防衛戦2
ストームドラゴンはブレスを放った後、鷹が狙った獲物を狩るように一気に急降下してから、徐々に高度を落として地面に着地しようとしていた。
その降りる位置には大量に逃げ惑うディナントの町の人達が居た。
何故、町の人達が建物の中に隠れていないのかというと、以前のロックドラゴンの襲撃で決して自分のいる建物は安全な場所では無いとわかっていたからである。
それ故に、町の大通りには避難しようとする人達が大勢居た。
最大の誤算はストームドラゴンの襲撃の情報が伝わるのがあまりに遅かった事であろう。
警戒警報の鐘などはあったのだが、残念ながらストームドラゴンが襲来するほとんど直前にその鐘はなった。
ロックドラゴンの時は討伐隊が出撃する事や、リンドブルムが町に襲来する可能性があると事前に住民達に伝えられていた為に、避難する時間や事前の準備をする時間があった。
だが、今回のストームドラゴンの襲撃はディナントの町にとって晴天の霹靂であり、ほとんど事前情報の無い襲撃であった。
そのため、避難する時間等無いに等しい状態なのに、町の大通りには人が溢れ返っていた。
そこに風のブレスを放ち、一撃で破壊の嵐を巻き起こしたストームドラゴンが現れた。
「きゃぁーーーーー!?
ドラゴンよっ!!」
「なんでこんなに早く町の中に現れるんだよっ!!!
守備隊はなにやってたんだ!!!」
「逃げろ逃げろーーーー!!!
このままじゃ、ドラゴンに食われるぞっ!!」
「いやーーーー!!
助けてーーーーー!!!」
阿鼻叫喚の地獄のような状態に陥るディナントの町の人達。
必死にストームドラゴンから逃げようとするのだが、パニックを起こした人が多くて逃げる方向がみんなバラバラで、大通りから逃げ出すのもなかなか時間が掛かった。
そんな人間達をしり目に、大通りの地面に翼をバサバサさせて降り立つストームドラゴン。
そこからストームドラゴンの捕食が始まった。
近くにいた人間から次々にその大きなアギトでバクっと銜えて(くわえて)いく。
もしゃもしゃゴキバキと咀嚼して骨を砕く音がする度に、その大きな口と鋭い牙の隙間から人間の赤い血や腕の破片等が飛び散る。
そして逃げ出せないように群衆に向かってその長い尻尾を叩きつけたり、建物を吹き飛ばしたりして逃げ道を塞いだりする。
大通りを走り抜けながら、大きく腕を振りかぶり爪を振るうと、爪が人間や建物に触れるだけで、例外なく切り裂かれた。
その大きな巨体から繰り出されるタックルだけでも、人間は簡単に弾けとび、肉塊になった。
そして、ある程度動けなくなった人間が増えるとまた食事に戻り、町の人達を食べていった。
俺とウサ正宗は遠くから聞こえてくるその惨劇の悲鳴を聞いていたのだが、なかなかストームドラゴンの元まで辿りつけなかった。
それはストームドラゴンから少しでも遠くに逃げたい人達が、俺達の前から押し寄せてきていて、なかなか前に進めなかったのだ。
俺達が進もうとするストームドラゴンがいる方向とは、逃げる人の流れは逆になる。無理やり混雑したエスカレーターを逆走しようとしている感じだ。
町の人達が邪魔をして、なかなかストームドラゴンの元にたどり着けない。
周りの人間をなぎ払って行っても仕方ないので、少しずつ進む事になる。
その間、俺らよりも先にストームドラゴンに攻撃を仕掛ける者達が居た。
王都からやって来た部隊である。
彼らは逃げ惑う民衆に邪魔されながらも、避難誘導をある程度していた為、比較的早くにストームドラゴンの元にたどり着いた。
部隊の編成はまだ完璧に完了してはいなかったが、ディナントの町の人達を守る為に出てきたのであった。
「隊長、攻撃準備が整いました。」
「ご苦労。
では一斉に、放てーーー!!」
合図と共に、大量の矢がストームドラゴンに降りかかった。
中には、台車で運ばれてきた大型バリスタから繰り出された極太の矢等もあった。
放った矢はストームドラゴンに半分も命中しなかったし、強靭な鱗に阻まれた為に矢が突き刺さる事はなかった。
だが、バリスタの極太の矢等の一部の攻撃は流石に当たった衝撃が大きかったのか、ストームドラゴンの気を引くには十分なダメージがあった。
「GYAAAAAAASUU!!!」
咆哮を上げてきたストームドラゴンの威圧に、部隊の者達は怯みそうになるが。
「ここで腑抜けたら誰がディナントの町を守る!!!
