12月6日 金曜日
クリパの準備は主に5、6時限目と放課後を利用して行われる。
サンタコス喫茶と言われるが実際何をやるかと言えばケーキ屋、クリスマスと言えばケーキと言う事でケーキ屋になった訳だ。
で孝之が今何をやっているのかと言うと、喫茶店で使うカウンターを作っていた。わざわざ角材から造るらしい。
手際よく造っていたが、途中であることに気がついた。
孝之「あれ?薄野が居ねぇ」
つい先程迄このクラスに居たのだが、いつの間にか消えていた。
孝之「なぁ、薄野知らねーか?」
クラスメイトに話しかけたが答えは知らないとの事だった。
何か胸騒ぎがした。
孝之は作業を止め教室を出て薄野を探すことにした。
ノエルの悪夢、ブラックサンタ、その言葉が頭から離れない。一体全体薄野は何をしようとしてるのか…そう考えながらレンガ館に向かう。
レンガ館に向かった理由は単純、そこに生徒会があるからだ。薄野が情報得るために何度も生徒会に侵入した事があるらしい。
何故薄野がそう何度も薄野が生徒会に侵入出来るのは奴の魔法が特殊だからだ。
予想通り生徒会室の前に薄野が壁に張り付くように立っていた。
孝之「何してんだ薄野」
薄野に話しかけると薄野は驚いたかのように孝之を見て言った。
薄野「おっーと千歳孝之ではないか。まさかこの俺の幻術を見破るとは…」
薄野は幻術使いであの恭子さえもその魔法に苦戦する。しかし孝之には幻術は効かない。と言うより魔法に影響されない。
孝之「お前、また悪巧みか?」
薄野「失敬な、悪巧みではない楽しい事だ!」
その楽しい事が一種の悪巧みなのだが。
孝之「でお前ノエルの悪夢って知ってるか?」
あえてこういう聞き方をしたのは、薄野がそう言う風に聞いた方が答えるからだ。
薄野「ノエルの悪夢か……、ふむ聞いたことがあるな」
孝之「何やるつもりだ?」
薄野「詳しくは知らんが……」
知らんがと言うより言わないだけであろう。
薄野「何でもリア充に鉄槌を下す連中だとか…」
孝之「リア充?」
薄野「リアルで充実した生活を過ごす連中の事、主に恋人がいる奴の事を言う。諸説ありだがな」
孝之「でそのノエルの悪夢は恋人達をどうするつもりだ?」
薄野「そうだなぁ……、そこ迄は知らんなぁ」
絶対に何か知っている。孝之は薄野に賄賂を渡した。
薄野「何でもノエルの悪夢はブラックサンタを使って恋人達を別れさせようとしているみたいだぞ」
孝之「何て迷惑な奴等だ」
これはひと波乱起こりそうだ。孝之はブラックサンタ対策を早めに計画するのだった。
放課後、今日はたいして残るような作業が無いため帰ることに。本来なら春音と一緒に帰るのだが生徒会の仕事があるため今日は一人で帰ることに。
「おーい孝之」
最近春ねぇは生徒会で忙しいみたいだし
「聞いてんのか孝之?」
今日の晩御飯は俺が作るか
「何無視してんだ」
孝之「あだだだだだ!」
右耳に激痛が走る、誰かに摘ままれている。いや最早誰なのかは分かっている、こんな事をするのはあの人しかいない。
孝之「痛い!話して秋ねぇ!」
バサバサの金髪を後ろで結って、制服を着崩した女子生徒、彼女は恵庭 秋穂、夏実の姉である。そして秋穂の隣に可愛らしい小学低学年並みの身長の女の子、無論制服はファクトリアだが、彼女は恵庭 冬華、夏実の妹、彼女らを人呼んで恵庭姉妹と言う。
秋穂「たく、何度も呼んでんのに反応無いから心配したぞ」
孝之「いや、ちょっと考え事を」
秋穂「ははん、さてはクリパで何かやらかすつもりだなぁ」
この人はと言うか皆其しか無いのかと思う。
秋穂「で?孝之暇か?」
この秋穂なりの誘いは絶対に断りたい。
孝之「いや、今日は晩御飯作んないと」
秋穂「えっ?暇だって?」
孝之「話し聞こうか秋ねぇ!」
秋穂「いやーお姉ちゃん達も暇なんだよね、あー急にsweet sweetのケーキ食べたくなってきたなぁ」
