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chapter1:接触


 東京都。


 23区26市1郡及び大島・三宅・八丈・小笠原の4支庁からなる日本の人口の約10%を占める行政の中心にして多くの人や物が行き交う経済都市である、広い面積と数多い区域を持つため地域ごとに特徴のあるユニークな街でも知られている。



***



 前方からこちらに向かってきている人はスーツに革靴、ネクタイそして清潔感のある髪型と典型的なサラリーマンをイメージしたら出来上がったかのような人物であった。

対して今の私は西洋式の甲冑を身に纏い槍を持った少女だ、都心部の駅前に立つにはあまりにも不自然極まりない。

完全なる不審者にして銃刀法違反の犯罪者にしか見えないだろうがこの場所を包む異質な空気がそんな普通な感想を抱かせてはくれず普通の格好をした相手の方が寧ろ浮いているように見えた。


 約3メートルほどの辺りで立ち止まり、にこやかな表情で深く美しいお辞儀をするとサラリーマン風の男性は張りのある声で挨拶を口にした。


「ようこそいらっしゃいました、異世界の皆様!」


 大きい声ではないがその場にいる全員に届いたであろう台詞は予想外のもので私だけでなく周りの同郷人もざわついている、あんな不安を煽る前振りからこの流れは読めないだろう。


「日本政府は皆様の来訪を歓迎いたします」


 ……政府公認ということは事前にこの事態を予測して対処しているということだがどうやって予期していたのか。

不自然なまでに人がいない駅前はもしかして封鎖されていたからだとしたら辻褄が合う、逆に考えれば予期できなければ人払いなんて不可能だと。

 ある程度は真実が含まれている前提で話を聞くべきか?

既に何人かは男性に詰め寄り根掘り葉掘り聞き出しているみたいだが一人なんだから答えられることも限られてくるだろうに。


「ふむ、ご質問はこれぐらいでよろしいでしょうか? 誠に申し訳ないのですがこれから皆様には身体検査を受けていただき、然るべき手続きを行ってもらいます」


 これは理解できる、他の世界から来ている以上は新種の病原菌など持ち込まれたら困るという防疫としての対処だ。しかし、手続き……異世界からの来訪は私たちが初ではないのか?

然して目立った反発も見せずに皆がやって来た大型の車両に乗り込んでいく、何台もあるので乗れない人間は出ないようだ。


「行くよ、カケル」


「大丈夫?」


 普通に警戒を示していることに少し驚きつつ、槍を下ろす。

武装も解除して身軽な格好になってカケルに向き直り手を引いて歩く、当たり前のように手を握ったが大きな弟みたいなものだから気にならない。


「虎穴入らずんば虎児を得ず、時には行動も大切なものだよ。但し警戒はしておいた方が良いのは変わりない」


「そういうものなの?」


「そういうものだよ、ほら行くよ」


 釈然としない面持ちのカケルを引っ張って車に乗り込む、最後の一人が乗り込むのを見届けてから車両は一斉に走り出した。

どこか見覚えがある景色が後ろに次々と流れていくのを眺め、ほんの少しため息を吐いた。



***



「はい、これで終了です。お疲れ様でした」


 採血を終えて皆、思い思いの行動をしている。

椅子に座りボンヤリする者もいれば、数人で会話を楽しむ者もいる、あまり緊張感がないのは案内された先がごく普通の外観の病院だったからだろうか?

まあ、中身は私たちのような人間用の病院といった感じだが。


 検査内容は概ね普通だった。

身体測定、運動テスト、尿検査、血液検査、レントゲンetcetc…一度はしたことがある検査ばかりで拍子抜けしたほどだ。

但し、どれも数値が人類を軽く飛び越えた数字が並んでいたことには戸惑いを覚えたが問題ないと思いたい。

外見からして人間の規格を逸脱している人に比べたらまだマシな方だから大丈夫なのだが熱線温度とか電圧とか記入欄にある時点で色々と個性的なこと、確かに身体の測定だものね。


「感染症の可能性もなし、測定結果もバッチリ人外ね!」


 バッチリ人外、斬新なフレーズだ。

お医者さん曰く何人もこんな相手の仕事をするとコレが普通になってきてしまうとのこと、火を吹いたり放電したりする相手と比べたら私なんてまだまだだろうから。

人の形をしていないのに普通に意志疎通ができてしまうあたり、この施設の職員は鍛えられているようだ。


「ところでお連れさんだけど、本当に普通で驚いたわ」


 ……カケルのことか?

