ディナントの町の現状と覚悟
工房に辿り着いた俺は工房の無事な姿を見て安堵する。
特に工房の建物が壊されたり荒らされたりした形跡はないね。
そして工房に近づいていくと一人のドワーフが立っているのが分かった。
「そこで止まれ、っお前は竜司か?
それにウサ正宗もいる。
お前達は無事だったんだな。
良かった。心配したんだぞ。」
「おう、オーランじゃないか。
お前も無事で良かったよ。親方とか他の工房で働いていたドワーフ達は大丈夫だったのか?」
「ああ、親方も元気にしてる。
今は手が空いているだろうから、呼んでくる。」
そして、工房の奥から親方のゴッサムがやって来た。
相変わらずの鋭い視線の持ち主であるが、その雰囲気はどことなく疲れを感じさせた。
「どうも、親方。
今町に戻って来た所でさ。
それで、この町の惨状を見て工房のみんなが心配で見にきたんだわ。」
「そうか、そちらも無事で何よりだ。
町がどうなっているのか聞いてるんだろ?
お前ら今晩はどこに泊まる気なんだ?
今はまともに営業している宿は少ない上に、たぶんどこも満室だぞ。」
「あちゃーー、そうなんだ。
そりゃ今まで竜の息吹亭に泊まっていたけど、町がこんだけ壊されたら無事な宿はキャパシティオーバーしても仕方ないか。」
「なら、今晩からうちの工房で寝泊りしないか?」
「へっ?俺らは助かるが、どうして?」
「今の町は治安の問題があってな。」
それでこの工房が置かれている立場を説明してくれた。
この工房はもともと性能の高い武具を作ると評判の工房であった。
だが、今回の町が半壊されるにあたり、多くの人が自衛の為、自分の欲望を満たす為等理由は色々であったが、武器屋等に詰め掛ける事になった。
当然武器屋はこの機を逃さず多少割高で販売した。
それでも殆どの武器屋や防具屋の在庫は売れに売れてなくなっていった。
そうすると在庫を新たに仕入れなくてはならないのだが、工房はフル稼働していたのに需要が多すぎた為に作る速度が追いつかず、なかなか武器が届かない状況になった。
そこで武器屋に武器が無い、それなら工房に直接詰め掛けよう。
そう考えた人達があまりにも多かった。
その為に、このゴッサム工房はその優秀な武具を作るという評判故に、たくさんの人達が押し寄せ、パニックになりそうな程であった。
更に武具を狙った空き巣が工房に侵入しようとした事件も発生する。
その犯人は一般人であったが、自分の家族を守るためにどうしても武器が欲しくて忍び込んだそうだ。
だが、親方は工房の二階の住居に普段から寝泊りして住んでいる為、犯人に気づくことが出来たのでぶん殴り、身柄を取り押さえることが出来た。
その後は門の詰め所に突き出してきたが、後は知らないそうだ。
こういった事件が続いた為に、工房に見張りと護衛に寝泊りする者を必ずおくこととなったのだとか。
そりゃ、この町の治安状況じゃあな。
自衛の為に武器が欲しいのも分かるよ。
でも、完全に犯罪がまかり通る状況になりつつあるのか。
まあ仕方ないか。
いつロックドラゴンがまた襲来するのかわからず、そしてそれに怯えながら暮らす。
それは普通の神経では生きていけないのだろうな。
自分が生き残る事が最優先となっていても、この状況では誰も責められない。
だが、こんな状況だからこそ、その人が持つ本質が見えてくる。
工房の親方達はこんな状況でも腐らずに相変わらず武器を作っているのであろう。
金づちの音が響いているもの。
ドラゴンが来ることになり、そして逃げられずに居たら自分が死ぬ可能性があるのだとしても、ここで武器を作り続ける、そういった心構えが出来ている。
そんな意思を工房の彼らから感じさせられた。
俺は工房の皆に力を貸したくなっていた。
だから、ここで寝泊りする事に決めた。
「ウサ正宗、ここで宿泊して世話になるので構わないか?」
「はい、ご主人様。
ここの工房の皆様やゴッサム親方にはお世話になりっぱなしですので、ここで少しは恩を返すのもよろしいかと。」
「うし、んじゃそうするか。
親方、それじゃあここで厄介になるよ。」
「おう、じゃあよろしく頼む。」
そして、この工房で護衛兼居候としていることになった。
ただし、初日だけは護衛を辞退させてもらった。
依頼で町の外に行きリンドブルムやモンスター等と闘い、ベルヒエ山脈から帰還したばかりで疲労が大きかったのと、レベルアップの成長痛があるからだ。
散々、祝福の実でレベルアップの効果を遅らせていたのだが、この工房ならば安全に休めるであろう。
俺は旅の疲れと疲労の為に、案内された部屋で直ぐにグッスリと寝てしまった。
ギルドの事は完全に後回しになっているのに気づくのは翌日のことである。
そして明けて次の日、相変わらず体全身に走るとんでもないくらいに感じる痛みで目が覚める。
起きたばかりの頃は、まるで起き上がる事が出来なかったくらいである。
その為に、トイレに行くのも一苦労であった。
お昼過ぎでも未だ動くのがキツいので、その日はほとんど部屋で休んで過ごす事になる。
途中でオーランが食事を持ってきてくれたが、心配された。
そして、次の日になって目が覚めると全身がスッキリとして、まるで昨日はブリキの人形みたいにガクガクとした感じがなくなり、まさしく生まれ変わった気分がするほど体の調子が良かった。
うーーーん、絶好調だぜ!!
