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異世界の艦長

「……お疲れ様でした」


「ありがとうございます。とても楽しかったです。帰りもよろしくお願いしますね」


 鞍馬はベルトを外し、フローラを振り返って返答し、機体から降りる。

 観測機発着場の周りの甲板には礼服を着た士官たちが敬礼して並び立ち、鞍馬たちの到着を出迎えている。

 鞍馬は士官たちに返礼をして、あたりを見回した。


 すると、多数の士官でできた人の壁の内側に、もはや見慣れた金髪の女性を発見する。

 女性――エルザは鞍馬の方へとゆっくり歩み寄り、声をかける。


「提督、お怪我はございませんか?」


「はい。フローラさんが上手く操縦してくれたので」


「安心しました……私の着艦時は問題ありませんでしたが、気流の乱れがあったようですね」


「ちょっとビックリしました。でも、無事に着艦できて良かったです」


 すると、エルザは自分が褒められたかのように誇らしげに微笑み、言葉を返す。


「ふふ、フローラ少尉は我が軍でも屈指の搭乗員ですから」


「色々と体験させてもらって、それを実感しました。それで……他の艦長の方々は?」


「現在、こちらに向かっております。提督と私が自艦を離れたので、艦隊の指揮を代わりに執って頂いたのです」


「そうなんですね。ところで、お会いする艦長さんってどんな方たちなんですか?」


「そう、ですね……彼女たちは個性的な方々という感じでしょうか……。しかし、実力は確かなもので、実戦経験も豊富です」


「なるほど……ってあれ? 彼女たちってことは……艦長さん二人は女性なんですか?」


「……提督の世界では艦長が女性ではないのですか?」


「はい。ほぼ全ての軍艦で男性が艦長をしています。だから、エルザさんが艦長と聞いて、最初は驚きました。そういうのはアニメとか漫画の世界だけだと思ってたので……」


「『あにめ』と、『まんが』……ですか?」


「えーと、俺の国の娯楽、です」


「なるほど……古来より、我が国では船旅の無事を祈る意味で艦長、船長が女性なのです。海の神様が男性なので、その神様に気に入られようとしたんですね」


「そういうことだったんですか」


(多分、俺の世界でいう船の先端の女神像――フィギュアヘッドみたいな感じだな)


 その時、甲板に整列していた士官たちに動きがあった。

 全員が鞍馬たちと反対側、艦橋の方へと敬礼をしたのだ。


「来られたみたいですね」


人混みを割って現れたのは二人の女性だった。


 背が低い方の女性は、肩口の少し上で無造作に跳ねる黒髪が一番に目に入る。

 歩き方が堂々としており、なんとなくではあるが、男らしい印象を受けた。


 もう一人、背の高い女性はウェーブがかったうっすらと赤い髪が特徴的で、エルザよりも少し肉付きが良く、大きな胸のせいで、軍服がはちきれんばかりに盛り上がっている。


「身長の低い女性が私の士官学校時代の同期でこの艦、シャアーの艦長、アリーセ・フリージンガー大佐と言います。高い方はカタリーナ・アウフレヒト大佐です。二人共、提督とは面識がございますので、そのように対応をお願い致します」


 エルザが鞍馬に耳打ちする。

 その間に、アリーセとカタリーナの二人が並んで鞍馬たちへと歩いてきた。


「提督、お久しぶりですっ! お元気そうでなによりです!」


 造形の良い顔の中でも一際目立つ、猫のように大きな瞳。

 その瞳にどこか勝ち気な色をたたえ、まっすぐに鞍馬を見つめながら、アリーセは敬礼をする。

 鞍馬はその元気さに面くらいながらも、ゆっくりと敬礼を返し、微笑む。


「お久しぶりです。本日はよろしくお願いします、アリーセ艦長」


 鞍馬はそう言うと、カタリーナへと視線を移す。

 そして、カタリーナとも敬礼を交わした。


「カタリーナ艦長、お久しぶりです。先の戦闘では大変でしたね」


「いえいえ~。あれは、その……私のせいですから~」


 眉尻の下がった、温厚そうな顔で鞍馬を見つめるカタリーナ。

 その顔から受けるおっとりとした印象を裏切ることなく、間延びした口調で答えた。


「カタリーナ艦長のせい? いえ、艦隊運動をしていたのですから、不運な出来事としか言いようがないかと思うのですが?」


 鞍馬が疑問を口にすると、エルザが鞍馬の耳元に口を近づける。


「……提督、彼女はその……普段はおっとりとしておりますが、戦闘時になると性格が一変し、非常に好戦的になってしまうのです……真っ先に撤退の理由を問いかけてきたのも彼女ですし……今回の被弾の理由もそこにあるのかもしれません」


 そう告げるエルザだったが、鞍馬は眼前の大人びた女性が好戦的とは思えず、どうしても実感が沸かない。


「そ、その~……私が指示したんです~……あまりにも砲撃が当たらなくて、むしゃくしゃしたもので……速度を落としてしっかりと狙えって。その結果、逆に敵の的になってしまったみたいで~」


 意外な告白だったため、鞍馬にはどうしていいかわからなかった。


(命令違反なのは明らかだけど……そういう場合には怒ったほうが良いのかな……?)


