久しぶりの人の町
気力と体力もすっかり回復して、俺の体の調子は非常によろしい。
この洞窟を旅立つ前に色々と後始末をしなくては。
俺達が来る前まではストームドラゴンの根城だった洞窟だが、今ではすっかり荒れ果てた洞窟と化していた。
俺が調子に乗りすぎてアダマンタイトを採掘しまくったお陰で、一部の壁面はボロボロというか無残で見る影も無い。剣の斬撃の後や採掘の痕跡が激しく残っている。
鍾乳洞は長い時間をかけて作り上げるそうだが、そんなもの知ったこっちゃ無いと言わんばかりに荒らしに荒らした。
いやー、自然保護団体が見たら憤死モノだな。
世界遺産とかの自然を蹂躙しまくったみたいなものだ。
だが、後悔はまるでない。(笑)
テントや調理器具等を全てPDSに収納して片付ける。
俺が設置したトラップの数々は結局使用されずに終わったが、まあいいだろう。
二頭目のストームドラゴンが現れた時に、一応念の為に設置しておいた城塞設置型バリスタが役に立ったのだから、やはり備えというのは重要だよ。
こいつを設置するのに土台となる地面を平たく均したり、色々設置には時間が掛かる。
だが、回収は一瞬で済む。
その程度の手間を惜しんだが為に死亡確率を上げるのはアホのする事だ。
俺は超・慎重派だから可能な限りリスクを減らして生きたいのだ。
まあそれならストームドラゴンにケンカ売るなよ、と突っ込みが入りそうだがそれは仕方ない。
俺の街での生活や気に入った人達の生活を脅かしたのだから、確実に外敵は排除したい。
そして設置してあったトラップ群を全て回収して、準備を整えたら出発だ。
この洞窟はもう用済みだから崩落させても問題無いのだが、一応そのまま現状維持をしておく事にした。
またドラゴンやモンスターが巣を作ったりする可能性があるから、本当は潰しておくのがベストなんだが、ここには貴重な鍾乳洞とアダマンタイトの鉱脈がまだ残っているからな。
まあ俺にだいぶ荒らされた後だがな。(笑)
みんなに忘れ物は無いかと聞くと問題ないとの事でそのまま出発する事になった。
久しぶりの太陽の下、俺は洞窟の入り口に立っていた。山の高い所から低い位置にある森を見下ろす。
爽やかな高原の空気と風。
澄み渡る自然の香りと眩しい太陽と青空。
そして、眼前に広がる広大な森もまた、洞窟と同じく荒れ果てていた。
「改めて見ると景色が一変しているな。」
「そうですね、ご主人様。
ストームドラゴンと戦う前はこの辺りにも森が広がっていましたが、今ではすっかり景観が壊れてしまいましたね。」
俺達は洞窟から出て、下界を見下ろすがごとくに森を見渡す。
以前は鬱蒼とした原生林のような森だったが、だいぶ様変わりしているのが一目で分かる。森の木々の内、三分の一くらいが歪な形で削れていたり、地面が更地になっていたりしたからだ。なぎ倒された木はそのままだったり、見えない大きな力でグシャグシャに潰されていたりして、その場にあった戦闘の激しさを物語っているようであった。
まあ俺達とストームドラゴンの戦闘の余波でこうなったのだが、改めて見ると少し罪悪感が湧くね。
だが、ストームドラゴンとの戦いは文字通り命がけだったから、周囲の環境に悪影響を及ぼす事まで、考慮する余裕は無かったしな。
これがファイアドラゴンとかだったら、ヤバかったかもな。
炎のブレスそのものは防げても、森の木々に延焼したりしたら火に焼かれなくても、最悪の場合は一酸化中毒であの世逝きだ。
それに逃げ場が無いからな。
改めてドラゴンの強さをかみ締めつつ、下山する為に森の中に入っていく。
洞窟付近にはやはり動物やモンスター等の生物は居ない。
この凄まじい戦闘の後が残っている所為で、まだ動物どころかモンスターですら戻ってこないのだろう。
だが、ストームドラゴンの風のブレスが通った後や、木々をなぎ倒した後は歩きやすい。
何故なら一直線に歩けるからだ。
まあそんなに歩きやすい道は続いていないが、戦場跡を歩いて行く事にした。
余計な草や木の根等の障害物が無いだけマシだからだ。