早速身支度を整えて工房の外で軽く運動をする事にする。
ランニングで周囲を軽く走り回って体を温めた後に、鉄の剣で素振りをする。
体が軽い、剣が今まで以上に鋭く振れる。
ビュンビュン
音を立てながら何度も鉄の剣を振る。
そうしていると、いつのまにかその様子を親方が見ていたらしく
「おう黒髪の。
おめえ随分と腕を上げたな。
どんだけこの短期間で多くのモンスターを倒してきたんだ?
動きがオーランと訓練していた時とは別人だ。」
「そうなのか?
確かにかなりワイバーンやリンドブルムなんかを倒してきたからな。
レベルも上がるだろう。」
「なんだと!!
おめえリンドブルムを討伐してきたっていうのか?
すげえじゃねぇか。
ならなんで冒険者ギルドに報告しないんだ?」
「いやー、町に着いた初日にみんなが心配で先にこちらを優先したんだが、そうしたら見事に疲れもあってか報告に行くのを忘れてしまったんだ。
んで翌日は動けなかったんだ。
だから、今日後で報告しにギルドに行くさ。」
そういうと呆れた視線を向けられた。
それから親方との会話を切り上げて、一通り体を動かして自分の調子を確かめたら軽く工房でお風呂を借りて汗を流す。
そういや、久しくレベルとか確認してなかったな。
「ステータスオープン。」
名前:鏡竜司
職業:武具マイスター
レベル:21
体力:381
魔力:239
SP:417
筋力:266
俊敏力:172
精神:155
知力:210
器用さ:253
スキル:特殊アイテムボックス「自動修復小」、特殊アイテム作成、ラビッター族召喚、鑑定
盾術1、機械弓術4、剣術4、双剣術2、体術3、武具覚醒
称号:異世界の来訪者
うおおおお!!
爆上がりしてますがな。
一気に二倍以上になってる数値もある!!
すげー、なんて上がり方なんだ。
もう一部のスタータスがウサ正宗を越えたな。
しかも、スキルが盾以外軒並み上がり、武具覚醒とか新しいスキルを覚えたし。効果は、
武器や防具に秘められた能力を開放する。
ときた。
うっしゃーーー、これで上位の武具に付与されているスキルが使えるんじゃね。
戦力アップだーーー。
流石に成長痛が永く続いただけの事はある。素晴らしい。
親方には呆れられた視線を向けられたが、俺の安全を考えると冒険者ギルドの報告を後回しにする選択は悪くはない。ここまでステータスが成長し、なおかつ反動が大きいとは俺も考えていなかったからだ。
俺が成長痛と疲れで動けない所を誰かに知られたら、ウサ正宗狙いの人間が襲ってくる可能性もある。
だから、意図的に遅らせるのは決して俺にとっては悪いことではなかった。
決して忘れていた訳じゃないよ、ホントダヨ。
町の人間の事を考えれば、脅威がひとつ無くなったという事実は明るいニュースになるであろう。
それが冒険者の手で成し遂げられたのなら、落ちた信用の回復にも繋がる。
まあ、一応俺も冒険者ギルドに所属するCランク冒険者ということになるからな。
希望が出てくるか。
それからウサ正宗や親方達と一緒に食事を取りながら、今日の予定を話して決める。
「じゃあ今日はまずどうしようか?
