少年と日常と少女……でいいか
朝早くから俺は食事を作る。
数は三人前。俺、カナ、そして今は居候としているイヴの三人分だ。
料理を三枚の皿に分けて、テーブルに振り分ける。
と同時に浴室の扉が開かれた。
下着姿のイヴが現れる。
「日上、この部屋の風呂は狭すぎる。もう少しマシなつくりにはならないか」
「フリーターである俺にそんな財力は無い」
「甲斐性なしめ」
「働かず一日ゴロゴロしてるだけのお前に言われたくねえよ」
俺の言葉に耳を傾けることなくタンスから俺のYシャツを羽織る。
パンツ一丁にYシャツという露出度の高いスタイルで椅子に座る。
――――――ハッキリ言って目に毒だ。
俺は平静を装いながら、カナの来訪までの時間をテレビのニュース番組で潰す。
ニュースは隣町で起きた放火事件の続報を流している。
犯人は未だ見つからず、放火のあった工場内で多数の刺殺死体が見つかったことで最近続いていた連続殺人事件と同一犯と警察は見ているらしい。
現場を背景に美人レポーターが放火の悲惨さを細かく描写して説明している。
と、それをイヴが興味深そうに見ていた。
こいつは一昨日から一緒にいるが、意味も無く外を眺めたり、俺の本棚から漫画を読んだりしているだけで。
テレビをこんな風に真剣な目で見ているのは初めてじゃないのか。
不思議に思った俺は彼女に問いかけた。
「気になるのか?」
俺の言葉で自分がテレビに釘付けになっていたことに気がついたのか、
「…………別に」
と呟いて気まずそうに余所を向いてしまった。
――――――なんなんだ?
「おはよぉぉぉぉぉう! ひがみぃぃぃぃぃぃぃぃさああああぁぁぁぁぁんぅ」
疑問もそこそこに、カナがいつも通りの高テンションで扉を開く。
「イヴちゃんおはよう!」
「…………おはよう」
カナのテンションについていけないのイヴは少し驚いた後に挨拶を返した。
これで三日目、俺とカナ、そして素性も知らない少女――――イヴとの三人での朝食は。
一昨日の朝、俺はイヴという少女と共に一夜を過ごしていた。
食事を求めて俺に声をかけたというイヴと共に家へと入り、軽い夜食を彼女のために作った後熟睡したらしい(バイト終わりだったため)。
食事を終えたイヴにも睡魔が襲い、俺のベッドの中に潜り込んだそうな。
そして、なぜそれから俺の部屋にイヴが居るのかというと…………離れないのだ。
…………懐かれた……らしい。
「……日ひゃみ、おかわひ」
「はいはい」
「ひひゃみひゃん。わたひもでふ」
「…………さらば俺の生活費。そしてお前らはせめて食費を出せ」
「「………………」」
「二人そろって無言でスルーするな!」
ただでさえカナだけでも暴食キャラは埋まってるのに、この居候も暴食なのである。
――――――居候の癖に!!
食事が終わり、俺が皿洗いをしている後ろでカナとイヴがイチャつく声が聞こえる。
「イヴちゃ~ん。お姉ちゃんと遊ぼ~よ~」
「…………いやだ」
「ダメ~。遊ぶのぉ~」
「?……わ、放せ!」
カナがイヴを膝の上に乗せる。
カナは華奢なように見えて意外と力(主に自分の欲望に振るわれる)がある。
「うわあぁ~。イヴちゃん腰細ーい」
「止めろ、抱きつくな」
どうやらカナのセクハラ魂に火が付いたらしい。
もう少し体裁というものを――――
「あれれ~? でもおっぱいはまだ私のほうが大きいねぇ~」
「ちょっ……くすぐったい――――」
――――――……まったく。最近の若いモンはけしからん!!
「……日上。どうして顔が赤いんだ?」
「イヴちゃんあのね~。ひがみさんはムッツリスケベなんだよ~」
「誰がムッツリか!」
――――――まったく、少し興奮しただけじゃないか。
「そもそも、イヴ。お前のその服装をどうにかするべきだ」
「? なぜだ」
「なぜだもクソもあるか。どこにそんなエッチなお姉さん風の部屋着でうろつく女子がいるか」
「……じゃあエッチなお姉さんなんだろう」
「納得するな。お前のちんちくりんな身体でお姉さんとか不適切にも程がある」
「――――――エッチなお姉さん」
「あと、カナ。エッチという言葉に反応するな」
頬をポッと赤く染めてニヤつくその姿は変態痴女以外表現のしようが無かったのだった。
「服装も何も、必要ない」
「必要ないわけが無いだろう。外に出るのにそんな服装でいたら真っ先に補導されるかイケナイおじさんに連れて行かれるのが落ちだ」
「……暗がりに連れて行かれるイヴちゃん」
「だから服なんていらん。外に出なければいいだけだろう」
「お前は一生ここで過ごすつもりか!? 無理だぞ! なんで家出なんてしてるか知らんが、もうそろそろ帰れ!」
「今はここが家だ」
「居候の身ですお前は。ここは俺の家」
「……『いやぁ! ダメ! やめてぇ!』 『げへへ、いやよいやよも好きのうちってね、すこしがまんすればすぐによくなるよぉ』―――」
「あとそこ! イヴが暗がりに連れて行かれたシチュエーションを妄想するな。妄想してもいいけど本人を前にバレない様にしろ……いや、そもそも妄想するな!」
そんなこんなで、服を買いに行くことになった。