全員、抜刀!!
突撃せよ!!!」
「「うおおおおおーーーーー!!」」
部隊の隊長の号令と共に、正気に戻り接近戦を仕掛ける隊員達。
皆で一斉に駆け出して、ストームドラゴンに殺到した。
ストームドラゴンはそんな人間達に対して容赦なく風のブレスを放った。
息を大きく吸い込み、溜めを作ってから放つ。
だが、その準備動作がある事を事前に知らされていたお陰で、部隊は壊滅せずに済んだ。
その動作を目にした瞬間に
「総員、ブレスが来るぞ!!
散開しろ!!!」
隊長の命令のお陰でかなりの人数が助かった。
まともにブレスを喰らった者は、赤い液体を撒き散らしながら文字通りミンチになった。
少なくない人数が一瞬で殺されたが、それでも部隊の士気は落ちなかった。
「気合を入れろ!!!
突撃するぞ、俺に続け!!!」
「応っ!!!」
そういって隊長が先陣をきって走り出すと、それに続いて再び走り出す部隊の者達。
その姿はロックドラゴンの討伐隊の冒険者達とはまるで違い、軍隊として規律が取れていて、命令に忠実に従い、そして隊長を信頼しているのがよく分かった。
そして、ストームドラゴンに接近すると剣を振りかぶって攻撃を開始した。
当然ストームドラゴンも黙ってみている訳ではない。
だが、最前列には人間がスッポリ隠れるサイズのデカイ盾を持って、防御に徹している全身金属鎧の兵士達がいて、その盾に爪や尻尾の攻撃が阻まれる事が多かった。
時には吹き飛ばされながらも、直ぐに新しい盾兵士が補充される事によって戦線を維持していた。
そして、ストームドラゴンが攻撃を繰り出して隙が出来た所を、カウンターで剣や槍を持った兵士達がガンガン攻撃していった。
その硬い鱗をなかなか貫通する事は出来なかったが、ミスリル等の武器を持っていた者もいたお陰でダメージを与えることが出来た。
そうやってストームドラゴンの周囲を囲みながら、時には防御に徹して、時には攻撃を加えるやり方で確実にストームドラゴンに傷を負わせていった。
だが、ストームドラゴンが翼をはためかせて上空に舞い上がると、状況は一変する。
包囲から容易く抜け出して、部隊を地上に置き去りにしてから、ストームドラゴンは息を大きく吸い込んだ。
「マズイ、ブレスが来るぞ!!