そうして俺達は行きと違い、帰りの下山はスムーズに降りる事が出来た。
外敵やモンスターにも結局出会うこと無く、麓の渓谷に戻ってきた。
山の麓で一泊して、渓谷も順調に進んでいく。
途中でラビッター族の隠れ里に立ち寄る事を提案してみたが、遠回りになるので特に必要ないと言われてしまい、そのままディナントの町を目指す事になった。
行きではグレートアウルやら鳥系のモンスターとかが色々襲ってきたが、今は静かなものでまるで襲われない。
一応警戒しながら隊列を組んで進んでいたが、結局渓谷を出るまで生き物と遭遇する事はなかった。
そして三日後には久しぶりのディナントの町に辿り着く事が出来た。
夕方近くの為、町の出入り口の門の閉門時間が迫っていたが、なんとか間に合って町に入れてもらった。
余計な騒ぎになると面倒だから、俺を含めてみんなでローブと頭を覆うグレイウルフの被り物を身に着けてもらって姿を隠しているが、流石に門での検問では姿を晒した時は驚かれた。
門番の一人が俺を覚えていた様で揉め事も無くなんとかなったが。まあ、覚えていたのはウサ正宗の方だったのかも知れないが。
それにしても、流石にラビッター族が七人も居ると驚かれるな。
お前はどこの奴隷商人だよ、と突っ込まれたし。
俺はこの町では有名人だったから拘束されたり余計な手間は無かったが、一応冒険者なんだがね。
んで、門を通してもらってディナントの町に久しぶりに帰ってきた。二ヶ月振りくらいかな。
俺達が町中でいっしょに歩いていると、子供を引き連れた旅人と言うのは無理がありそうな集団だった。
俺以外のラビッター族のみんなは身長が低くて小柄で、はたから見れば奴隷商人とドナドナされる子供達と言われてもおかしくない一行である。
大通りでは面倒ごとが起こりそうだから、なるべく裏道を通ってまずは工房の親方のところに顔を出すつもりだ。
俺達が居ない間に復興はだいぶ進んでいるらしく、町を守る防壁はきっちり修繕されているし、道に至るところに存在していたガレキや死体なんかも見えない様になっていた。
復興で活気に満ちたディナントの町を見ると、なんだか感慨深いものがある。
この調子ならモンスターの襲来は無かったか、例え襲来があったとしても問題なく対処出来たようだな。
この町のお偉いさんや町を守っていた人達を少しは見直しつつ、町を歩いていた。
日暮れ前に工房に辿り着くと、相変わらずの工房の様子に安堵を覚える。
特に壊れた様子も無いし、無事だったようだ。
「こんちわーー!
帰ってきてぜーー。」
工房のドアを明けて中に入っていく。
すると受付にいた一人のドワーフが直ぐに俺に気づいて駆け寄ってきた。
「んっ?おお!
その顔は竜司か!
久しぶりだな!
生きてやがったのか、良かったぜ。」
バシバシ俺の肩を叩きながら再会を喜んでくれたのは、オーランだった。
以前に俺の訓練に付き合ってくれたドワーフである。
「お前と無事にまた会えて嬉しいよ。
ゴッサム親方や他のドワーフ達はどうした?」
「ああ、今親方達は町の会合に出ていてな。
もう少し遅くなれば帰ってくる。」
「そうなのか。
それにしても誰も工房で働いていないのは以外だったな。」
ここに居るのはオーランだけでお客も見当たらず、他のドワーフ達は留守にしているみたいだ。
親方達は年がら年中無休で働いているイメージがあったが、そんな事はなかったみたいだな。
「いや、普段なら誰かしら工房で作業しているんだが・・・・。
今は町の復興や新しい家の建築の為に、大量の鉱石や石材なんかが必要になっちまってな。今でも鍛冶に必要になる良質な鉄鉱石はどこも品薄状態だ。
お前達からもらえた鉱石もほとんど無くなっちまって、今じゃ工房も半ば開店休業状態だったからな。」
詳しく説明を聞くと、他の町からの流通は今現在はある程度戻ってきたらしい。
だが、ストームドラゴンの襲撃で再び町が襲われるんじゃないかと疑心暗鬼になり、商隊や人の流入が減ってしまったそうだ。
