ストーカーのいる日常ー3
「奈央、ちょっとひっつきすぎにゃ!離れるにゃ!」
いつも通りに登校する俺たちにねここはそういった。
ああ、そういえば入学式からずっとこうだったから忘れてたけどこれっておかしかったな。
だが、その声に奈央はいささかの反応も見せずに俺の腕に抱きついたままだ。
「おい……奈央?」
不安になり声をかける俺。
「ええ?あ、はい。なんでしょうか?」
だが、奈央はケロッとしたように言う。
「なにって、ねここが……」
「ああ、なにやらねこが五月蝿いと思っていたら、なんだねここさんですか」
「にゃーー!言わせておけばこの小娘!許さないにゃ!」
と、ねここは今にも奈央に飛びつかんとするがーー
「甘い」
奈央は俺の腕を離すことなく華麗な足捌きでねここの姿勢を崩した。
「うにゃ…」
猫のような声を上げて尻餅をつくねここ。
はあ、朝から何やってるのか。
物騒になったな日本も。
「ねここ、立てるか?」
俺はそう手を差し伸べる。
だが、ねここは俺の手を掴まずに袖で涙を拭うと勢いよく立ち上がった。
「別に助けてもらわなくてもいいにゃ。大きなお世話にゃ!」
顔を赤くしながら言うねここ。
最近、春だっていうのに暑くなったからかな?
猫は暑いの苦手っていうし、そうかもしれない。
ねここは俺たちの前を歩く。
少し怒ったような、でも楽しそうなその背中を見て俺は微笑ましくて一人静かに笑った。
「ああ、そう言えば。ご主人様」
「ん?」
「今朝のご用件はなんだったのですか?私の部屋に来られたという事は何かあったのでしょうか?」
奈央は心配そうな顔で聞いてくる。
「ああ、それな……最近誰かに見られてると思ってな……奈央なら気付いてるかなって…」
「それってまさかストーカーって奴ではないでしょうか?そうに決まってます!私のご主人様に手を出すなどこの穢れきった雌豚が!許すまじ!死をもってその罪を償え!……ご主人様、今すぐにでも私が処理して参ります。ご安心してください。ストーカーの一人や二人、私の敵でもありませんので」
と、奈央は本当にクルリと後ろを向きどこかへ行こうとする。
奈央に任せては本当にストーカーを処理しかねない。
事情があって俺を尾行しているだけかもしれないし、それが分かってからでは遅くなってしまう。
俺は咄嗟に奈央の手を掴んだ。
なんか。シチュエーションにデジャブを感じる。
「ああ、この感触?永遠に忘れません!」
いえ、忘れてください。って、このくだり二回目なんだが…
奈央の口ぶりからして気付いていなかったのか。
奈央も最近疲れているかもしれない。これ以上迷惑をかける訳もいかない。
「大丈夫だよ。俺の気のせいだ」
「え……そうなのですか?それならいいのですが……」
腑に落ちていない様子で心配そうに言う、奈央。
俺を心配してくれていると思うとなんとも愛おしい。
俺は奈央の頭をワシャワシャと撫でた。
「ひゃぅ…」
と顔を耳まで真っ赤にする。この反応にももう慣れた。
「もう……撫でないで下さい…」
はにかみ、上目遣いで言ってくる奈央にそんな事を言われてやめる男子は居るのだろうか?
やめていたら男子でない。
俺は撫でる手を止めずに言った。
「心配してくれてありがとな。でも俺は大丈夫だ。ほんと、気のせいだからさ」
「うぅ……はい、承知しました」