私は誰ですか?
凛様が塀の傍で倒れておられてから気がつかれるまで丸一日。
その時が大変でございまいした。なぜなら、凛様が御自分の事を全く憶えておられないのでございます。勿論、鷹明様も急いでこられました。
「凛!凛!!俺だ!分かるか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
そうなのだ!俺が呼んでも知らぬ顔をしている。いったい凛に何が起ったというのだ!
武から詳しい事情を聞いても塀から落ちた。しか言わない!何故、凛が塀から落ちるのだ?
俺がもっと、しっかり凛を見ておけば良かった!今更、後悔しても仕方がない。
だが、凛の手伝いを見ていたのは武だけ。その武が震えていて何も言えない状態になっている。
俺は武を落ち着かせて帰らした。
そして、萩と華にこれから凛に対しての相談をしないといけないのに!
萩、華は泣いておって話しにならん!今、如何すれば良いのか俺にも分からん!
ここは、萩と華に任すほうが良いのかもしれない!
「凛様。わたくしは萩と申します。こちらは、凛様の身の回りをさせて頂いております華でございます。」
「凛様。華でございます。・・・・」
「・・・・・そうですか。・・・私は凛と言う名前なのですね。」
「そうでございます。そして先ほど来られました方はこの屋敷のご主人様でございます。」
「・・・・・・・・・萩さん。私・・・あの方と結婚していたのでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・」(萩。華)
「凛様、今は何もお考えなさらずゆっくりとお休み下さいませ。」
わたくしと華で鷹明様の事はどう言ったらよいのか迷っていました。
華がとんでもない事を言うまでは。
「萩様。凛様と鷹明様の事でございますが、思い切ってお二人を夫婦に仕立てたら如何なものでしょう。」
「華。滅相もない事を言うもではありません!」
「でも・・・・・わたくし達は鷹明様の御気持ちが分かっております。だから、今のこの時に凛様を北の方に。と思います。」
「・・・・・・・華。・・・・・わたくしも少なからずそのように思った事もあります。だが、凛様の事を考えると胸が痛みます。」
「萩様!このままで宜しいのでございますか! お決め下さいませ!」
(本当に、凛様がこのような御病気になられて鷹明様も気落ちされていることでございましょう。それに、凛様が鷹明様と夫婦と言う事とあれば凛様は月にお帰りになられる事も諦められる事となり、このさい、華の言う事も一理あります。では、凛様に鷹明様の北の方になって頂くとしましょう。)
「華。そうですね。では、凛様は鷹明様の北の方という事です。屋敷中の者に言っておきなさい!良いですか!!わたくしから鷹明様に伝えておきます。」
「はい!!」
それからわたくし達は屋敷の者達にも鷹明様と凛様が御夫婦という事を触れ回ったのでございます。
凛様の事を「北の方様」と言わなければいけない。
「月の世界」と言う言葉は絶対に言ってはならない。
鷹明様の事を「旦那様」と言わなければいけない。
そして、最後に凛様が「塀」から落ちた。などの事は絶対に言ってはならない。
この四つ事を皆に約束させました。
屋敷の者は何故か嬉しそうにしております。そうなのです!凛様と鷹明様の御夫婦が見られるのですから!わたくしまで何故か、凛様がよくお口にされる「ウキウキ」でございます。
さぁ!そうなれば、忙しゅうございます。
あとは、鷹明様!わたくしが上手く説明いたしますわ!ホホホホ・・・・・
「鷹明様。お話しがございます。」
「萩。凛の様子は如何だったのだ。」
「はい。大丈夫でございます。ただ、凛様は今までの事を何も憶えていらっしゃいません。そこで、鷹明様。一つ提案なのでございますが・・・・・凛様と鷹明様は以前から御夫婦という事になっております。先ほど凛様が鷹明様の事を"私の旦那様ですか?"と聞いておいででございました。わたくしは凛様があまりにもお可哀想に思い。"そうでございます"と申し上げました。鷹明様。ご協力して頂けますね。」
「・・・・・・・凛と夫婦・・・・・仕方あるまい。」
「有り難う存じ上げます。では、これから凛様に旦那様であるような素振りをお願い致します。」
・・・・凛が何も憶えておらない!?これから凛と夫婦として過ごさなければならないのか。
・・・・まぁ、成る様になるか!
わたくしが鷹明様に「御夫婦」と言う事を申し上げたところ鷹明様は驚かれておいででした。が、まんざらでもないご様子。ホホホホ・・・・わたくしは楽しみでございます。
鷹明様は如何なさいますでしょうか。