流石に襲撃から一月たった頃にはだいぶ普段通りの流通に戻ってきたらしいが、それでもこのディナントの町の危険度というか警戒地域という指定は完全に解除されていないらしい。
それに雑魚モンスターの数が去年と比べるとやはり増加している傾向にあるらしく、そこら辺もネックになっているそうだ。
そうなると自然と商隊も減り、鉄鉱石を他の町からの輸入に頼っているこの町ではどうしようも無いらしい。
「それでもウチの工房はまだ良い方だ。
以前のロックドラゴンの騒動の時に大量に武具を作っていたから、そのメンテナンスだけでも十分に食っていける。お陰で常連客の数もだいぶ増えた。
今もドラゴンの襲撃は無いが、小型のモンスターは相変わらずひっきりなしにこの周辺に出没しているらしいし、武具の需要は高い。」
「そうか。
まあなんだ。また鉱石はゲットしてきたから、そこは親方と相談かな。」
「おお、それはありがたい。
そういや、今日は随分大人数なんだな。
ウサ正宗はそうだが、他のはいったい?」
そういうとオーランは俺といっしょにいた隠れ里の六人を見回した。
グレイウルフの被り物をしているから人相は分からんが、パッと見で子供を沢山連れている様にしか見えないから、不審な眼差しを受けるのは仕方ないか。
「こいつらは新しい俺の仲間だ。
まあ見て驚くなよ。」
そしてみんなに被り物を取るように指示を出す。
「珍しいってもんじゃないな。
俺はこんなに沢山のラビッター族を見たのは生まれて初めてだ。
誘拐してきたのか?」
「アホな事をいってんじゃねーよ。
あくまで旅の仲間として一緒に居るだけだ。
まあ、多少の借りがあるのは否定しないが。」
それからこのディナントの町に俺達が居ない間はどうだったのかを話してもらった。
話しの途中で親方達が帰ってきた為、そのまま宴会になだれ込んだ。
酒を飲んで酔っ払ったドワーフ達から肩をバンバン叩かれながら、再会を祝ってくれた。
「それで結局どうなったんだ?
旅に出たのはストームドラゴンを討伐する為だったんだろ?」
「ああ、なんとか討伐したよ。
まさか二頭も居るとは思わなかったが。」
それから隠れ里の話しを除いて、どういう風に旅をしていたのか話した。
流石に勝手に隠れ里の位置に繋がる情報をしゃべる事は出来ないので、多少は話しを脚色して話したが。
彼ら隠れ里の六人に関しても、偽装した自己紹介をした上で手助けして欲しいとみんなに頼んだ。
工房のみんなは快く受け入れてくれたので、ホッとした。
「こちらは何度か町にモンスターの襲撃があったが、来たのは全部小物だった。
ストームドラゴンなんぞ大物はあれ以来町には来ていない。」
「そっか、それならやっぱこいつがディナントの町に来た個体だったんだろうな。
そーいや、みんな留守にしていたが、なんか問題でも起こったのか?」
そう尋ねると、親方は苦い顔をした。
「・・・・むなクソ悪い話なんだが、今このディナントの町では連続殺人事件が起きてる。
唯の殺人なら珍しくもないが、結構な人数の一般人が殺されている。犯人は指名手配されてるんだが、なかなか警邏隊でも捕まえられん。
犯人はかなりの実力者だってぇ噂だ。
しかも実際に戦ったヤツが言うには、犯人が使う武器が見えないといういわく付きだから厄介でな。
聞いたことがない武器をどこで手に入れたのか、それで俺達職人も心当たりが無いか呼び出された。」
それで長い時間拘束されていたと愚痴をこぼしていた。
「そうか、そんなのがディナントの町に居るのか。
面白い時に帰ってきたな。」
ウサ正宗に視線を送ると、どうやらウサ正宗も気づいたらしい。
見えない武器と言われて思い出すのは、俺が失ったインビジブルブレードだ。
俺が渓谷でストームドラゴンに投げつけたインビジブルブレードの行方が今まで分からなかったが、どうやらここで見付かるとは思わなかった。
多分ストームドラゴンとの戦いでどこかに落ちていた物を拾ったのだろう。
そうすると犯人は冒険者かなにかか?
犯人探しがとりあえずの目標になりそうだ。