見た目は普通だが中身も普通だったのか。しかし、普通なのに驚かれるとは変な日本語になっている気がしないでもない。

ごく普通の10代としか思えないし、私のように中身が外見を裏切っていないのだから真っ当なんだろう。


「普通の一般人はやはり珍しいんですか?」


「それは、ね。貴女たちのように作為的に送り込まれた人ではまず見ないケースよ」


「本人の望む姿か……」


「そうね、その影響もあってか美形なり空想の産物なり普通の姿っていうのはなかなか見ないわね」


「実際に話を聞いてみたら身体が変化した影響かしら、知識はあっても以前の記憶が残っている人間はいなかったわ」


 私と同じように記憶は以前の身体と一緒に喪失されているらしい。混乱をしないための措置なのか、それとも悩み苦しむ様を観賞したいからなのか、どちらにせよ不愉快だ。


「以前の彼は普通に生きたかったのかしら」


「……」


 何も言えることはない、結局何を思おうと私は彼ではないし勝手な同情や感傷を押し付けるなど思い上がりも甚だしい。

まあ、相談にのるぐらいならば吝かではないが。


「で、なんでこんな話を私に?」


「あの子って危なっかしいのよねー、こちらの質問もなんだか理解できていないようだったし純粋培養みたいな感じもするし」


「それがどう私に繋がる」


「そこはアレよ、見てたら貴女がまるでお姉さんのように世話を焼いているじゃない? だからピーンときたのよ」


「……で?」


「ぶっちゃければこれからグループ単位の生活に入るから担当官が付いて生活状況とか私生活の監督をするんだけど、ある程度融通が利く子に面倒を見てもらう予定なの。そうじゃないと職員が過労死しちゃうじゃない?」


 なんだろう、班長みたいなものか?

監督官は定期的に訪問したりするということでいいんだろうか、四六時中一緒は私たちより監督官の私生活が可哀想だ。

厄介な人間をグループで管理するのは仕方ないにして手が足りていないのは志願者がいないのか、はたまた私たちのような存在が多いのか興味があるな。


「別に強制はしないわ。なったからといって権利が行使できるわけでもないし補償も出ないからねー」


 なんて明け透けに言ってのけた。

こんなことに権利やら補償を付けてもゴタゴタの種にぐらいしかならないのは目に見えている、差別やらなんやらと五月蝿い人間が必ず出てくる、だったら最初からメリットなんてない方が気楽で良い。やるかどうかは別だが。


「大きな弟の面倒は承る。しかし、だからと言ってグループ全員の面倒が見れるほど器用ではないから辞退する」


「そんなこと言って、目の前で何かあったらどうせ自分から首を突っ込んでいく姿が見えるんだけどー」


「その時はその時だ、今じゃない」


「否定はしないんだ?」


 無言で席を立つ、暢気に手を振る彼女の生暖かい視線から逃げるため私は部屋を後にした。



***



なんとも言えない空気から逃げ出した私は特に目的もなく廊下を進む、無機質な床は清潔に保たれ照明を照り返し内装は病院にしては凝っている。

施設の新しさからやはり私たちのような存在と接触したのはここ数年間の出来事なのだろうかと予想してみるも単純に建て替えた直後という線もある、考えるだけ無駄か。

 思考を中断したところですぐ先に両開きの扉が見えた、そろそろ廊下には飽きたところだ。


 力を込めないように優しく扉を押し開けると広々とした中庭が目の前に広がった、丁寧に刈り取られた芝生と色鮮やかな花壇。

ベンチも置かれているようだが私も含めて普通じゃない人間が簡単に外へと出てしまえるのは如何なものか。

私個人としては外の空気も吸えて悪くはないのだが警備体制として考えると何か釈然としない。


「いかん、考え過ぎだ」


 思考がどんどん深みに嵌まってしまうな、止めておこう。

そんな思考がスパイラルを形成しつつある時に思わぬ光景が目に飛び込んできた。

 中庭のベンチにカケルと数人の男女が楽しそうに会話をしている姿がある、歳も近いようで笑い声がこちらまで聞こえてくる。

やはり同年代の友人の方が気兼ねなく話せたりできて良いだろう、静かに踵を返して廊下へと戻った。

 なんだろう、先輩風を吹かせるつもりはないが彼に親しい友人ができることに不思議と喜びを感じている。

願わくば良い友人関係を結べることを祈っているよ、カケル。


 さて本格的にヒマだ、何処へ行こうか。


 

 何度め書き直してしまい申し訳ないです。

一応コレで次に進めます、ありがとうございました。 

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