孝之「いや秋ねぇ、俺買い物しないと」
秋穂「よしじゃあ行くぞ孝之」
孝之「聞けよ!」
全く孝之の話しを聞かない姉に勢いよくツッコミを入れる。
秋穂「ほら冬華も何か言ってやんな、可愛い妹がケーキ欲しいって」
今まで黙っていた一番下の妹が口を開いた。
冬華「孝之……、ケーキ奢れ」
この下の妹、かなりの毒舌だ。仕方なく孝之は二人を三条館目の前の喫茶店sweetsweetに向かうのだった。
北三条通りに面しているsweetsweet、ケーキだけでなくクッキーやジャム、ドリンク等色々売っている。
秋穂はアップルパイ、冬華はガトーショコラ、孝之はシュークリームを、皆ドリンクとセットで頼んだ。四人掛けのテーブル席にてお茶する。
コーヒーを啜りながらシュークリームを食べる孝之。
秋穂「いやー、無料で食えるケーキほど旨いものはないねー」
二人のケーキセットを奢った孝之の財布はこの季節と同様寒くなった。
孝之「で、たかがケーキ食べたいだけに俺を連れてきたの?」
冬華「他に何が?」
妹よ素で言われるほど辛いものはないのだぞっと心の中で思う。
秋穂「で孝之、あんたはクリパで何やんの?」
孝之「サンタコス喫茶」
秋穂「いや、クラスじゃなくて~、あんた個人で何やるのって話しよん」
孝之「別に何もしねーよ」
秋穂「ほほう、お姉ちゃんにそんな口の聞き方するんだぁ…」
秋穂は自身の手をだし稲妻を発生させて威嚇する、薄野の幻術は効かなくても秋穂の魔法は孝之に効果がある。
孝之は頬に冷や汗をかくがこの威圧に負けてはならない、頑なに口を閉ざす。
秋穂は何か諦めたかのように稲妻を緩める。
秋穂「たく、強情だねぇ」
冬華「迷惑かけないでね」
そういって二人してケーキを頬張った。
秋穂「まぁ喋りたく無いならケーキ奢って貰おうか」
孝之「はぁあ?奢ったじゃん」
秋穂「お・み・や・げ」
可愛らしく言う秋穂だが、全くもって可愛らしくもなかった。
「ごちそうさまー!」
夕食後、孝之はsweetsweetにて購入したケーキをデザートとして食卓に三人分置かれた。
「わぁどうしたのこれ?」
年端もない少女が聞いてくる。
孝之「今日秋ねぇに連れられてsweetsweet行ったんですよ。そのお土産です」
幼女に敬語の孝之、幼女は嬉しそうにケーキを見つめる。
春音「マキさん、飲み物はコーヒーにします?紅茶にします?」
「ん~、ほうじ茶!」
マキと呼ばれたこの幼女、実を言うとこの幼女は孝之達、千歳姉弟の保護者であり、ファクトリア学園の理事長、そしてかつて世界最強を誇った魔法使いである。父親の話では齢200歳を越えるらしい。
して父親はと言うと現在イギリスにて魔法に関する研究をしている。母親も父親と一緒についって行った。
其れは孝之がこのファクトリアに入学すると決まってからである。して父親がお世話になっていたマキさんに二人は預けられたのだ。
マキ「んー!美味しぃ」
幸せそうに食べるマキを見て自然と微笑む孝之。
そして視線を春音に向ける。
孝之「ごめんね春音、ご飯作ろうとしたんだけど」
秋穂に拉致られて作れなかった事を謝るが春音は笑顔で答えた。
春音「ううん、気にしなくて良いんだよ。それに一緒に作った方が楽しいし!」
時間がなく二人で今日の夕飯を作った。どうやらその方が春音は喜ぶらしい。
マキ「あっそうそう」
唐突に孝之に何かを聞いてきた。
マキ「孝之くん聞いたよー、クリパ何かやるんでしょ!」
何故か楽しそうに聞いてくるマキ。
孝之「マキさんもですか…」
最早秘密にしているのに情報が漏れ始めていた。
孝之「当日までのお楽しみです」
マキ「えー気になる~」
孝之「秘密です」
春音「お姉ちゃんにも教えてくれないの?」
孝之「こればかりは春ねぇにも教えられないな」
マキ・春音「「えー、ケチ」」
ケチでも結構!
孝之は笑顔のままその秘密を打ち明ける事はなかったのだった。