 鞍馬はエルザの顔をみやり、助け舟を出してくれることに期待する。


「カテリーナ艦長。私達は艦長を処罰しにきたわけではありません。先の戦闘の撤退の理由を説明しにきたのです。アリーセ艦長、ではお部屋に案内して頂いてよろしいですか?」


「了解した! では提督、こちらへどうぞ!」


 アリーセがエルザの言葉に同意し、部屋への案内を開始する。

 上手く場をまとめたエルザは、鞍馬の横に並び、微笑みかける。


(ありがとう、助かりました……)


 鞍馬は視線と口パクでそう言い、自分では収集できなかったであろう場面への対処に、感謝の気持ちを表した。




………

……




「なるほどっ! 提督が頭を打ってしまったのですか! 主砲が不調というわりにはその後の戦闘で撃っていたので、どうしたのかと!」


 アリーセは手に持ったティーカップをテーブルに置きながら言う。

 鞍馬たちはアリーセの自室で先の戦闘での撤退理由を、主砲の不調、鞍馬の負傷と説明していた。


 ひと通り話が落ち着いたかと思った鞍馬は部屋の中を見渡す。

 アリーセの部屋は白を基調とした美しい家具が置かれ、その剛気な所作と反対に、どことなく高貴な印象を受けた。


「でも、それなら仕方ないですねっ! あはは、俺もよく転びそうになるんですよっ!」


「あ、それ私もあります~」


(結構みんな転ぶのかな……? まぁ、立ってる時に直撃とかがあった場合は仕方ないだろうけど……)


「でも、その後の提督の指示は痺れましたよっ! まさか、敵の別働隊を看破していらっしゃるとは!」


「ホントですね~。提督が見破っていなかったら、どうなっていたかわかりません~」


「あの状況、俺はなんの疑いも持ってなかったからな!」


「あら、奇遇ですね~。私もです~。目の前の敵を打ち破ることばっかり考えていたので~。提督の大局的な視点は素晴らしいと思います~」


アリーセとカテリーナは目を輝かせて、鞍馬を褒めちぎる。


「あー、いえ、あれは、そのぅ……」


 鞍馬は嬉しい反面、どこか居心地の悪さを感じて、視線をエルザへと向ける。


(言えない! ただ単に怖かったからなんて……っ!)


 すると、エルザが自信満々に頷き、言葉を発する。


「あの戦いでの提督の判断は素晴らしいものでした。敵の挟撃を判断する材料がほとんどない状態で、正解を導き出したのですから」


 わざとなのか、エルザは鞍馬の意図を全く汲み取らず、アリーセたちと一緒に褒める。


(えぇ!? エルザさんまで!?)


「まだ撤退の理由も知らなかったので、撤退中に敵が現れた時は驚きましたね~。あのまま本隊と戦っていたらと思うと、ゾッとしました~」


「おう! 命拾いしたぜ!」


「あら~、それは私の台詞ですよ~。たぶん、他艦を救うために、敵中に突撃して気を引こうと考えたはずですし~」


「お前の場合は、味方のためっていうより、戦いたいだけだろ! あっはっはっ!」


(な、なんだこの会話……! でも、海軍ってこんな性格の人じゃないとやってけないのかな……?)


 自分の命を物の数とも思っていない発言に、鞍馬は驚くが、軍隊という環境の特殊性を考え、無理やり納得する。


「コホン! とりあえず、撤退した理由はわかって頂けましたか?」


「はい~」


「おうよ!」


「それはなによりです。では、そろそろ戻りましょうか。長い時間、提督が自艦を留守にするのもマズイですし……」


「はい、そうですね。お二方、本日はお時間を頂いて、ありがとうございます」


「いえ~、こちらこそ、ありがとうございました~。提督の決断に心から感謝いたします~」


「俺もだぜ! 提督、ホントにありがとうございました! 提督のお陰でこれからも元気に戦い続けられます!」


 満面の笑みでお礼を述べる二人。

 そんな二人の笑顔を見て、鞍馬はホッとする。


「そう思って頂いて、こちらも助かります。では、失礼しますね」




………

……




「では、提督、お元気で! 俺も頑張りますからっ!」


「では~、お二人とも、またお会いしましょ~」


 ローターが発する風に髪を揺らす二人の艦長に見送られ、シャアーの甲板上でシェルダーが滑走を始める。


「……提督。離陸します……舌をかまないようにしてください……」


 フローラが鞍馬へと注意を促し、操縦桿を引く。


 空へ――。

 二度目になるこの感覚は、鞍馬にとってこの上なく気持ちの良いものだった。


 すでに空は夕暮れに染まり、海面に反射している太陽の光は、沈みかけた太陽へと続く光の道のようになっている。

 鞍馬はあまりの心地よさ、その神秘的ともいえる光景に、目を細めた。


「今日も一日、色々あったなぁ……」


 様々なことを知り、多くの人と出会った。

 こんなに濃密な一日を過ごしたのは人生で初めてかもしれない。

 そんな思いが一つの言葉となり、鞍馬の口から漏れでたのだ。


「……? 何かおっしゃりましたか……?」


「なんでもないです。帰りもよろしくお願いします。安全運転でね」


「……了解いたしました」


 こうして、鞍馬の一日は終わりを告げたのであった。


本日、一話更新です!


ストックがなくなりましたので、

今後は水曜22時と土曜22時に定期更新していきます。

遅れないように書いていきますので、

これからもよろしくお願いします!

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