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幽霊日和

ちびっこ達は止まらない

作者: 砂原樹

「幽霊で遊ぼう」の続編です。


 気づけば前作の投稿から半年以上の月日が!!

 ……なんか色々すいませんでした。


 以下の項目に同意の上、お読みください。


 ・現実逃避は自重しない


 まあ、これだけですけど。


2011.11.7 加筆しました

 最初に、誤解を与えないように一つ言っておこうと思う。

 幽霊というものは夜に出るという認識が、人々の意識にがっちり根を張って離そうとしないみたいだけど、幽霊が昼に居ないってことではないんだ。

 夜のほうを好むようになるってだけ。もう死んでいる身としては、騒がしい昼間よりみんなが寝静まっている夜中とかのほうが居心地いいんだよ。

 死んでるから寝る必要もないし。ずっと起きていられるし。まあ、そのせいで幽霊は基本終始暇なわけなんだけどね。ああでも、怨念とか持ってる人は恨みをぶつけることに忙しいんだろうか、もしかして。……難儀なことだ。

 さて、前置きはこのぐらいにして、ここで改めて自己紹介でもしておこうか。

 家から一歩出れば見渡す限り田園風景と言っても過言ではないド田舎にある、とある日本家屋が僕の家だ。

 この家はその半分ほどが森に埋まっていて、手入れもされていないので、そのおどろおどろしい雰囲気と相まって、夜になると幽霊屋敷に様変わりする。ていうか、実際に幽霊の出る地元じゃ有名な立派な心霊スポットだ。

 まあ、その幽霊って僕の事なんだけどね。ははっ。

 そのはずなのに、なんでこんなことになっているんだろう。理解できない。


「おーいゆうれー、あそびにきたぞー。ありがたくおもえっ」


「かいとー、あーそぼっ」


 ……いかん、なんか幻聴が聞こえてきた。耳が悪くなっちゃったのかな。

 幽霊でも受診できる病院って、どっかにありませんかね?






◇◆◇






 時刻は珍しく昼の時間帯。時計がないから詳しい時刻は分からないけど、真っ昼間という単語だけで説明は十分だろうと思う。

 今日僕は珍しく昼に活動していた。理由は何という事もなく、単に日向ぼっこがしたくなっただけである。……幽霊のくせにとか言うなそこ。こちとら善良な死後ライフを満喫してるんだよ。

 そうして庭に出た僕は、多分自然の恵み(雨)のおかげだろう未だ枯れていない木に寄りかかってぼけーっと庭を眺めていたわけです。……あれ、これ日向ぼっこじゃなくて日陰ぼっこじゃあ……まあいいか。

 柔らかい風が吹いて行ったり、森の近くだからか鳥の鳴き声がよく聞こえたりして、すごく癒されていたんだよ。

 そうして平和な時を満喫していたのに、いましがたあの声が――いや……待って、今のなし。あれ幻聴だから。僕は現在進行形で日向ぼっこもとい日陰ぼっこを満喫中です。

 

「ねーしゅうくん、かいと、こないよ?」


 満喫中です。


「うん……なんでだろうな」


 満喫中です。あ、雀がこっち飛んできた。そういえば、雀をこんなに近くで見たことないなぁ。なんか和む。可愛い。

 でもこんなに近寄っちゃって大丈夫なのか? ……あぁ、僕が幽霊だから気付かないのか。役得役得。


「ねてるのかな」


「そっか、じゃあおこそうぜ。――ゆうれー! おきろー!」


 幽霊は眠りません。……はっ! 危ない、幻聴に反応してしまった。疲れてんのかな、僕。幽霊なのに。

 でもあんなに大声張り上げなくてもいいのに。

 大丈夫。ご近所迷惑にはならないさ。この家の近くにご近所さんいないから。……あれ、自分で言っててなんか悲しくなった。

 ――待って。幻聴、幻聴なんだってば僕! 引きずられないで! 負けるな僕!


「……こないねー」


「ゆーれい、ぐーたらなんだな」


 おいまてコラ。今のはちょっと聞き捨てならんぞちびっこども。

 ……はっ! 思わずつられてしまった! やめて。ほんとやめて! 僕の平穏を乱さないでよ頼むから! 

 ……いいや。そのうち聞こえなくなるよ、きっと。ポカポカ陽気に誘われて一眠りすれば、時間もたって頭もすっきりして幻聴も聞こえなくなるさ。

 まあ、一つ欠点をあげるとすれば、僕が幽霊だからか眠気が全然起こらない点なんだけどね。――ちくしょう、計画丸つぶれじゃないか。


「あ、ねえねえしゅうくん。もう、かいとおこしにいこーよ」


 不 法 侵 入 反 対 !!

 部外者は速やかにお引き取りください。不法侵入は犯罪です。警察呼びますよ。幽霊だけど!

