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Chapter8:神隠し


  結局、路地裏から帰ってきた私たちは対策を練る必要があるという結果に行き着いた。


 犯人が人であったのならば逮捕なり能力を封じるなりする手段はあったのだが今回の相手は異界の神であり、倒すことは愚か封じることでさえも様々な条件が揃わない限り不可能だと判断した。



***



 ある日突然、人が消え失せて、その後の消息が掴めなくなる。なんて出来事が世界各地に古くから残され、今日まで続いている。


 これが神隠しだ。


 中には人攫いであったり口減らしであったりしたかもしれないが今回の事件は正真正銘本物の『神』隠しである。

日本では山の神や天狗がメジャーだが海外では妖精によるチェンジリング、一風変わった取り換えっ子なんてものまであるのだから実は既に彼方此方に出没していたのかもしれない。


 我々の前に現れた神は暗がりを通じてこちらに干渉してきているように見えた、巣を張り獲物がかかるのを待つ蜘蛛のように自分の縄張りに近づいた人間をあちら側に引き摺り込み、喰らう。

引き込まれた人間は数時間前に見た通り、文字通りの手先となって次の獲物に襲いかかるという寸法だ。

犠牲者が増えればその分だけ相手も強力になり更に対処が困難になっていく、時間をかけるのは下策だろう。


 完全に日の落ちた事務所で向かい合う少女と壮年の男性は互いに瞑目する。


「神宿一帯の封鎖を行うのは」


「現実的ではないな」


「大勢の術師による大規模な封印を」


「生憎と予算が足りん」


「……じゃあ、どうすればいいんですか」


「それを考えている」


 何度も思いつきを口にするも打開策になりそうな計画プランは出ず闇雲に時間だけが過ぎていく。相手は夜闇に紛れてしまえば容易く消えて此方から手を出すのは難しく、面倒だと判断されれば即、逃げてしまうだろう。

末端を潰そうとも相手は特に消耗もなくまた犠牲者によって補填されてしまう、普通に考えれば八方塞がり。


 一つだけ救いがあるとすればそれはまだ末端だということ。

本体は未だに向こう側におり、捕食した存在ものを己の一部として操って干渉することしか出来ない。


 或いはそこに何か打開策があるのではないかと少女は頭を悩ませる。


「アレはどうやってこちらに干渉してきているのでしょうか?」


「こちらに伸ばしている手のことかね。現在いまの神宿は君たちが喚ばれた影響なのか別の世界への通路が安定しやすくなっておる」


 それはつまり、一度出来た道をなぞるように他世界や多次元の通路が比較的に安定しやすくなっているのだろうか……いや、安定?


「待ってください。普段は繋がらないんですか?」


「勿論、そう簡単に繋がってしまっては困るとも」


 何を言っているんだと苦笑する先生を他所に、ある可能性が私の脳裏に浮かぶ。コレはもしかしたらイケるんじゃないか。


 勘違いをしていたのだ、私も先生も最初から神に勝つなんて無理な話だと散々口にしてきた。だからこそ、相手にしなければいいのに目の前にデカデカと立ち塞がれたせいで意識がそちらにばかり持ってかれてしまって当たり前なことを忘れていた。


「……私たちは勘違いをしていました」


「勘違い、とは?」


 愉快そうに尋ねる振る舞いに最初から心当たりがあったのではないかと疑心が浮かぶが一先ず横に置いておく。この人のブラフは本当に分からないから厄介だ。

父娘ほど歳は離れているが男女が暗がりの中でする話としては些か色気に欠けるが仕方がない、頭の中を整理するように順を追って説明していくのだがなんだがレポートの発表でもさせられている気分である。


 まずアレは喰らった人間の魂を使って人々を襲う。つまり肉体はお菓子の包装紙のようなものだ、必要ないからポイ捨て。

 結果は御覧の通り、別空間からこちら側に弾き出された場所が壁の中だろうと土の中だろうとお構いなし。


 それが磔殺人の正体だった。


 人知の及ばぬ異界のカミサマにとっては腹立たしいが買い食いした時のポイ捨てぐらいの認識なのだろう。そしてアレは闇を通じてこちらにやって来る、仮初の身体をもって。

 元は人の魂だったとしても今は怪しげなカミサマの一部にして生者に襲いかかる化け物、しかしその力は光の無い場所でないと発揮はされないことも分かった。

 もしこれが現代社会で無かったならば世界は一夜にして闇に呑まれて消えてしまったかもしれない、まあifの話だ。

現実は少しずつ行使できる力を強めている段階で余裕はないがまだ時間は残されている、ここが正念場だ諦めてはならない。


 力は遠く及ばず、正面からも裏からも手は出せない。ならばどうすれば良いのか?


 答えは分かりきっていた、簡単だ。


 つまりーー


「相手をしません」


 これに尽きる、勝てないのだから戦わない。


 負けたら終わり次なんて無いのだから逃げれば良い、端からそういう類の話だと散々言ってきた。


「だから逃げるべきです」


 この答えに先生は嬉しそうに嗤い、頷く。

その言葉を聞きたかったとでも言うように実に晴れやかに。

すっかり闇に支配された室内で老いた男の笑い声だけが響き、部屋の空気を揺する、少女の表情は変わらない。

相変わらず真面目くさった顔でジッと前を見据えている。

 不意に笑い声が止んだ、満足したのか目尻に浮いた涙も拭わずに膝を叩くと立ち上がり。


「満点をやろう」


 暗い部屋に浮かぶ男の顔は悪魔よりも禍々しい存在のように見えた。

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