ストーカーのいる日常ー2
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「はい、ご主人様。あーん」
「あ…あーん」
正面の座った奈央が差し出した漬物を俺は素直に食べる。
子供の時からこれをやってるが俺ももう15歳だ。正直恥ずかしい。
「お口に合いますでしょうか?」
『んんうぬぬ!!!』
「うん、奈央の料理はなんでも美味いよ」
「ありがとうございます」
『んんうんぬー!!!ぬぬんんんん!!!!!』
「煩いですよ、ねここさん」
奈央はそう言って俺の隣に座っているねここを睥睨する。
ねここは現在、身体をロープでぐるぐる巻きにされて捕縛されており猿轡を咬まされている。
もちろん、そうなったのは奈央に負けたからだそうだ。
俺はリビングで読書をしていたので知らないが、結局あの争いは奈央の全面勝利で終わったらしい。
このまま口が利けないままでも面倒だし俺はねここの猿轡を解いた。
「この悪魔!!」
開口一番にねここが言ったのはそんな言葉であった。
外で何があったのであろうか。知らぬが仏とはよく言ったものだ。
「もう一度いいますがねここさん、煩いですよ。ご主人様の御前でよくもまあそんな口が聞けたものですね。ご主人様の慈悲でそこまでにとどめていますが、貴女は敗者であるのですよ。その意味解りますよね?」
奈央の凍てつくような目を目の前にしても竦まないねここ。
悔しさに身を悶えさせながらそれを必死に抑えているような感じだった。
ねここは基本的に負けず嫌いだ。
負けたという事実。
それだけが今、彼女の中で渦巻いているのだろう。
はて?この人達本当にドンパチやったのだろうか?
奈央はもちろんのこと、ねここにすら傷がついていない。
外で何やっていたのか?……やめておこう。さっきも言ったけど、知らぬが仏。
「そんなことより、ご主人様、あーん」
「あーん」
まるでねここが居ないかのように「あーん」してくる奈央。
ねここは悔しさに歯噛みしているが見ていないという事にしよう。
だが、される俺としてもひとに見られるのは恥ずかしい。
「奈央…自分で食べたいから、いいよ」
出来るだけ当たり障りの無いように言う。
が、そんな事は関係なかった。
奈央の瞳からはみるみる光が失われる。
「ご主人様…嘘ですよね…ご冗談ですよね?…だって私の大切なご主人様ですもの。そんな事言うはずがありません。子供の時からずぅっと続けてきた事ですもの。ああ、解りました。そこの泥棒猫に毒されてしまったのですね。消毒しなければ……ですが、それでは再び毒されてしまうかも致しません。……では滅菌する事にいたしましょうか」
「いや、ちょっと待って!奈央、明らかに今ねここの縄、引っ張ったよねそれ以上縛り上げたら内臓出るから!」
「いえ。御安心を。中世ヨーロッパでもこの様な方法では処刑されておりませんので」
「それは残虐すぎてのほうじゃないかな!?」
「いえ、優しすぎるからだと存じますが」
奈央はそう淡々と中世ヨーロッパの処刑方法について語っているが、何故そんな事を知っているのか?
どんだけ有能なんだようちのメイドは……
だが、今はそんな事は関係ない。ねここの命が危ないのだ。
「まあまあ、落ち着いて奈央。あ!あああ…ナンカテガイタイナ…奈央、っていう事で食べさせてくれるか?」
すると俺の名演技に奈央は瞳を輝かせて頷いた。
「はい!もちろんでございます!」