桜を見た。
「どうやら、ニャルカの相手は桜ちゃんみたいだね」
「そうなのか」
ニャルカは桜に勝てるのか……。ニャルカのユニークスキルは、人の支配が難しい。桜は一見なにも考えていない頭お花畑なアホに見えるが、結構いろいろ考えている。……はずだ。精神耐性も高いし、ニャルカだと難しいかな。
――しかし、必ずしも勝つ必要はないだろう。
――そうだな。なにか可能性を見せれば合格はするだろう。
ニャルカの可能性か……。
「「「うおぉぉぉぉお!!」」」
一回戦、魚人族対挑戦者は、魚人族の勝利。どうやら野次馬達は賭けをしていたようで、床で泣き崩れているやつが居る。
「次、ニャルカ選手」
次の試合はニャルカ。いつも通り傲慢な表情で、試合場に上がる。試合場には桜が待ち構えている。そして、なにかいつもと雰囲気が違う。
「我が最強。お前の夢は最強らしいが、我より弱い」
その根拠のない自信は本当にどこからくるんだ。
「……猫の戯れ言と思い、聞き流していましたが、ここで力を見せておきます」
どうやら、桜は本気モードになったらしい。このまじめ口調はそうだ。
「にゃっはっは。愚民が! 我が波動の前には無力と思い知らせてやる」
「試合開始!」
その瞬間、桜からとてつもない殺気を感じた。
圧倒的な殺気。死を明確にイメージしてしまう殺気は、すべてニャルカへと向けられていた。
周りに漏れている殺気だけで、さっきまで騒いでいた野次馬が静まりかえり、試験官も冷や汗をかいている。痛いほどの静寂だ。
「……にゃ、あ……」
ニャルカはさっきの自信はどこへいったのか。今は、ガタガタ震えている。
「どうしたんですか? もう、お終いですか」
居合いの構えをしながら、殺気を放つ桜は、そう言う。
「……にゃめるにゃー!」
ニャルカは震えながらそう叫び、桜に向かって飛びかかった。
◇
「にゃは。どうにゃ。我はBランクになったにゃ」
あの後、結局ニャルカは負けた。しかし、あの殺気の中動いた事が試験官の目に留まり、なんやかんやあって無事ニャルカはBランクに昇格した。
「さすがニャルカでござるな」
「にゃっは~。もっと褒めるにゃ!」
ベッドの上では、ニャルカと桜が一緒に座っていた。あの殺気の中で桜に飛びかかったニャルカは、桜も認めた。ニャルカと桜はいっそう仲が良くなったようだ。
――ふむ。これで一件落着か?
――そうだな。
俺達の冒険は、一つのハードルを越えた。
はい。これで第七章終了です。当初の予定では第七章は全六話ほどで、化け物屋敷との戦いもあまり長くなる予定ではなかったのですが、いつのまにか二倍の長さになっていました。
さて、第八章は少しお待ち下さい。合間に、番外編を一本投稿予定です。




