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次なる任務へ


「各艦、出航準備、整いましたっ!」


 通信士から報告が入る。

 鞍馬とエルザは艦橋にて、出航の時を待っていた。

 艦名も決定している。鞍馬たちの乗艦が「コルドラン」、アリーセの乗艦が「ドール」、カタリーナが「アトレティカ」である。

 三隻は同型艦となっており、武装に差異はない。

 そして、セシリーらが乗っている改装空母は「ヴェージー」と名付けられていた。


「了解。提督、出港準備が整ったようです」


 隣に立っているエルザが鞍馬に告げる。

 久しぶりの出航である。鞍馬はどこか緊張を覚えた。

 しかし、それを艦橋の皆に見せてはいけない。

 ゆっくりと頷き、前方を見据えた。


「全艦、出港。目標、敵の領海内」


 事前の打ち合わせで、これらの船を拿捕した場所へと向かうことに決まっていた。

 敵の輸送船などは無視し、巡洋艦以上の艦が通ったところに接近し、撃沈する手はずとなっている。


「はっ。コルドラン、出港!」


 エルザが艦橋で声を上げると、伝声管を通じて、各部署へと出航が伝達される。

 少しの間を置いて、船体がゆっくりと動き始めた。


「コルドラン、出港しました! 各艦、それぞれ出港を開始しています!」


「わかりました。湾内を出たら、目標地点へと航路を変更し、集結しつつ、進みます。各艦に伝えてください」


 そう言うと、エルザはふぅと息を吐いた。


「ありがとうございます。なんか、久しぶりですね」


「今回は休暇が長かったので。それにしても提督、命令を出すのもだいぶ板についてきましたね」


「そうですか?」


「はい。堂々としていて、見事です。しかし、エトムント司令いわく、私達は海賊らしいので、もう少しそのようにした方がいいのでしょうか?」


 エルザは整った顔をふんわりと和らげ、冗談めかして言う。


「あはは。じゃあ、俺、エルザさんのこと、姉御って呼んだ方がいいですか?」


「ふふ、それは私よりもグレーテ砲術長の方が似合うでしょう」


(確かにな)


 グレーテはそのサバサバとした性格から、姉御という呼び名が似合いそうだと鞍馬は思う。

 実際、彼女と部下の関係性はその呼び名に相応しいのかもしれない。

 そこが彼女が部下に慕われる要因でもあるのだが。


「グレーテさんはもう既に呼ばれていそうじゃないですか」


「それはそうですね。でも、どちらにせよ、私には似合わない呼び名かと思いますね」


「エルザさんは姉御っていうより、お姉さんって感じですもんね。優しいし、美人だし」


 鞍馬がそう言うと、エルザは一瞬硬直した後にパッと顔をそむける。


「そ、そんなことはありません……。提督、お戯れが過ぎます……」


 耳まで真っ赤にして、エルザは声を震わせて言う。

 以前から鞍馬は思っていたのだが、どうやらエルザは褒められることに慣れていないようだ。


「提督、そのようなことをあまり人に言わない方がいいです……。その、変に勘違いさせてしまいますから……」


「勘違い? でも、ホントのことですから」


「そ、そういう言葉が勘違いさせるというのです……!」


(なんだか、本気で恥ずかしがってるし、このことはもうふれないでおこう)


「ご、ごめんなさい。で、明日は訓練をするんですよね?」


「コホン……はい。ぶっつけ本番で戦闘というのは不可能ですから。本来なら、訓練に十分な時間が欲しかったのですが……」


 エルザは咳払いして、会話を仕切りなおす。


 訓練せずに戦闘というのは自殺行為である。

 それも艦が変わったあととなると、尚更だ。

 仮装巡洋艦という艦種はこれが初めてであるし、そのノウハウというものは確立されていない。

 リューツォーとは武装が全く違うので、その取扱いも訓練で習熟しておかなければならなかった。


「でも……仕方ないですね。司令部直々の命令で、早く出撃し、早く帰って来いって言われたんですから」


「はい。ですが、こちらの状況もわかっているでしょうに、この命令は少し解せませんね」


「確かに。もしかしたら、この艦が突貫工事になったあたりから、何かが始まってるのかも……」


(明らかになんか焦ってる、よね……)


 鞍馬はそこまで言って、思考する。

 現状、情報は何も入ってきていない。

 しかし、改装を急がせたり、出撃を急がせたりと、何かを焦っているようにしか思えない。


「そう、ですね。海軍の情報はある程度入ってきますが、陸軍を含めての戦況はほとんど入ってきませんし……そこまでわかっても、こちらでは確認のしようがありません。まずは目の前の任務を全力で片付けることにしましょう」


(確かにその通りだ。この戦いに生き残ることをまず考えないと……!)


