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蓮石島  作者: 平綾真理
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伍ノ刻 ~十三夜月~

 座敷牢から廊下に出ると格子窓の向こうの側の廊下に兄が歩いていた。

 「兄さん!」

 私は兄を呼び止めようと叫んだが兄は奥へと歩いていく。

 そして、突き当たりにある扉の前に立ち止まった。

 私は格子窓に駆け寄り手を伸ばして兄を呼ぶ。

 「待って! 兄さん!」

 だが、兄に私の声は聞こえてないみたいで、扉を開けて中へ入っていた。

 そして、扉はギイィという音を立てて閉まり始める。

 私は急いで兄が入っていた扉へと向かう。


 早く……早く……早くしないと兄さんが……


 私はそう思いながら駆ける。

 だが、その間にも扉が閉まる音が廊下に響く。

 そして、私が扉の前に着いたとき扉はバタンという音を立てて閉じた。

 私は扉に駆け寄り開けようとした。

 だが、扉には鍵が掛かっていて固く閉ざされていた。

 よく見ると五角形のなにか板のようなものを嵌めるための穴がある。

 私は兄の後を追うためにそれを探すことにした。


 ◆◆◆


 私は兄が入っていった扉の鍵を探すために、まずは座敷牢で見つけた満月の鍵で開く扉を探した。

 私屋敷の廊下より部屋数は多くないから早く見つかるだろうと思っていた。

 だが、目的の扉が見つからない。

 私は焦り苛立ち、そして、不安、恐怖から涙ぐむのを感じた。

 それでも、私は兄と父を見つけだすために扉を探す。

 そして、最後の扉、私は祈る思いで鍵穴に鍵を差し込み回した。

 すると、ガチャという音を立てて鍵が開く。

 扉を開けるとさらに地下へと向かう扉が現れた。

 この階段の先にはなにがあるのだろ? そんな疑問を胸に私は階段を一段、一段降りていく。

 階段を下りた先にあったのは格子窓が付いた鉄の扉だった。

 私は扉の鍵を開けて中に入る。

 すると、またしても座敷牢があった。

 ただし、この座敷牢はこれまでの座敷牢とは違った。

 座敷牢の中には箪笥や机などが置かれてあり、まるでここで誰かが生活していたみたいだ。

 そして、格子扉の鍵だが普通の差し込み回すものではなく、札鍵を使って開くものだ。

 私は持っていた札鍵で格子扉の鍵を開けて座敷牢の中に入り、懐中電灯で中を照らす。

 すると、机の上でなにかが懐中電灯の光を反射した。

 私はそれに近づいてみると、黒い月が象られた五角形の胴の板があった。

 さらにその下には、父の書き残したと思われる紙片と黒い本が重なって置いてある。

 まず私は紙片を手に取った。

『やはり、私の推測通り島民の失踪と儀式は関係があった。

 島民の失踪は儀式が失敗したことによって引き起こされた禁忌“大罪”が原因のようだ。

 禁忌“大罪”とは儀式に関わったもの、さらには島の住民が災いに巻き込まれて死に絶え、島は怨霊が住まう呪われた土地となる。

 この災厄を終わらせるためにはこの屋敷のどこかにあるとされる霊滅石という青い石が嵌め込まれた首飾りが必要なようだ。

 霊滅石という石は、持ち主の意志に応じて青い光を放ち魔や邪気を払うとされている。

 首飾りの霊滅石は通常の霊滅石とは違い傷の無い完璧な石だそうだ。

 この石がある場所はおそらくあの扉の向こう側にあると思われる。

 だが、私はもうすぐ死ぬだろう。

 これを見ているものよ、私の代わりにこの災厄を終われせてほしい。

 最後に私が書いたこれらの記録をあの子たちが見ることがないことを切に願う。

 神代衛』

 父の書き残した紙片を読み終えたとき私の瞳から涙が知らず知らずのうちに零れ落ち、紙片に黒い染みを作っていた。

 私は涙を拭い黒い本を手に取る。

 『七月十一日――

 今日、この屋敷に男の方が泊まりに来たらしい。

 なんでも島外から来た方らしい。

 どんな方なのだろうか?

 七月十二日――

 今日は月夜から昨日の男の方の話を聞いた。

 最初はただ話を聞いていたが、話を聞いているうちに会ってみたくなった。

 とても優しい方らしい。

 七月十三日――

 今日は月夜が来なかった。

 あの方の話を聞きたかったのに……

 つまらない……

 七月十四日――

 今日は月夜と燕が私をあの方に会わせてくれた。

 月夜の話の通りとても優しい方だった。

 私の知らない外の世界の話をしてくださった。

 とても楽しい一時だった……

 明日も会いたい……

 七月十五日――

 今日も月夜と燕があの方に会わせてくれた。

 今日は一緒に写真を撮ってもらった。

 私の短い一生の宝物……』

 次の頁を開くとヒラヒラと一枚の紙が舞い落ちた。

 白黒の写真だ。

 2人の男女が仲睦まじく肩を並べて写っている写真だ。

 驚いたことに写真に写っている男の人は兄だった。

 いや、正確には兄にそっくりな男の人だ。

 写真を裏返すと名前が書いてあった。

 “霜月優”

 これがこの男の人の名前なのだろう。

 私は日記の続きを読むことにした。

 『八月一日――

 今日、月夜からあの方が今朝早くに島を発ったと聞いた。

 そんな筈がない。

 なぜなら、私はあの方と昨日の夜に約束したからだ。

 「また明日の夜、桜の樹の下で」と……

 だから、あの方が島を発つ筈がない。

 発つ筈がないのだから……

 八月二日――

 あの方のことを思うと胸が高鳴り夜も眠れず食事も喉を通らない。

 私は一体どうしてしまったのだろうか?

 あの方に会いたいと想えば想うほど胸が苦しくなる。

 こんなこと今までなかったのに……

 八月三日――

 気が付くといつもあの方のことばかり考えている。

 あの方は今どこにいるのだろうか?

 あの方は今なにをしているのだろうか?

 あの方に逢いたい……

 八月四日――

 今日、月夜が来た。

 困ったような、なにか迷っているような顔をしてやって来た。

 なにか切り出そうとしているが切り出せずにいるそんな感じがする。

 私も聞きたいことがあったが、結局私も聞くことができなかった。

 八月五日――

 今日は月夜と燕が一緒に来た。

 なにかを決心した顔をして来た。

 話の詳しい内容は書けない。

 回答の期日は明日の夜まで、私はどうしたらいいのだろうか……

 八月六日――

 私はあの方に逢いたい……

 あの方に逢ってこの気持ちを確かめたい。

 だから、私は……

  月 日――


 逢いたい……


 あの方に逢いたい……


 もう一度、逢いたい……




 まだ……死にたくない……』

 日記を読み終えたとき、胸が締め付けられるような切ない感じがした。

 私は日記を机の上にそっと戻し、座敷牢から出た。


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