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ある雨の日のこと。

作者: 春波

 ある雨の日。「さあ、待ちに待った土曜授業だ。3時間だけだけど頑張って勉強するぞ!」なんて気にはなれないが仕方ない。

 普段は休みのはずの土曜日。何曜日だったか忘れたが、その日学校の開校記念日だったので休んだ分を取り戻すため、今日は学校に行かなければならない。なんて最悪。人生をなめきっている自分にとっては辛いのである。

 寝坊する事も出来なかったし、熱を出す事も出来なかった。急用で学校を休め、とも言われる事も勿論なかったわけで。

 しぶしぶ重い腰を上げて、家から一歩出る。ふと空を見上げると、少しばかり雨が降っている。あーもう、こういう時の雨は嫌いだってのに。

 じゃあこの傘借りてくよ。行ってきます。早く帰ってこい?わかってるよ。と、いつもと同じ会話をお母さんと交わし、軽く手を振って、雨の中を歩いて行った。小降りだったので、もう少し待ってから傘を差そうと何気無く思い至る。

 傘をぶらぶらと振り回しながら友達の家の前に到着。同時に友達も出てきたので、ほとんど間を空けずに歩き出した。

「おはよ」

「ん、おはよう」

 視線が、無意識に友達の手元を見ていた。友達は傘を持ってきていない。

「え?雨降ってるの?」

 空を見上げて今更、友達は言う。

 間抜けが。と言いたい所だが、その衝動を押さえきり、少し肩を竦めて言った。

「降ってるさ。見てのとおり」

「傘差さないの?」

「まだ差さない。もっと降ってからだ」

 ぽたぽたと雨が顔にかかる。建設中の家を通しすぎた辺りで、さてともうそろそろ傘を差すかと傘をひらいた。友達も濡れてしまうからいれてやらなければ。

 そうして友達を傘の中にいれてやる事にするが、まったく。文句なんて言いやがって。私に雨がかかってるじゃないか、だと。挙句の果てには信号待ちの間に傘を奪われる始末だ。濡れていく。髪も制服も靴も。まあ、この時、心配しなければいけない事は髪の毛だ。癖毛なので、湿気や雨のせいで髪の毛が広がってしまう。あまり度が過ぎると酷い事になる。

 ぐりぐりと前髪を弄ったり、顔にかかる雨を手で拭ったりして歩く。

 しばらくすると、友達が頭に傘を引っ掛けてきた。彼女なりに傘の中にいれてくれているらしいが、逆に歩きにくい。傘の骨に髪の毛が絡まり、頭を動かした時にぷつんと音がした。

 どうやったら楽だろうかと、かがむようにしてみるがそれも疲れる。だったら潔く雨に濡れてやろう。制服だから後でどうなってしまうか気になるが、雨に濡れるのは嫌いじゃない。むしろ雨に濡れるのは気持ちがいいから、いいや。

 傘貸してやるよ。わがままさん。

 友達は「わー、この人傘忘れてるー。ダサいー」みたいな事を呟きながら隣を歩く。その言葉に多少怒り―― 否、馬鹿かと眉をひそめながら、

「傘忘れたのはお前だろ」

 と言った。友達は特に悪びれた様子もなく、微笑していた。

 結局、学校に着くまで傘は手元に戻ってこず(いや、ほんの数秒だけだが戻ってきたか)髪の毛の広がり具合を気にしながらの登校で。乾いた後の方が重大であった事に、今更気が付いて。

 そしていつものように、お互い別々の教室に入るまで隣に並んで歩いていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 青年期の心情がなかなかよく表現されている
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