 エルザの言葉に鞍馬は頷き、この戦いに集中することにした。




………

……




 出港してから一日。

 天気も晴朗で、波風ともに穏やかである。

 鞍馬は艦橋にて、訓練の様子を眺めていた。


 現在、敵艦が接近してきたという状況を想定しての訓練中だ。


「まだ、偽装は解除しないでください。敵艦をもっと接近させてからです」


 エルザが伝声管に向かって言う。


『はっ。艦長、偽装したまま待機します』


 グレーテから返事がきて、エルザは観測所からの報告を待つ。

 当然、敵艦などというものは存在しない。

 速度を設定して、それをもとに仮想敵艦との距離を決定しているのだ。


「敵艦、距離千五百!」


 艦橋にて、報告が響く。


「砲術長、偽装解除したのち砲撃開始! 目標、敵艦主砲!」


『はっ、砲撃開始!』


「同時に左舷魚雷を発射!」


 エルザが手早く、命令を下す。

 すると、貨物に偽装された砲台の蓋が開き、単装砲があらわになる。

 そして、十五センチ砲が火を吹いた。


 どぉん、という低い音が響く。

 リューツォーに比べて、だいぶ音が小さい。

 とはいえ、敵に被害を与えるという要望で設置された砲だ。

 それなりに威力があることは間違いない。


 続けざまに砲撃が繰り返される。

 訓練とは知っていても、鞍馬はなんだか落ち着かない気持ちになった。


「魚雷、砲撃命中! 敵艦被害甚大!」


「離脱します! 最大戦速! ……訓練終了!」


 エルザが声を上げ、訓練が終了した。

 張り詰めた空気が一気に弛緩し、皆が息を漏らす。


「エルザさん、どうですか?」


「やはりどこかぎこちないですね。砲撃の偽装解除時に少しだけ時間があるので、そこをなんとかしたいところです。まぁ、これからの訓練しだいといったところでしょうか」


「なるほど。そこら辺はどうしていたかっていう知識がないので……」


「いえ、これからの訓練で見つけていけばいいのです。さて、提督。そろそろお昼ですが、お食事はいかがでしょうか?」


 エルザが表情をゆるめて言う。

 鞍馬はそんなエルザに頷いてみせ、二人は連れ立って食堂へと向かった。




………

……




 士官食堂は訓練が終わってすぐのためか、人がいない。

 席の間を縫い、椅子に座ると、カーヤが鞍馬たちのもとへと寄ってきた。


「お久しぶりですっ! 本日は高天原の料理となっておりますが、よろしいですか?」


「へぇ、高天原の。なんて料理ですか?」


 高天原の料理ということは、日本料理だ。

 鞍馬は期待を込めて、カーヤに尋ねる。


「カリーライス? という料理らしいです」


「あぁ、カレーライスですか。いいですね」


「ほえっ!? 提督は知っていらっしゃるのですかっ?」


 カーヤが驚きに目を丸くする。


(そっか。この国ではあんまり高天原のこと知られてないって、正隆さんも言ってたしね)


「はい。たまたまですけど。……エルザさんもカレーライスでいいんですか?」


「問題ありません。以前食べた……肉、にく……」


「肉じゃが、ですね」


「それです。その肉じゃがもとても美味しかったですから」


「では、カレーライス二つで」


「かしこまりましたっ! すぐにお持ちします……って、あっ! 艦長、アイスは……」

 厨房へと戻りかけたカーヤが鞍馬たちへと振り返る。


「あ、後でいいです……!」


 エルザが顔を赤くして答えた。


(あはは、エルザさんは甘党だからね。前に来た時もアイスが先に出てきたっけ)


「あ、わかりましたっ! では、すぐにお持ちしますね」


 そう言って、カーヤが去っていく。

 エルザは鞍馬と目を合わせようとせず、どこか明後日の方向を向いている。


「アイス、いいんですか?」


「いいのです……っ! その……本当に、忘れてください……!」


「わかりました。じゃあ、忘れます。食後にアイスを頂きましょう」


「……はい。そ、それは当然です」


 エルザは消え入りそうな声で言う。


(なんか、可愛らしいなぁ……)


 すると、そこに料理が運ばれてきた。

 スパイスのいい匂いが鞍馬の鼻腔を刺激する。

 懐かしい香りに、鞍馬の顔は思わず綻んでしまった。


「こ、これは……強烈な香りですね」


「はい。スパイスを何種類か使って作る料理なので、匂いも強くなるんですよね」


「な、なるほど……。では、いただきます」


「いただきます」


 そう言って、二人はスプーンでカレーをすくって、口に運ぶ。


(ホントにカレーだ!!)


 鞍馬にとって、カレーは好物だ。

 そのカレーがこの世界でも食べられるということで、感動すら覚える。


「美味しいっ!」


 そんな鞍馬の口から自然と感想が漏れる。

 程よい辛さと独特の味、そして舌触り。その全てが心地よく感じる。

 エルザはと言うと……。


「……~~っ!!!」


 目に涙を浮かべて、悶絶している。

 そして、傍らにあったワインを一気に口へと流し込んだ。


(ま、まさか……)


「提督、か、辛いですっ!」


「そ、そんなに辛かったですか!?」


 鞍馬は驚いて、声を荒げる。

 確かにピリッとはしたが、目に涙を浮かべるほどの辛さとは思えなかったのだ。


「こんなに辛いもの、食べたことありません。普段はオニオンの辛味くらいだったので……」


 ワインを流し込んで、だいぶ落ち着いたのか、エルザは声を静めて告げる。


「じゃあ、他のを食べますか?」


「いえ、す、少しびっくりしただけですから……はむっ……んん~~っ!!」


 こうして、エルザとの食事は過ぎていった。


(エルザさんにはもう少し甘口を作ってもらわないとダメだな)


 頑張ってカレーを頬張るエルザを鞍馬は微笑ましく思うのであった。


本日、一話更新です!

今後の予定ですが、この更新後、修正に入る予定となっております。

今まで頂いたご意見をもとに、全ての話で修正を加えていきます。

作業の完了は8月中旬を予定しています。

それまで更新が滞る可能性もありますが、

(修正と更新の同時進行により辻褄が合わない状態が発生する可能性があるため)

早く続きが書けるように努力します!

これからも『俺が提督』をよろしくお願いします!


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