終の刻 ~満月~
暗い静かな石造りの階段を下りると、大きな扉が現れた。
扉には『鎮ノ間』と書かれてある。
おそらく、この扉の奥には鏡池があるはず。
そして、この扉の奥に兄がいるはず。
私は心を決めて扉の前に立つ。
すると、扉がひとりでに開く。
扉の隙間から白い光が零れる。
私は思わず目を瞑る。
そして、目を開いたとき。
中に兄がいた。
私は兄に呼びかける。
「兄さん!!」
しかし、兄は私の呼びかけに答えない。
私は兄に駆け寄ろうとした。
だが、突如冷たい突風が私を襲う。
私は風に負けて後ろに吹き飛ばされ、背中を壁に強く打ちつけ、その場に座り込んでしまう。
顔を上げると、兄の背後に巫女装束の少女が立っていた。
少女は手を広げて私と兄の間に立ち塞がる。
そして、一歩一歩こちらに近づいてくる。
その間にも兄は鏡池の方へと歩いていく。
私は首飾りを取り出し、前に掲げて強く念じる。
兄を返して……!!
霊滅石が青く力強く光る。
少女は怯み二歩、三歩と後ろに下がり、その場に倒れ込む。
私は壁に手を付けながら立ち上がり、兄に駆け寄ろうとした。
しかし、倒れていた少女が立ち上がり、私の前に立ち塞がる。
私は首飾りを少女に向けて強く念じる。
また、霊滅石が力強い青い光を放つ。
だが……
少女は怯まずこちらにゆっくりと向かってくる。
私は何度も強く念じる。
その度に首飾りの霊滅石が青く力強く光を放つ。
しかし……
少女は怯まずに私に手を伸ばす。
もうだめだと思ったとき。
こっちへ……
後ろから声がして振り返る。
すると、そこには青い着物の少女が、岩の間から零れた月の光が射す場所を指さす。
私はその場所に向かって走る。
すると、そこにあったのは小さな祭壇だった。
青い着物の少女が私が持っている首飾りを指さし、そして、次に祭壇を指さす。
見ると、祭壇に首飾りを嵌めるような窪みがあった。
「ここに嵌めればいいの?」
私は青い着物の少女に尋ねる。
すると、青い着物の少女はこくりと頷く。
私は青い着物の少女を信じて、首飾りを祭壇に嵌め込んだ。
すると、霊滅石が淡く青く光り出す。
しかし、すぐ後ろから足音がして、私は振り返ると、巫女装束の少女の手がすぐそこまで迫っていた。
私は驚き咄嗟にそれを横に避ける。
すると、祭壇から今までよりも強い青い光が放たれる。
青い光を浴びた巫女装束の少女が苦しむ。
そして、少女から黒い靄のようなものが離れ、その場に倒れ込む。
それと同じくして、兄の足が止まりその場に倒れる。
「兄さん!!」
私は兄に駆け寄り、呼びかける。
すると……
「朔夜……?」
私の声が届いたのか、兄が目を覚ます。
私は思わず兄に抱きついた。
「兄さん……会いたかった」
兄は無言で泣いている私を抱きしめ返してくれた。
そして、子供をあやすように頭を撫でてくれた。
私はそれが無性に嬉しかった。
私が一頻り泣いた後、兄が立ち上がる。
「帰ろう……朔夜」
そう言って、手を差し出す。
私はこくんと頷き、その手をつかんで立ち上がる。
「ありがとう」
後ろから声がして振り返る。
すると、青い着物の少女と巫女装束の少女が並んで立っていた。
「私たちを救ってくれて……ありがとう」
「あなたのお陰で最期にあの人に逢えた気がします」
「ありがとう」
双子の少女はそう言うと、白い光の粒子となった。
そして、その光は鏡池に映った満月へと吸い込まれていった。
二人の最期の表情はとても穏やかだった。
双子の少女が去ったあと、私と兄は鎮ノ間を出ようと扉の前に立った。
すると……
「朔夜……零……」
後ろから父の声がして振り返る。
すると、月明りの中に父が立っていた。
私は喜び、思わず涙が零れた。
「お父さん!!」
「親父……」
私は父に駆け寄ろうとした。
しかし、父の身体が白く光り始める。
「お父さん……?」
それを見て、私の足が止まる。
そして、父は優しく微笑むと光の粒子となって消えていく。
「待って! いかないで!!」
「お父さん!!」
そして、鏡池に映った月へと吸い込まれていった。
◆◆◆
気づいたときには私たち兄妹は村の入り口にいた。
後ろから温かい光が射していた。
海を見ると朝日が昇り始めていた。
朝日が眩しく目に沁みて、思わず私は涙した。
そんな私を兄はそっと抱きしめてくれた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
『蓮石島』いかがだったでしょうか?
個人的な感想ですが、今見返せば説明不足、表現力が拙い、御都合主義ですね(苦笑い)
最後に、ここまで読んでくださってありがとうございました。