 ……いや、落ち着け僕。疲れてるんだよ。これは幻聴の方針で行こうと心に誓ったじゃないか。いや、方針とかじゃなくて、えっと…………とにかくこれは聞き間違い! 目の錯覚ならぬ耳の錯覚! さあ頭の病院にレッツゴー!(混乱中)


「え、いーよ。ゆうれーがねてるなら、そっとしておいてやろーぜ」


 きた! やった! ありがとう! ごめんね名前覚える気が無いちびっことか思ってて。これからはちゃんと名前で読んであげるからね。

 よし、これでやっと平穏に過ごせるフラグが――


「それより、ねてるすきに、ここ、たんけんしようぜ!」


 ――折れたぁぁ! 立つ前に折れた! それどころかさらに厄介なことに!!

 もっと遠慮をわきまえて! 出てこい親! それか良識のある大人の人! 助けて僕じゃ手に負えない!!

 ……はっ、取り乱した。

 いや、でも、ほら。これ幻聴のはずだし。もしかしたら夢かもしれないし。きっと大丈夫じゃないかなーなんて。ははは。(滝汗)


「! おもしろそうだね! いこういこう!」


 …………

 ……

 いいよもう。認めればいいんだろ。現実だって認めればいいんだろ。そうだよ現実だよ。紛う事なき現実だよ。取り返しがつかないの。砂糖菓子みたいに甘くないの。真実は一つしかないの。そして僕に優しくないのが現実の姿だよ。知ってるよ! 

 知ってるからこそ、さっさとトンズラしようと思えるんじゃないか。

 よし、ちょっとちびっことかくれんぼでもしようかな。もちろん僕が隠れるほうで。

 開き直ったせいか、どことなくスッキリした気持ちで決意が固まるね。そうと決まればまず移動しよう。とりあえず、このまま家の裏に――


「あ! かいとだー!」


「なんだよゆうれい。いるんなら、ちゃんといえよな」


 …………………。

 たっぷりと沈黙を置いてから、僕は顔をあげてみた。

 庭と玄関とを結ぶ道に、ふたりの子どもが立っていた。名前は確か、僕のことを幽霊としか呼ばないほうが秀で、もう一方が(ひかる)だった気がする。

 この前きていた、こいつらよりは大きい子どもと、僕の名前だけやたら饒舌に喋れる子どもはいない。

 つまり、前回は多少なりとも機能していたブレーキ役がいない。

 いるのはただ突っ走る子どもたちだけだ。


「かいと、あそぼー!」


 光のほうにひっつかれた。今更ながら、どうしてこんなに懐かれてるのか分からない。というか、今僕はどんな行動をとるべきなんだろう。展開が急で頭がついて行かない。

 ぼんやりと現実味のない頭の中で、てれれれーと、エンカウントが流れるのが聞こえた。




        ちびっこ×2


  [かいとのこうどう]

  ≫にげる

   あいそをふりまく

   とっくにしんでしまった めをむける

   げんじつとうひ はつどう




 僕の頭はとうとうやられてしまったのだろうか? そう思いながらも、僕の願望が反映されまくっている選択肢に従ってみることにした。

 逃げたいけど、ひっつかれているから無理だろう。

 取りあえず、愛想笑いしてみた。


「! いいの!? やった!」


 ものすごく逆効果だった。思わず昨日を見つめて生きて行きたくなった。

 そう言えば昨日は月が綺麗だったなー……


「むー……たんけん、したかったのにな」


 秀のほうが不満げに呟いたので(とっくに死んでしまった)目を向けると、きらきらした目で僕を見ていた。

 僕の家は危険がいっぱいだけど、いいの? 仮にも幽霊屋敷だから、穴とか開いてたりするんだけど。


「しかたないな。ゆーれー、あそぼうぜー」


 心が折れそうになった。

 選択肢はまだ一つ残っているけど、現実逃避はもうさんざんやって疲れた。全く役に立たないエンカウントだった。

 恐ろしいな、ちびっこ達。こんなにお前らと遊ぶのが嫌だと思うなんて。やっぱり前回いきなり押しかけてくれたのが原因だな。もう深層心理からじわじわと攻め込んでくるほどえげつないトラウマになってしまったのか。また今日も僕はちびっこに屈してしまうのか。

 ……いや大丈夫だ。僕は負けない。こんなちびっこに負けてなるものか。そう、言われてみればこいつらはちびっこなのだ。こんなちんまいのに負けるなんて情けないじゃないか。例え前回敗北宣言していたとしても、すでに負けてるんじゃ? っていう状況だったりしても、負けていないのだ。そう信じてる。信じる者は救われるっていうし。

 というわけで、戦うんだ僕。頑張れ僕。負けるな僕――!


『よし、じゃあお前ら中に入れ』


 僕は笑みを浮かべて宣戦布告をした。








 結論。

 ――今日も、負けました。

 もう病院じゃなくていいので、僕の気持ちを分かってくれる人なら誰でもいいので、誰か幽霊見える人紹介してください。


 もう死んでるのに、何故か胃のあたりがキリキリと痛むんですよね……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  拝読させて頂きましたっ!今回もとっても面白かったですっ!思わずパソコンの前で一人で笑ってしまいましたっ!(不審。家族におかしな目で見られたかも知れません。いや、絶対に見られた) [気にな…
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