急いで散開!!!!」
そして、直ぐさまブレスが来ると感じた隊長は命令を出した。
だが、ストームドラゴンを包囲した陣形であった事と、ある程度密集していた為、直ぐに部隊が散開できる状態ではなかった。
なんとか散開した時にはブレスが放たれていた。
ズガガガガガーーーー
通りの地面が捲りあがるように削り取りながら、風のブレスが通り過ぎていった。
そこにはかなりの数の人間をブレスに巻き込まれしまい、半壊した状態の部隊の人間が残されていた。
そんな時に俺達はようやく到着した。
現場はかなり悲惨な状態になっていた。濃厚な血と死の臭いで溢れていた。
先ほどの風のブレスによって、王都からの部隊にも多くの被害が出ていた。
全身金属鎧の盾兵士等はかなり原型を留めているものの、金属鎧が至るところで大きく凹み、中の人は大丈夫なのか心配になるほどの歪みっぷりであった。
防御力の高くない剣や槍で接近して攻撃をしていた兵士達の場合は、ブレスが直撃したものは原型を留めておらず、手足の無いぐちゃぐちゃの肉塊と血溜まりになっていた。
それ以外にも、逃げ遅れた町の住民達の死骸や、腕や足の一部だけがそこら辺に飛び散り、撒かれていた。
更に未だに生きている人間もそれなりにいるらしく、呻き声が聞こえた。
だが、そんな人間よりも、今は目の前の上空で飛んでいるストームドラゴンが先だ。
あれをどうにかしないと、回復しているところにブレスが飛んできたらどうしようもない。
「ウサ正宗、俺はこのまま相手を引き付ける。
アイギスで守るから、俺の後ろについていてくれ。
隙があれば、攻撃してくほしい。
タイミングは任せる。」
「かしこまりました、ご主人様。
辺りの怪我人はどうしますか?」
「今は無理だ。
比較的ダメージが少ないヤツに、回復薬を渡す暇があれば渡せばいい。
ストームドラゴンをどうにかしてからじゃないと、犠牲者が増える一方だ。」
まずは建物に隠れた状態でボウガンを撃ち込む。
ブルータルブリッツの極太の矢はまっすぐに飛んでいき、上空にいたストームドラゴンの足に突き刺さった。
そして、俺達は建物の影から飛び出した。
「GYAAAAAOOOOOO!!!」
痛みに咆哮を上げるストームドラゴンに対して、俺は走りながらボウガンに矢をリロードして撃ち込む。
走りながらなのは、止まっていると何時ブレスが襲ってくるか分からないからだ。
俺達は前に俺、その後ろにウサ正宗の順番で走ってストームドラゴンに近づいていった。
そうして走りよってくる俺達の存在にストームドラゴンが気がつくと、上空で羽ばたきながら息を大きく吸い込んで、風のブレスを放ってきた。
だが、俺はアイギスを前方に展開して不可視の防壁でガードする。
ブレスがアイギスとぶつかり、俺の周辺は凄まじい風切り音と共に嵐が巻き起こっていたが、アイギスの防御によって大半の威力が減衰されてしまい、俺の後ろにいるウサ正宗にもたいした被害はおきなかった。
アイギスは展開範囲が直径2メートル前後の半球形の形状である為に、ブレスを完全に押さえ込む事は出来ない。
風のブレスは空気を圧縮しているからか、着弾して炸裂する性質がある様で、どうしても周りには被害が出る。
静かな水面に一滴の水滴が落ちるとポチャンと音を立てて水が拡散して跳ねる様に、風のブレスもまた同じように拡散していったので、地面は抉れて辺りには風が吹き荒れた跡が残った。
俺の周りに居た人間の死体や生き残っていたかもしれない人も吹き飛んでいた。
だが、それは仕方ない。
周りを気にしている余裕など無いのだから。
「ウサ正宗、無事だな!!」
「はい、ご主人様。」
「このまま行くぞ。」
そしてボウガンでストームドラゴンを攻撃しつつ接近していった。
流石に俺らにはブレスが効かない事が分かったのか、ボウガンの極太の矢を回避しつつ、地上に降下しながら俺らに突撃してくるストームドラゴン。
「横に飛べ。ウサ正宗!!」
その突撃を俺は横に大きく飛び込むように回避した。
ウサ正宗は突撃を回避しながら高速で駆け抜けて、ストームドラゴンの大きく広げた翼を大型ナイフで切り裂いた。
そして、俺も転がりながら直ぐに体勢を立て直し、背中に極太の矢をお見舞いした。
「GAAAAAAAAANNNNN!!?」
流石にこの攻撃はそれなりのダメージになった様で、そのまま地上に降りずに、傷ついた翼を羽ばたかせて上空に逃げて行った。
そのまま俺達から逃げる様にグングン高度を上げていき、背を向けたまま防壁を越えていった。
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