少年と日常と……少女?
「――――んっ」
深夜のバイトが終わった後日、いつもと同じように俺は時刻が午後に変わる十分前に目を覚ました。
週末だったのでカナも昼間まで寝入っている、彼女が食事を貪りに来るまであと三十分は余裕があるだろう。
ベッドから起き上がろうと布団を捲り上げた。
「…………んぅ~。寒い」
「ああ、悪い悪い」
隣で眠っていた少女が寒がったので、ベッドから立ち上がると改めて布団を被せてやった。
「……ん?」
あれ、俺パンツ一丁で眠っていたのか。少女がくっついていたためか布団の中は暖かかったが、布団から抜け出すとやはり寒い。
「着替え着替え」
タンスから着替えを取り出す。ジーンズと長袖シャツの上にパーカーを着重ねた。
うむ、これで寒くない。
「――――何か忘れているような」
今、何か重大な事をスルーしてしまった気がするぞ。
冷静になって、起きてからのことを思い出す。
え~と、バイト帰り、遅い起床、隣で眠っていた下着姿の少女、あと三十分で来るカナ。
「…………そうか」
謎は解けた。
「カナが来るのにご飯三合じゃ少なすぎる」
昨夜、余程眠たかった所為か自分と今俺のベッドで眠っている少女の分しか考えていなかった。
今から炊いて間に合うかな。
特に疑問を抱かずに台所へと向かう俺。
お米を五合図って急いで磨いでいく、炊飯器にお米を入れてスイッチを押すと既にカナが来るまで残り二十分を切っていた。
大丈夫、間に合う。長年の料理経験が俺を確信させた。
冷蔵庫から秋刀魚を取り出してグリルに入れて焼き始める。
鍋に湯を入れて火にかけた。
「おはよ~」
「ああ、おはよう」
少女が起きてきた。
「シャワー浴びてきていい?」
「どうぞ」
ペタペタとフローリングの床を裸足で歩く音を無視して料理に集中する。
味噌を取りだし、それを湯に溶かして味噌汁を作る。それに豆腐と揚げとシメジを投入。蓋をして弱火で置いておく。
魚がいい具合に焼けたところで皿を三つ取り出し、一つずつ振り分ける。
「ひがみぃぃぃんさぁぁん。ご飯食べに着ましたぁぁぁ」
玄関口からカナの声が聞こえる。
この時点でほぼ完成している。
慌てず余裕の足取りで玄関口へと赴いて、鍵を外す。
「おやあ、今日は焼き魚ですか」
「秋刀魚が安かったんでな」
カナがいつもの定位置に座る。コップとお箸とお茶碗を取り出し、テーブルに置いていく。
丁度、炊飯器のアラームが鳴る。
どうやら間に合ったようだ。
「日上、着替えが無いんだが。お前のを借りていいか」
少女がシャワーから出てきた。素っ裸、タオルを首にかけていた。
「いいけど、下着は?」
「後で買いにいく。今は無くていい」
「ノーパンかよ」
「しょうがないだろう」
ぺたぺたと俺のタンスの前まで歩いて行く少女。
さて、味噌汁ができた頃合だ。
「………………」
無言で少女を見ているカナ。
「どうした?」
「え……ああ、うんうん。ただちょっと」
「なんだよ。言えよ」
味噌汁を三人分入れてテーブルにそれぞれ振り分けて、俺もようやく座る。
「………………かのじょ、だれ?」
「…………………………」
ふむ。ようやく気がついた。
「日上、お前の服大きすぎる……しょうがない、これで我慢するか」
と言ってYシャツを着て、何事も無かったように俺の隣に座る少女。
朝から引っかかっていた疑問。
「お前誰?」
隣に座った少女を見る。
青い瞳が俺を見返した。
「昨日言っただろう。イヴだ」
これが、俺と、イヴと、カナの、初めての朝食の出来事だ。