やはり、リンドブルムの討伐を報告しに行くか?」
「そうですね、これで少しは町に明るい空気が戻ればいいのですが。」
「じゃあ親方、少し空けるよ。」
「おう、ゴロツキには気をつけろよ。」
そして俺達は冒険者ギルドに向かう事になった。
その道の途中で俺はロックドラゴンに対する対処と、この現時点で冒険者ギルドにはどのくらいの戦力が残されているのだろうかを考えていた。
はっきりいって、町の荒れ方からするともう討伐隊を組める程には冒険者などの戦力自体が残っていない可能性もある。
簡単にいえば、このディナントの町から逃げ出したんじゃないかと思っているのだ。
冒険者は基本二種類いると言われている。
この町で例えるのならば、まずはこのディナントの町で生まれ育ち、ここが故郷だからこの町を活動拠点とする者達だ。こういった者達にはこの町に家族が居て大事な仲間がいる。故郷に愛着がある。
だから、こういった町の危機的状況でも逃げ出さないのがほとんどである。
次に応援に来た冒険者達、彼らの半分くらいはギルドの要請に従って別の町からこのディナントの町に来たのだが、残り半分は渡り鳥としてやって来た者達である。
渡り鳥とは町から町へ移動しながら依頼をこなし、転々とする者達の事である。
行商人の専属として雇われて居る者もこれに含まれる。
彼らは利に聡い、そして自分の命を大事にする。
当然依頼された内容は遵守する努力はするのだが、今回の様な大型モンスターとの勝ち目の無い戦いなどには参加したくないと思い、逃げ出すのも仕方ないのであろう。
このディナントの町に愛着もなければ町に居る人々を守る、なんて正義感を持つものなどはほとんどいないからだ。
命を掛けてそれでも倒す算段やリスクに見合った報酬があるのならばまだしも、ロックドラゴンにディナントの町にあった現時点で最大戦力を振り向けて敗北したという事実がある。
だから新しい応援が来るか、もしくは勝てる見込みのある作戦等がなければ、命を掛ける意味など欠片もないしそれに見合った報酬など無いと考えているからだ。
それで自分達だけなら戦闘力はあるし旅慣れている為、この町から逃げ出すなんてのは簡単なことである。
ロックドラゴンに敗戦してしまい、町の討伐隊の戦力は半減したと言われている。
そこに彼ら渡り鳥が居なくなれば応援の冒険者は単純に数えて半数になる。ブラックウルフの件で冒険者の数と質が低下したディナントの町の冒険者、それら残る冒険者達との協力では、とてもじゃないがロックドラゴンと渡り合うのは不可能であろう。
初めにあった戦力の半分は殺され、残された主力も半分に。プラス雑魚冒険者。
残り戦力は三分の一も無いんじゃないのかな。
これじゃあこの町から逃げるなっていうのは酷だろ。
俺から見ても無理ゲーだもの。
だから俺からすれば冒険者ギルドにリンドブルム討伐完了を報告しても俺にとってなにも得は無いと考えていた。せいぜいお金とランクアップくらいしか向こうが渡せるものは無いしな。
そして俺にはどちらも必要なかった。
ロックドラゴン討伐失敗で町を蹂躙され権威も失墜し、次のロックドラゴンの討伐の対応策もロクにないであろうその姿を想像し、係わり合いになりたくなかったのだ。
どうせ、この調子だと俺とウサ正宗を英雄扱いにして戦意を高揚させてまた討伐に行かせようとするんだろうが、そんな事をされたら正直もう俺もこの町を見捨ててもいいんじゃないかと思っている。
たぶん工房の親方やみんなはこの町に残るであろう。
だが、俺はそこまでの覚悟が無い。
これが自分の責任の範囲内であるリンドブルムを足止めや討伐出来なくて町に迷惑を掛けたのであれば話しは違うのだが、こちらは同格に近いリンドブルムを二人で撃破して、向こうはロックドラゴンに集団の大戦力でしかけて見事玉砕。
その尻拭いは冒険者ギルドの責任であり、俺は自分の役割を果たしたのだからこれ以上の無茶振りに付き合うつもりは無いのだ。
そして、想定とは違ったがこちらにはギルドマスターからの緊急クエストを拒否する権利がある。
無謀にロックドラゴンをどうにかしろとか無茶振りをされても拒否すればいいだけである。
正直また後悔することもあるかもしれない。
でも、一番大事なものはなんなのか、といわれたら自分であり、次にウサ正宗であろう。
そんな俺に自己犠牲愛を強要されとも知らんがな。
そんな事をギルドに行く道のりで考えていた。
だが、工房のある被害が少なかったエリアを出て、建物の瓦礫が多い大通りに差し掛かると段々その考えは変わってきた。
何故なら、そこには未だに懸命に生きようとする町の人々の姿があったからだ。
この状況下で逞しくも屋台をだして生活用品を売り、商売に励む人もいる。
瓦礫をどかし、道を作ろうとする人もいれば、炊き出しをして人々に配る者もいた。
こんな状況では、食料は重要な物資だ。それなのにお金も取らずに笑顔で並ぶ人々にスープを配っていく女性がいた。
医者なのか、道端で座り込んでいる人の包帯を替えてあげたり、怪我人を治療している人もいる。
そういった人達の顔は決して生きる事を諦めたり、絶望したりしてはいなかったのだ。
そんな人達の中にはあの工房の親方やオーランも含まれるのであろう。
彼らは決して俺達を厄介者扱いはしなかったし、工房のドワーフと同列の存在として扱ってくれた。
俺なんてこの二日は寝てただけだったが、それでも心配してくれたし、彼らは人としての美徳や矜持を捨てていなかった。
そんな人がいるこの町を見捨てて行く事が俺には出来るのか。
そう問われたらきっと・・・・・・・
「俺には懸命に明日を生きようと足掻く人々を見捨てることなんて出来やしない。
・・・・・・・こんな甘い俺を笑うか、ウサ正宗。」
「いいえ、そんなご主人様だからこそ、傍にいてお仕えしがいもあるというものです。」
「町の人々を見捨てて逃げ出せないなら、ロックドラゴンを倒すしかない。
すまないがまた付き合ってくれ。」
「はい、ご主人様。」
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