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蓮石島  作者: 平綾真理
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参ノ刻 ~三日月~

 ギシ……ギシ……

 階段を1段下りる度に身体の心から冷えていく感じがし、冷や汗がツーッと背中を伝う。

 階段の所々にある厨子に祀られてある地蔵が不気味だ。

 一体どこまで下ればいいのだろうか……

 そんなことを思い始めたときようやく階段の終わりが見えた。

 階段を下りた先に待っていたのは、屋敷の廊下よりも長くて暗い廊下。

 懐中電灯で先を照らすが、先が見えない。

 恐怖で足が竦み、心が折れそうになる。

 しかし、兄と父のことを考えると不思議と恐怖が薄らぐ。

 私は勇気を出して歩みだした。


 地下の廊下は屋敷の廊下と比べると部屋数は少ない。

 だが、殆どの扉が鍵が掛かっているか、壊れていて入れない。

 そんな中、唯一鍵が掛かっていない扉がある。

 鉄で作られた重々しい扉。

 私は開けようと手を掛ける。

 しかし、なにか嫌な予感がして、一瞬扉を開けようとした手が止まる。

 ここに入ってはいけない、そんな予感がして……

 だが、ここ以外もう捜す場所はない。

 私は手に力を込めて重い鉄の扉を開けた。


 中に入ると、ギイィィという音とともに扉が閉まる。

 それと同時に、血の匂いが鼻に付き、噎せ返った。

 部屋の中を懐中電灯で照らすと、床には夥しい血の跡。

 私は気分が悪くなり一度部屋を出ようと扉を開けようとした。

 しかし、扉に鍵が掛かっていて開けることができない。

 私は内鍵を探したが、扉に付いていない。

 どうやらこの扉は開けて閉まる度に鍵が掛かるような仕組みになっているようだ。

 私は扉を開けるための鍵を探すべく暗く血腥い部屋の中を歩き回る。

 部屋には、なにに使うか分からない数多くの血塗れの器具が置かれてある。

 そのなかに、ボロボロの本が一冊混ざっている。

 私はそれを手に取ってみた。

 ボロボロで読みにくいが本の表紙には天枷千鳥(あまかせちどり)と書いてある。

 『六月十四日――

 あの娘の侍女になって約十一年、初めの頃は仕事は愉しかったが、今では辛いことのほうが多い。

 やはり、あの娘のことを考えると胸が痛い……

 私にとっては燕や雀、雛と同じく妹のような存在だからだろう』

 ボロボロで読めないところが多いが、どうやらこの本は日記のようだ。

 『八月十一日――

 まさか燕とあの娘たちがあんなことを考えていたなんて……

 旦那様に報告するかは悩んだけど、この島のためには報告するしかなかった……

 そう思わないと罪悪感で胸が押し潰されてしまいそう……

 八月十三日――

 ごめんなさい燕……

 まさか……こんなことになるなんて……

 あなたが死んだことをあの娘たちになんて報告すればいいの……

 私が貴女たちの脱走の計画を旦那様に報告しなければ貴女が死ぬことはなかった……

 いや、貴女だけじゃないあの娘も儀式の生贄になることはなかったかもしれない……

 八月十五日――

 今日は儀式の日……

 燕、貴女が死んだことを結局、あの娘たちに教えることができなかった……

 雛は分かってないようだけど、雀はなんとなく察しているのかもしれない……

 月夜は頻りに貴女とあの娘のことを心配していたわ……

 あの娘は……美月はあの日からずっと塞ぎ込んでいる……

 多分、月夜の言った通り、儀式は失敗するでしょう……

 ごめんなさい燕……ごめんなさい月夜……ごめんなさい美月……

 私は貴女たちを守ってあげることができなかった……

 本当にごめんなさい……』

 日記はここで終わっている。

 私は日記をそっと閉じて、元の場所に置いた。

 その直後、暗い部屋に泣き声が響く。


 「うっ……うう……」


 私は声のする方に懐中電灯を向けるとそこには黄色の着物を着た12歳ぐらいの少女が部屋の隅で泣いていた。


 「……どうして……燕お姉ちゃんが……死ななければならなかったの……」


 私は驚き後退る。

 すると、なにかを踏みチャリという音をたてる。

 足元を見ると鍵の束があった。

 私はそれに気を取られてしまった。

 もう1度少女のいたところを見ると少女はいなかった。

 私は鍵の束を取ろうと手を伸ばす。

 すると、横から青白い手が私の腕を掴む。

 私は突如現れた手に驚き後ろに飛び退く。

 そこにいたのは、先程の黄色の着物を着た少女だった。

 少女は怨みと悲痛の混ざりあった瞳で、声で訴えてくる。


 「……なんで……燕お姉ちゃんが……」


 少女がそう何度も繰り返し呟きながら迫ってくる。

 私は後退ることしかできない。

 やがて私は壁際まで追い詰められてしまう。

 少女が腕を伸ばしながらこちらに近づいてくる。

 私はもう駄目だと思い目を瞑る。

 だが、次の瞬間。

 耳を劈くような悲鳴が私の耳を襲う。

 私はその悲鳴に耳を塞ぐ。

 そして、何が起きたのか確かめるために恐る恐る目を開ける。

 すると、首に掛けていた指輪から青い光が発せられていた。

 眩しく力強い、しかし、温かく優しくどこか懐かしい光が私を包み、部屋を照らした。

 少女は悲痛な叫び声をあげてその場で悶える。

 やがて少女はゆらゆらと陽炎のように消えていった。

 少女が消えた後、指輪から発していた青い光も徐々に静かに消えていった。

 部屋には静寂だけが残った。

 私は安堵したせいかその場にへたり込んでしまう。

 そして、私は何が起きたのか理解できず混乱した。


 この指輪から発した青い光はなんなのか?


 なぜあの少女を退けられたのか?


 そんな疑問が頭に浮かんだ。

 だが、考えても答えは出なかった。

 私は頭を振り疑問を振り払う。

 そして、立ち上がろうとしたが、足に力が入らず立ち上がることができない。

 そのうえ、色々なことが一度に起きて疲れたのか目眩と頭痛がして私は気を失った。


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