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出会い

 Ⅰ


晴天。

まさにその通りの天気であった8月。

私はその日、たまたま公園のベンチで仕事の休憩をしていた。

まるで狐につままれたかのようだった。

彼女はそこに居た。

白いワンピースが風に靡く。

赤いリボンのついた麦わら帽子を被っている。16か17歳くらいか、顔はあまり見えない。

「どうしたの?」

彼女は眼の前に居た。

彼女は腰に届くぐらい長く、さらさらした髪の毛をしていた。美しい黒髪。

突然目の前に居たことはどうでも良く、その髪の美しさに見とれてしまった。

「熱中症?大丈夫?」

彼女は首をかしげて聞いてきた。快活で透き通った綺麗な声だった。

「あ、いや、大丈夫」

私はあわてて返事をする。

「そう、なら良かった」

彼女はふり返り、黒髪と白いワンピースを風に揺らしながら向こうに歩いていった。


 蝉が煩い



仕事から帰った私は鞄をベッドの上に投げ捨てすぐさま湯船につかった。

私の住んでいたアパートは古いが浴槽は綺麗だった。

肩までつかってこの日の事を考えた。

 今日の彼女は一体何だったのか。

 何者なのか。

 明日もいるのだろうか。

明日もあの公園に行こうと決心した私は湯船から上がった。


 風呂上りのビールはうまい



次の日は雨だった。

午前中はデスクワークを淡々とこなした。

私にはあまり仕事が回ってこない。仕事をしていないからその分給料は他の同僚より低い。

しかし生活はできるし何より定時で上がれるから別に文句などはなかった。

昼休みになると早速あの公園へと向かった。

傘をさして歩いて行くと前日私が座っていたベンチに彼女は座っていた。前日と同じ白いワンピースに麦わら帽子をかぶっていた。

傘をさしていない。

私は彼女の方へ向かった。

「今日も来たのね」

私に気付いた彼女は声をかけてきた。

「まあね」

私は彼女の横に腰掛けた。何故かベンチは濡れていなかった。

「傘はないのか?」

まず私は一番の疑問を問いかけた。

「忘れてきちゃった」

彼女は頭を拳でこつんと叩いてみせた。何とも言えない可愛らしさだった。

私は彼女に傘を渡した。私は鞄から折り畳み傘を取りだした。

彼女は傘を受け取って私に尋ねてきた。

「お仕事は?二日連続で公園に来るなんて、もしかして無職?」

私は君の方こそどうなのかと思ったが、気になったことをそのまま質問してくる態度は私は好きだった。

「昼休みさ、一応仕事は持ってるよ」

「なんだ、そう」

彼女は少し残念がった。どんな答えを期待していたのか。

「君は?学校は?」

「今は8月だから夏休み。部活も入っていないし受験もまだだし」

「受験もまだと言うことは高校2年生?」

「正解。人並みの推理力はあるみたいね」

ちょっと人を見下す態度をとるようだが、私は気にならなかった。

「夏休みなら友達と遊んだりとかは?」

彼女は少し俯いた。

間をしばらく置いてから彼女は口を開いた。

「私、友達、いないから」


 傘に当たる雨音が煩い



あの後私は傘を彼女に持たせたまま別れた。

午後もデスクワークをこなす。

私に与えられた分の仕事を終え、定時に退社。社員からのあの目線も慣れっこだった。

この日の夕飯を買いに私はコンビニへ向かった。

 今日は彼女に悪いことを聞いてしまった。

 そのまま立ち去ってしまったのはいかがなものだっただろうか。

 何かお詫びをしないと。

私はかごにビールとサラダをいれ、お菓子コーナーに目をやった。

この暑い時期だからチョコレートは溶けそうと思い、私はグミを2袋かごに放り込んだ。

 明日も会って謝ろう。

 これを気に入ってくれるだろうか。

 渡す前に食べて味を確認しておこう。

私はレジに向かい、代金を支払って帰宅した。


 雨音は聞こえない



翌日は晴れだった。

彼女と出会った日より暑く、日が照っている。

昼休みになり、私はグミを1袋持って公園に向かった。

「どれだけ暇なのよ」

彼女の声が聞こえた。彼女はいつものベンチに座っていた。

私は彼女の横に腰掛けた。

「昼休みは何をしようと自由だろ」

「それもそうね」

彼女は私の答えに頷いた。

私はためらいがちに彼女に言った。

「昨日は、ごめん、悪いことを聞いてしまった」

「ほんと、まだ2回しか会ったことが無いのにあんなことを聞いてくるなんて、デリカシーないわね」

彼女はいつもの明るい透き通った声で返事をした。

「別に気にしてないから」

彼女は少しそっぽを向いた。やはり少し傷ついていたようだった。

「お詫びといってはなんだがこれを貰ってくれ」

私はグミを渡した。

グミの袋を見た彼女は最初は驚いたようだった。

「これ、私の一番好きなおかし。ありがとう!」

満面の笑みだった。

可愛らしさの中に少し美しさを含んだ笑顔。

気に入ってくれてよかった。


「ねぇ、明日もここに来るの?」

彼女は聞いてきた。

「明日は土曜だから会社は休み」

「明日はお昼を食べようよ」

突然の誘いだった。

休日の予定は立てていなかったので断る理由も無かった。

「わかった、それなら何か食べたいものはある?持ってこよう」

「ほんと?それならからあげが食べたいな、コンビニの」

「ああ、わかった」

別れる時彼女は美しい黒髪をなびかせながら手を振ってくれた。

 明日はたくさんからあげを買っていこう。

 明日も晴れて欲しい。

 もう一度彼女の笑顔が見たい。

職場に戻る私の足取りは軽かった。


 蝉の鳴き声が美しい


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